( 2019.01.24 )

    


 ここ数年、新築マンションの価格が高騰し、供給量も減っているなどマンション市況は冷え込んでいる。 だが、その中でも一部に旺盛な需要があるという。 それが、独身女子の存在だ。 スタイルアクトの調査、分析を基にひも解いてみよう。

 生涯単身率が約5割の中 独身の約3割が自宅を購入

 持ち家比率が8割以上と高い日本。 初めて住宅を購入する一次取得者層といえば、結婚した後の夫婦というのが定番だった。 だが、最近、その状況に異変が起きているという。

 ある30代女性の不動産関係者は、 「同じ年代の独身男子だけでなく、独身女子でも自宅マンションを買う人が増えてきた。 ある知人は、結婚も含めた将来が不安で、年を取ったら賃貸に住めなくなるからとこぼしていた」 と話す。

 不動産コンサルティング会社のスタイルアクトが、2010年と15年の国勢調査のデータを分析し、東京都区部の単身世帯数と掛け合わせて算出したところ、独身の持ち家取得者(20~49歳)は年間8580人に上る。

 17年度の都区部での新築マンション供給数は1万6393戸。 そこに中古の成約件数1万5691戸を足し合わせると3万2084戸であることから、 「自宅マンション購入者の約27%が独身者だと考えられる」 (同社)という。

 また、持ち家を購入する年齢層を見ると、男女ともに40~44歳が2366人で、そのうち女性が1291人を占め、全体でみても最多だという。


 自宅を購入するなら早めがいい

 こうした中、同社は、社会に出たら独身のうちに家を買って資産を増やす 「家活」 を提唱している。 「40歳代で自宅を購入するならば、住宅ローンを支払う年数なども考慮して早めに買っておいた方がコストパフォーマンスはいい」 と同社担当者は話す。

 その根拠は、以下の通り。 自宅マンションを30歳で購入した時と40歳で購入した時の、90歳時点までの住宅ローンと賃貸時の家賃の支払総額を比較したモデルケースだ。

 同社によれば、仮に4500万円(返済額144万円/年、35年ローン)、管理費+修繕積立金:3万円/月(36万円/年)のマンションを買うと仮定すると、30歳時点で買えば90歳時点で総額は7200万円に(=144万×35年+36万×25年)となる。

 一方、30歳から40歳まで、賃料15万円/月(180万円/年)の賃貸住宅に住んでから40歳で購入する場合、90歳時点で総額は8640万円(=180万×10年+144万×35年+36万円×15年)となる。 その差は、実に1440万になるわけだ。 しかも、当初の10年間の賃料1800万円は、資産として残るわけではない。

 他にも、一生を賃貸物件で過ごす 「生涯賃貸派」 の場合を考えてみよう。

 生命保険文化センターおよびファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏などの試算をもとに60歳までに必要な貯蓄額を見ると、持ち家の場合、最低限の暮らしを送るために2290万円、旅行やレジャーなどゆとりある暮らし送るには9334万円が必要だ。

 生涯賃貸派はこれに家賃が加わるため、60~89歳で月額10万円払うとして3600万円が上乗せされる可能性がある。 また単身高齢者は、孤独死などのリスクから賃貸物件を借りる審査が厳しいという問題もある。

 こうした現実に気づいたときに自宅の購入を検討することになるが、ならば早めに買っておいて、自宅を資産にしておいた方がいいという考えだ。


 リセールバリューは駅近中古が高い

 なにしろ、定年時に単身でいる確率(生涯単身率)は今や、うなぎのぼり。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、日本人の50歳時における生涯未婚率は、2035年時点で男性が約3割、女性が約2割に上る。

 男女合わせれば約24%で、およそ4人に1人が結婚しない計算だ。残り約7割は結婚するが、離婚もする。 厚生労働省の人口動態推計などによれば、離婚率は約35%。つまり0.7×0.35=0.245で、全国民のおよそ4人に1人が離婚する計算になる。 こうみると、定年時にはおよそ半数の人が単身世帯という可能性がある。

 こうした背景から、若い独身のうちから自宅に投資し、資産として保有する 「家活」 という考え方が生まれた。 無論、自宅を買うには、住宅ローン審査などの観点から一定の収入が必要だ。 スタイルアクトの調べでは 「年収500万円以上が購入検討ライン」 という。

