通称 “つなぎ” と言われている、上着とパンツが連結した着物だが、中にはセパレーツになっているものもある。

 これら様々なデザインをこらした衣類をはじめ、穴が2つ空いている帽子、レインコート、ネクタイ、リボン、それに小物としてのサングラス、ストラップ付きのポシェット、ナップザック、小動物のおもちゃ、おしゃぶりの類まで何でも揃っている。

 生活用品として、ボディータオル、肌ケア・リンス入りシャンプー、小さいがベッドに枕、掛け蒲団まである。 でも、これは幼児向けの洋品店ではない。 日本の中心、東京の銀座で見かけた店である。

 驚いてはいけない。 香水まである。 食料品も並んでいる。 山海の珍味を揃えたグルメ嗜好だ。 無添加和鶏の極上ささみを始め、かつお、マグロなどの海産物、ミックスベジタブル、それに “懐石料理” まである。

 肥満予防のダイエット食品として抵脂肪調理の缶詰などもお好みによって各種選べるように内容表示されている。 だが箸やナイフ・フォークの類は見当たらない。 さらに、下駄や草履はないが、靴まである。 ただし、靴は二足で一揃えになっている。

 もうお解かりだろう。 そう、主として犬や猫を中心とする、こうしたペット関連グッズのショップが、今、日本ではブームになっているのだ。 その展示見本市も各地で開かれ、連日盛況を呈している。 そこに集まる人たちは、例外なくペットをこよなく愛好する人たちだ。

 そして、ぺットたちも、飼い主である 『 ご主人さま 』 には、食事を与えてもらえる限り、決して反抗したり口答えなどしない。 その従順さに、可愛さがさらに募るのだ。

 情報過多の社会で、日頃なにがしかのストレスを抱えているご主人様は、時にはそうした従属的愛玩物を通じて自己顕示を図ることによって、ささやかな満足感を得ようともするのだ。 競って自分の飼っている犬や猫に、考えられる限りのあらゆる可能性を試みて、擬人化を楽しんでいる様子が読み取れる。

 日本の友人で、一匹のコッカースパニエル犬を飼っている女性は大真面目でこう言う。
「 パソコンと向き合うことの多い私は、よく肩が凝るのでマッサージ治療が欠かせないのですが、この “子” にもその都度マッサージを受けさせています。いえ、ペット専門のマッサージがありまして、料金は消費税込みで10分間で1,050円です。 その間、この “子” はおとなしく、 『 極楽、極楽 』 と気持ち良さそうにしていますよ 」
 また、別の友人は休暇などで、家族揃って旅行に出掛ける時のペットの扱いに気を遣うと言う。

  「 国内旅行で愛犬を連れて行くとなると、行き先のホテルや旅館を選ぶ際にかなり制約されるのがちょっと面倒です。 でも、最近は “ペット連れ込み可” というだけでなく “ペット専用の温泉付き” という宿泊施設も増えてきているので、かなりその心配も少なくなってきています。 もちろんペット特別料金はかかりますがね。

 しかし、厄介なのは外国旅行です。 どうしてもどこかに預けて行かなければなりません。 そうした “ペットホテル” は、すべて個室でペットシッター(飼い主に代わってペットの面倒を見ることを専門にする人 )が見守っていて、一泊当たり( 3食付きで? )2万5千円というのが一般的です。

 中には獣医師が常に待機しているスウイートルームもありますが、この場合は、さらに一日当たり万円単位で特別料金が加算されます。 人間の有料介護ホスピスの比ではありませんよ。 これではもう、徳川の三代将軍、綱吉( 犬公方と言われ、生類憐れみの令を出したことで知られる )も真っ青ですよ 」
 と言いながらも、愛犬の喉を優しく撫でながら、自らが癒されていることに十分満足な様子が感じられた。

 核家族化、少子化、老齢化社会が驚くほど早い速度で、進行しつある日本社会。 この国に住む人たちの多くは、希薄な人間関係、人間不信、孤独、自己中心主義、間接コミュニケーションの世界に囲まれて生きている。 その “あふり” がペット天国を造り出しているとも考えられる。

 また、日本は 『 格差社会 』 が拡がりつつあるとも言われているが、まだまだ他の開発途上国とは比較にならないほど、物質的豊かさだけは溢れ残っている。

 外国では見かけることの難しい、こうした異常に発達した 『お犬サマ天国』 は、そうしたイビツな社会を反映する証拠なのかも知れない。