 購入を検討する場合、最も重視したいのが立地だ。 最低でも駅から徒歩10分以内、 「できれば4分以内が望ましい」 (同社)。 そのため、購入すべき物件は必然的に駅近のマンションになる。

 部屋の間取りは1LDKで十分だが、50平方メートルのラインに注意したい。 壁の内側で測った登記簿ベースで50平方メートル以上の場合、住宅ローン控除が受けられ、最大400万円(年間40万円×10年間)が所得税から控除されるからだ。

 そのため 「居住面積としては54平方メートル以上が望ましい」 (同社)。 また前出の不動産関係者は、 「広すぎると価格が高くなるため、60平方メートル前後が売れ筋です。 共働きの夫婦が結婚し、子供が1人できても住める広さが理想です。 最近では、投資用の新築ワンルームマンションを独身女子が買うケースもありますが、絶対に手を出してはいけません」 と警鐘を鳴らす。

 築年数は、マンション(RC建築)の耐用年数が47年で、35年ローンを組むとすれば 「築12年以内が1つの目安(同社)だ。 新築は機能が最新というメリットはあるものの、宣伝広告費や人件費などが価格に上乗せされているため高額になりがちだ。

 一方で好立地の中古なら、リセールバリューが高めにとれる可能性がある。 「一定の価値がある物件なら、家族が増えて手狭になれば売却し、そのお金をより広いマンションの購入資金に充てられます」 (前出の不動産関係者)。 ただ中古の場合、大規模修繕計画がきちんとしているか、修繕積立金は十分かなど購入前に確認しておきたい。

 このように単純に 「家活」 をしてマンションを買うといっても、資金計画以外にもいくつか考えなければならない項目があるため注意が必要だ。 家計に占める割合で住居費の負担が最も大きい。 老後を見据えて、自宅投資により家を資産として活かす方法を考え直してみる価値は十分ある。




( 2019.07.24 )
6 "700"

 未婚女性に聞くと、6割は 「結婚相手の年収は700万円以上」 と答えるという。 なぜ女性は現実離れした高所得者を探すようになったのか。 中央大学文学部の山田昌弘教授は 「若い男性の経済格差が広がり、女性はその収入をより強く気にせざるを得なくなった」 と分析する ――。

女性の約7割が「結婚相手の収入」を重視している


結婚相手に求める年収と雇用形態
(朝日新聞2019年1月13日朝刊)
 今日の日本で、いったいどういう人が結婚しているのでしょうか。

 結婚できる男性 ―― 女性が結婚相手に選ぶ男性 ―― は 「経済データが重要である」 と言えます。 つまり、職業が安定していて収入が高い人であればあるほど結婚しやすく、職業が不安定で収入が低い人であればあるほど結婚しにくい。 これはいくつかの統計分析が示していますし、若者が結婚相手に求める条件といったアンケート調査の回答でも、女性は、近年ますます経済的な安定というものを重視しています。

 たとえば、朝日新聞が2018年12月に行ったネット調査 「未婚の若者の結婚観」 (25~34歳の男女、約1000人)では、 「結婚相手に譲れぬ条件」 として、72%の女性が 「収入」 を挙げています。 これに対して 「収入」 を条件に挙げる男性は29%でした(図表1)。

 「相手に求める年収」 という質問には、女性の63%が 「400万円以上」 と答えています。 そして 「関係ない」 と答えた女性は19%、男性は64%です。

 こうした男女の意識の差 ―― 女性は6~7割の人が収入重視、男性は2割くらいの人が収入重視 ―― は、じつは十数年前から変わっていません。


「年収700万円以上」 という現実離れしたハードル

 女性月刊誌 『JJ』 (2019年2月号)の調査 「JJ世代の結婚白書2019」 はもっと率直です。 結婚相手の男性の年収は700万円以上(1000万円以上含む)と答えた女性が60%近くいて、年収を気にしない女性は約8%にしか過ぎません。 JJ読者には夢見る女性がまだ多いということなのでしょうが、それにしても700万円以上というのは、若い男性にとってはあまりにも現実離れした高いハードルでしょう。

 もちろん、いままで女性が男性の経済データを重視しなかったわけではありません。 そうではなくて、経済データを重視せざるを得ない状況ができてしまったということです。

 30年前の被雇用者は、経済的に安定していました。 ところがいまは、経済的に不安定な若い男性が増えているので、経済データを結婚相手の条件に挙げる女性が増えてきたわけです。

 経済データほどではないにしろ、容姿と身長も男性が選別されるデータになっています。 それは、じつは子どものためなのです。 娘だったらルックスがいいほうがいいし、息子だったら身長が高いほうがいいので、自分のためというよりもやがて生まれる子どものために、男性は経済データだけでなく、外見つまりは遺伝子のデータでも選別される傾向が強くなっています。


女性は 「出産・育児ができる年齢か」 を見られる

 一方、結婚する女性のほうはどうでしょうか。 女性が選ばれるのは 「年齢」 が重要な基準となっています。 外見で言えば、いわゆる蓼食う虫も好き好きなので、どこかには自分を好きになってくれる男性がいます。

 何年か前、 長寿番組の 「新婚さんいらっしゃい!」 (朝日放送テレビ)に見るからにふくよかな女性が出てきた回を見たことがあります。 どこで知り合いましたかという質問に 「ぽっちゃり婚活」 と答えていました。 男性は中肉中背でしたが、太めの女性が昔から好きで、この集まりに参加を申し込んだそうです。

 女性の収入については、あまり気にされません。 外見も身長も関係ありません。 では、なぜ年齢か。 端的に言って、 「出産」 「育児」 です。 多くの若い男性にとって、子どもを産んで育てられる年齢ということが女性が結婚相手として選ばれる大きな条件になります。

 先に述べたように、男性は結婚の条件として相手の経済面はあまり重視していません。 まあ、最近の男性は 「女性の収入は高いほうがいい」、つまり共働きしてもらいたいという意見が多くなっていますが、最優先の条件ではありません。


男性が婚活しても 「結婚のチャンス」 は増えない

 そして、外見に対する男性の好みというのはかなり多様なので、女性にしてみれば自分を好んでくれる男性がどこかにいるわけです。 もちろん、どこかにいるけれどもどこにいるかはわからない。 それが、女性が婚活する理由でもある(いろんな男性と出会うチャンスが増えるわけですからね)。

 女性のほうが婚活に積極的ですが、その理由も、婚活すればいつかは結婚困難が解消されるという手ごたえを感じるからでしょう。 男性はそもそも経済や容姿のデータで選別されるので、婚活してもチャンスが増えることはなく、結婚が困難なことに変わりはありません。 つまり、結婚できる・できないの格差は、特に男性のほうに残るわけです。

 こうした状況については、男性の経済格差が広がったために、男性の経済格差を意識する女性というものが顕在化しているという言い方もできるでしょう。

 男性の場合、いわゆる外見によって生じる結婚の格差は、昔からありました。 ただし、昔の若い男性はほとんどが正社員でした。 つまり、男性の経済格差が小さかったので、若い女性はその収入を気にせずに、外見のほうを気にする度合いが大きかったともいえるわけです。


「愛があれば貧乏でもいい」 恋愛至上主義の消滅

 いまは若い男性の経済格差が広がってしまったので、女性はその収入をより強く気にせざるを得なくなっています。 アンケートの回答にしろ婚活ブームにしろ、それが社会に表面化しているというのが現状です。

 それにしても 『結婚の社会学』 を書いてから約20年の間に、こうした 「本音」 をオープンにしていいか・悪いかという判断基準が大きく変わったと思います。 20年前は、自治体の報告書や新聞に本音を書こうとすると 「待った」 がかかりました。 「お金なんて関係ない、結婚は愛ですべきだ」 というようなイデオロギーが残っていたのです。

 いいか悪いかはともかくとして、いまはそうしたイデオロギーに反する現実でも発表できるようになりました。 社会的にも語られるようになったし、政府の機関もそれを表明しています。 逆に言えば、結婚に関する本音がオープンに語られるようになったということは、 「愛があれば貧乏でもかまわない」 という恋愛至上主義が事実上なくなってしまったといえるのかもしれません。 二十数年こういう調査を続けていると、社会の反応が如実に変わってきたのを痛感せざるを得ません。


お金持ちを狙う女性ほど 「年収は関係ない」 と言う

 本音ということで言えば、こんな面白い現象もあります。

 婚活では、お金持ちを狙う女性ほどそういう本音は言わないし、言おうとしない。 「結婚に年収は関係ない」 と言いたがる傾向があります。 インタビューをしていたときに、ほとんどの人が 「相手が大金持ちだから結婚したんじゃない」 と話したそうです。

 「好きになった人がたまたまそうだった」 もしくは 「結婚したときはお金持ちじゃなかった」 といった回答です。 つまり、 「結婚するときは別に気にしなかったけれども、結果的に事業で彼が成功して、どんどん収入が上がっていって、たまたまセレブの地位にいるけれども」 というふうに説明するのです。 要するに 「結婚に年収は関係ない」 と言いたいのでしょうが、私に言わせれば、それは本音ではなく、建て前が残っているだけなのです。

 高収入を狙う人たちとは別に、安定した収入がないと生活できないと本気で思っている人たちもいます。 つまり、 「年収1000万円と言っているのではない。 普通でいいから600万円」 というような人たちです。


「結婚しない人がいてもいい」 考えは広がっている

 それでも、未婚男性の平均収入は時代とともに減少してきているので、結果的には結婚できた人とできない人に分裂します。 要するに婚活では、男性は収入が安定している人のほうが結婚できるし、女性はとにかくそういう人と出会って、そういう人が自分を選んでくれるというチャンスに恵まれたら結婚できるというわけです。

 ちなみに、2018年のNHKの 「日本人の意識」 調査では、結婚することについて 「必ずしも必要はない」 と答えた人の割合が68%でした。 この調査は1973年から5年ごとに行われているものですが、過去25年間で最も高い数値だそうです。

 結婚が必要ないという答えは、もちろん、自分が結婚しなくてもいいという考えを示すものではありません。 単に 「結婚しない人がいてもいい」 というだけで、逆に言えば、 「結婚するんだったら、ちゃんとした結婚をしたほうがいい」 と考えている人が多数派であることが推測できるわけです。 つまり、さまざまな調査が示しているのは 「自分は結婚したいけれども、他人はどうなろうとかまわない」 と考える若い人が増えているということなのです。




( 2019.09.18 )

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 「住宅購入」 が気になる

 この夏、30歳の誕生日を迎えた。

 結婚も出産もしていない、非常に身軽な独身ジャストサーティーである。

 さいわい友人はたくさんいるので誕生日プレゼントはいろいろもらえたし、当面独身貴族だし! と割り切って、ジュエリー、ブランドバッグ、バー通いなど、それまでは躊躇していた 「贅沢」 にもちょっとずつチャレンジして、浪費女子としてのレベルアップ(?)をはかろうとしているところだ。

 いろんな散財に挑む気満々なのだが、何にも縛られてないからこそなかなか手を出せないものがある。

 それが 「住宅購入」 だ。

 同年代の飲み会でちらほらと話題にのぼるようになってきたけれど、独身・彼氏なしにはいまいち入りにくいのがこのトピック。

 ジュエリーよりもブランドバッグよりもバー通いよりも、はるかに値のはる 「贅沢品」 と言える一方で、うまく価値をみきわめれば節税・投資効果がたっぷりの財テクにもなりえる、非常にスリリングな買い物だというのは、話を耳にはさむだけでもうかがい知れる。

 頭金がどうのとか、DINKsにとっての予算上限とか、今の賃貸に比べてどうのとか、保活を考えてどうとか、なかなかいい物件がなくてとか、親の援助をどう引き出すかだとか、海外転勤で急いでいる人から値切ることができたとか ――。

 住宅購入にまつわる議論は、はたから聞いていてもとっても刺激的で戦略的なので、わたしだってその輪のなかに入ってみたいなあと思う。

 実際、たぶん買おうと思えば買えなくはないのだが、やはり、しばらく独身だろうと見越した状態で家を買ってしまうと、マジで 「永久に独身」 のステータスが固定化してしまことになるんじゃないかという不安がある。 いやそこまで結婚したいわけじゃないけど、でもなあ …… とまた揺れる。

 それに、いくら現実的な予算・ローン・返済計画を組んだとしても、それを一人で背負うことには、多大なプレッシャーもある。

 もちろん、一人で賃貸に住み続けるほうが、結果的にはコストがかかるので、家を買ってしまうほうがよほど負担が少ない …… というロジックもあると思うのだが、人間はそう簡単に割り切れないものである。

 そんな風に、周囲の住宅購入トークに対してかなりの眩しさを感じながらもとくに何ら行動できずに暮らしているのだが、先日、 「32歳のころ、不倫相手と暮らすために新築タワーマンションを自分名義で買い、一人でローンを組んで、今も返している」 という猛者に出会った。

 現在35歳、大手広告代理店勤務のSさんだ。 「女とお金」 についての連載をしていると言ったら、快く取材に応じてくれた。


 いつかは結婚しなきゃ、と思ってたけど …

 もともとクリエイティブな才能がある年上男性に弱いというSさん。 Aラインのワンピースがよく似合う、やわらかい雰囲気の女性だ。

 「会社に入ってから、長い間同じ企業の案件にかかわっているおじさんとうっかり寝てしまって。その人が既婚者だって後から気づいたんだけど、その時にはもう好きになってて、そのままずるずると付き合っちゃった」

 相手は、10歳年上の映像クリエイター。 Sさんと付き合う以前からすでに家庭は崩壊し、専業主婦の奥さんとは冷めきった仲だった。

 付き合いだして不倫相手は、すぐにSさんの家に入り浸るようになった。 彼には子供が二人いて、家族の生活費のすべてを捻出しなければならず、しかもフリーランスゆえに、才能と実績があっても仕事の入り方は不安定。 身入りは月によってまちまちだった。

 その点、彼女のほうが収入は安定しており、週5日を一緒に過ごす 「ほぼ同棲」 生活に至るなかで、生活費のほとんどをSさんが支払うこととなったのだとか。
 「収入をはっきりと聞いたわけじゃないんだけど、同じ業界にいて相場は大体わかるから。 子供が私立に通ってるとも聞いていたし、絶対にお金がないわけ。 彼の才能を尊敬していたし、それを応援したいし、一緒にいるとめちゃくちゃ楽しいから、自分がお金を出すことにも抵抗はなかったですね」

 長い時間を一緒に過ごしていて、愛情に不満がなくても、不倫は不倫。 彼の妻から訴えられるリスクもあるし、どちらかの心変わりで関係が終わることもある。

 Sさんも20代の時点では、 「いつかは結婚して子供を産まないと」 という気持ちがあり、 「私との将来のことをどう思っているの?」 と相手を問い詰めたりもした。

 「私を愛してはくれていたものの、やっぱり離婚には踏み切れないとハッキリ言われて。 28歳のころかな。 私を好きと言ってくれる同世代の独身男性が現れたのを機に、一度別れたんですよ。 彼は都内に実家のある、スポーツマンの渉外弁護士。 結婚したら家庭も持てるし将来も安定するし、幸せになれるな、と確信できる人だったんです」

 不倫の関係を精算し、素敵な彼氏とセレブな新婚生活へ …… と歩みを進めるはずだったSさん。 しかし、その未来は実現しなかった。

 「本当に素敵でやさしい彼氏だったんですけど ……、私にとっては、一緒にいてめちゃくちゃつまらなかったんです。 これまで毎日がジェットコースターのような刺激的な生活だったので。 会話の受け答えもなんというか単調だし、いたって常識的な感性の持ち主だし、彼の趣味にも興味をもてなかった。

 『それが夫婦の安らぎってものだよ』、 『甘えんなよ』 って言う人が多いだろうけど、広告・マスコミ業界にいる一癖も二癖もある人たちとのコミュニケーションに慣れてしまった私には耐えられなくて、 『あぁ、そもそも畑が違うんだ』 と。

 自分の価値観を無視して条件だけで結婚相手を探すとこうなるんだ、というか、それ以前に、私もクセの強い側の人間で、結婚とか出産とか、夫とか子どもとかからもらえる 『家庭的な幸せ』 にそんなに興味がないんだとそこで思い知りました。

 むしろ一点豪華主義というか、性格や条件云々よりも、才能に惚れてしまうところがあって、やっぱりそれを満たしてくれる元の不倫相手と一緒に過ごしたいなと。 彼の方も価値観の違いを感じ取っていたようで、お互いに冷めてしまった結果、私が振られる形でお別れしました」


 そう割り切って不倫の道を邁進することにしたSさんは 「この人と享楽的に楽しく生きていこう!」 と、ふたたび彼の生活費を負担しながら同棲する暮らしへと戻った。


 1ヵ月で購入に踏み切った

 家を買うという選択肢が出てきたのは、交際8年目。25平米のワンルームでのふたり暮らしも次第に限界を感じ、 「もっと広い家に住みたい」 と思ったのがきっかけだった。

 「同棲って言っても、相手がうちに転がり込んでる状態で。 でもほぼうちで暮らしてるから、相手の荷物、とくに洋服がたくさん持ち込まれてるんですよ。

 彼、見た目が若くて着道楽なので、かさばって重たいジャケットとかが死ぬほどあって。 コイツの服の体積に部屋の何割か占められてる! って状態でした。 デスクとベッドを置いたらぎりぎりの部屋だから、私が寝てる横でごはん食べたりしてるし ……」


 意を決して相手に引っ越しを提案したところ、 「Sちゃんの好きにしたら?」 と全く気のない返事がかえってきた。

 「もう全然協力する気ないですよね。 でも、ちょうど直属の先輩が一人で暮らしている豊洲のタワーマンションにお邪魔する機会があって、 『私も海の見えるタワマンに住みたい!!!』 と欲望を刺激されたところだったんです。 会社でも給料のベースがかなり上がってきた時期だったのもあり、これはもう一人でマンション買っちゃおうと決意しました」

 インターネット広告で出てくる 「女性のためのマンション購入セミナー」 の類にせっせと通い、知識を得て物件選びに猛進するSさん。

 お互いの職場に近く、元の家の1.5倍以上の広さがある海が見える新築タワーマンション1LDK40平米の一部屋を選び、1ヶ月で購入に踏み切った。 そのお値段、なんと5700万円だ。

 「年収が上がったといっても、誰かと暮らすためのマンションを1人で買う年収とはいえず、この金額のタワマンを買うのはちょっと勇気がいりましたよね。

 周りの独身で、投資用マンションを買っている人はちらほらいましたけど、そういう物件の相場はだいたい3000万円弱でしたから」


 リノベーションした中古マンションを買うという選択肢もあったが、Sさんはそうしなかった。

 「手放しやすさを考えたときには、やっぱり駅近のブランド力あるシリーズの、新築一択だなと思いました。 いざというときのことを慎重に考えたからこそ、高い方に踏み切ったんです」

 住宅購入を通じて、たくさんの知識を身に着け、自分のお金の使い方やライフスタイルを徹底的に見つめ直したSさん。

  「マンションを選ぶときに一番重視したのは 『手放したくなったときに確実に売る・貸すができるマンション』。

 このマンションを自分の 「終の棲家」 とするつもりはまったくありませんでした。 結婚はしない、子供もどっちでもいい、と思いつつ、まだ32歳。 自分の人生がどう転ぶか分からないと思っていたんですね。

 好きになってしまったら相手に収入がなくても、極端な話、犯罪歴があっても結婚しかねない性格ですし、いきなり転職する可能性だってある。 若いときから無茶な働き方をしてきたので体を壊すリスクも高いはず。 なので、売ろうと思ったときに不良債権になるようなマンションでは困るんです。

 東京23区内、駅近、新築がベストだろう、と。 マンションを買おうって思わなければこんなこと考えもしなかったと思います。 マンションを選びは、今の自分を見つめ直し今後どうありたいか改めて考える良い機会でした」


 そんなことを考えるうちに、それまで以上の 「自立心」 が芽生えていった。

 その間不倫相手はというと …… 一切、住宅購入に関心を持たなかったそう。

 「最後の2物件まで絞ったときに、 『どっちがいい?』 って聞いたんですけど、 『どっちもいいんじゃない?』 って。全然空返事でした。

 名義は私が100パーセントで買うとはいえ、これから二人で暮らすマンションの話をしているのに …… と、ちょっとがっかりしたのは事実です。 不動産屋にも 『パートナーと住む物件なんです』 って説明してたし、一緒に住む気満々だったから」


 二人で内見をして契約も終わり、あとは入居するばかりとなった休日の昼下がりに、しかし事件は起きた。


 内緒で 「マイホーム」 を買っていた

 「部屋を簡単に片付けているときに、彼のカバンの中からはみ出している郵便物を見つけちゃったんですね。 パッと宛先を見たら、なんか、一軒家の住所なんですよ。 彼の家族は、賃貸マンションに住んでいたはずなのに」

 おわかりだろうか。 つまり不倫相手は、Sさんがふたりで住むためのタワマン購入に精を出しているあいだに、家族のためのマイホームを購入していたのだ。

 「ありえないですよね。 私が自腹出して一緒に住む家を選んでいる間に、そしらぬ顔で嫁と住む家を準備してたんですよ。

 『コレはどういうこと!』 と問い詰めたら、 『これは嫁とお母さんが暮らす家であって、手切れ金のようなもの。 俺は住む気はない』 と反論されましたけど、腹立ちは収まりませんでした。

 こんな主体性のない男と毎日過ごすより、一人で暮らすほうがよほど生産的で楽しいんじゃないかって思い始めましたね」


 自立心と猜疑心がMAXになったSさんは、そのまま不倫相手を自宅から追い出した。 買ったばかりのタワマンには二度と足を踏み入れさせず、一人で引っ越した。

 「不動産屋さんには二人で住むって言ってたから、いたたまれない気持ちでしたけど、それで引き下がるわけにもいかないし。 物件引き渡し時に同時に納品してもらう予定のダブルベッドをシングルに変更してくださいと言えず、今は無駄にでかいベッドで一人で寝ています(笑)」

 手数料など含めた頭金が700万円。 残ったローンは5300万円。 毎月10万5000円ずつ、ボーナス時はさらに上乗せして返済しているという。

 「頭金700万円のうち、300万円くらい税金と謎の手数料だったんですよ。 他にも固定資産税とか不動産取得税とか、家を買わなかったら知らなかったようないろんな税金が無限に出てきて、実際払う段にゲーッとなりました(笑)」

 それでも、今のマンションを買ったことは後悔していないとSさんは言う。

 「本当に何一つ後悔してないですね。 ひろくて綺麗で快適なおうちで住む快感、あこがれのブランドシリーズ ……。 東京育ちの人は馬鹿にするかもしれませんが、長野の田舎で育ったから、海と夜景にものすごい憧れがあったんです。 毎晩家に帰るたびにうっとりしています」

 不倫も全く後悔していないのかと聞くとこう話した。

 「年下で不倫で悩んでる子から相談を受けたら、 『いくら稼いでるの?」 とまず聞くかな。 自分が稼いでて、不倫の責任もとれるなら好きにしていいと思う。

 でももし不倫して、飲食代とか家賃とか、相手の収入にちょっとでも頼ってるんだったら、さっさとやめなさいって思います。 やっぱり不貞行為なんで、めちゃくちゃリスクあるから。 訴えられたら当然、慰謝料は請求されるし、会社を辞めて友達にも家族にも見放されることもあるし」


 一方で、家を買おうか悩んでる人にかけたいのは 「一刻も早く買ったほうがいい」 という言葉だ。
 「金利が今安いというのもあるけど、買いたいと思ってるなら絶対早く買ったほうがいい。 自分で物件を選び抜く作業も貴重な体験だし、納得した家に住むのは本当に楽しいです。

 アラサーの女が一人で家を買うと、周りからは 「タワマンは、価値が暴落するからその買い物は失敗だよ」 とか、 「無理して見栄を張っても、ローンが払えなくなったら人生お終いだよ」 とか、不安にさせる反応が多いんですけど ──。

 でもそういう人ってより突っ込んだ話とかすると急に黙るんです。 たぶん、大抵の情報元はマンション購入についてネガティブに書かれたネットの記事なんですよね。 その記事の知識だけで一方的に住宅購入についてを語ってるんだなって思って。

 一回でも自分でマンションを買う経験をした人は、大きな人生の選択をしようとしている人間を馬鹿にするようなことは言いません。 終の住処であっても、投資であっても、高額な借金をする決断とそれを払う決断をしているワケですから。 それこそみんな、自分のライフプランに真剣に向き合いますよ。

 もちろん、資金計画は自分できちんと考えてください。 手元には最低限度の現金を残して、コツコツ繰り上げ返済するとか。 …… この 『最低限度の現金』 というのも、人によって違っておもしろいんですよねえ」


 ちなみにSさんが手元に残しているのは300万円。 「不貞行為」 で訴えられたときに支払う慰謝料の、一般的相場の上限だ。

 好きと決めた相手をとことんサポートし、家を買うと決めたら全力で選びぬき、自分の幸せのために 「ダメだ」 と思ったときは潔く方向転換できる。

 世間から見た一般的な幸せの基準からは大きく外れながらも、情熱的に楽しく生きているSさんの話を聞いて、私もタワーマンションを買ってしまおうか …… と、心動かされた30歳なのだった。


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