( 2018.01.30 )




 インフルエンザが猛威を振るっている。 厚生労働省が1月26日にまとめた発生状況によると、全国で推計患者数は約283万人。 これは1999年に調査を開始してから過去最多だという。

部長クラスの約7割が「風邪でも会社にいく派」

 これを受けてメディアは 「なぜインフルが大流行したのか」 みたいなテーマでさまざまな分析をしている。 最初にワクチン不足があったせいだという意見もあるが、目下有力なのは、A型とB型が同時に流行したことで患者数がグーンと押し上がったから、らしい。

 ただ、個人的には、ここまですさまじいほどの大流行をした根本的な原因は、日本社会に溢れかえる、 「あの人々」 のせいのような気がしてならない。

 それは、 「風邪でも絶対に休まないおじさん」 である。

 みなさんも職場や通勤電車で見かけたことがあるだろう。 誰が見ても熱があって具合が悪そうなのに出勤してきて、マスク越しにゴホゴホしながら仕事を頑張る、おじさんたちだ。

 そういう缶コーヒーのCMに出てきそうな 「頑張り屋さん」 が日本経済を支えているんじゃないかとかばう人もいるだろうが、この手のおじさんは周囲にとって迷惑以外の何物でもない。 体調が悪いので仕事の効率は悪いが、周囲はそれを責めるわけにもいかず、むしろフォローをする局面が多い。要するに、中途半端な参戦によって、周囲に余計な仕事が増えるのだ。

 だが、なによりも迷惑なのは、この手のおじさんは職場における 「パンデミックの引き金」 になってしまうことにある。

 おじさんご本人はマスクをしているので問題ないと思っているが、完全密閉ではないのでどうしても 「しぶき」 などが隙間から、空気中に飛散する。 さらに、手についた唾が、ドアノブ、複合機のボタンなどで周囲の人に接触感染を引き起こす恐れもあるのだ。

 もうなにを言わんとするかお分かりだろう。

 ご存じのように、今冬のインフルはかかっても高熱が出るなど重症化しない。 そのため、 「熱っぽいな」 くらいの人々が日常生活のなかでウィルスをまきちらすことが懸念されていた。 つまり、自覚症状なき人の代表格ともいうべき、 「風邪でも絶対に休まないおじさん」 が、日本社会のいたるところでインフルの感染拡大を招いた恐れがあるのだ。


管理職の7割が 「風邪でも会社にいく派」

 なんてことを言うと、仮に 「隠れインフル」 が原因だとしても、そこでなぜ我々 「おじさん」 ばかりを目の敵にするのだ、と不愉快になるおじさんも多いことだろうが、それにはちゃんと理由がある。

 「風邪くらいで絶対に休めない」 という常識を社会に広めている犯人だからだ。

 2016年、第一三共ヘルスケアが30~40代の4603人を男性を対象に調査をしたところ、約6割が 「風邪で仕事を休めない」 と考えていることが判明した。

 つい先日も、 『ネプリーグSP~林先生 vs. 11人の最強インテリ芸能人!冬の陣~』 で、 「38度以上の熱で会社を休む人の割合」 が45%、38度以上の熱があっても過半数の人が会社を休まないという調査結果が紹介されて話題となったので、特に驚くような結果ではないかもしれないが、この第一三共の調査で注目すべきは、この風邪でも 「休まない派」 を役職別に調べた点にある。

 一般社員( 47% )、係長/主任クラス( 49% )、経営者( 51% )などと比べて67%と圧倒的に 「休まない派」 が多いのが、なんと 「部長クラス」 だったのだ。

 少しくらい熱や咳があっても出勤する、というと体力を過信している若者や、組織内での評価が定まっていない新人のイメージが多いかもしれないが、実は組織内である程度のポジションにつけばつくほど、 「風邪くらいで休めない」 と考えている事実が浮かびあがったのだ。

 この結果は、冒頭で紹介した厚労省がまとめた患者数からもうかがえる。 年齢別でみると、子ども世代を除いて最も多いのは40代( 約29万人 )で、次いで50代( 約24万人 )となっている。 我が子から感染した親世代ということもあるだろうが、40~50代といえば働き盛り世代で、組織人ならそれなりのポジションにもついている。

 部長クラスの7割が 「風邪でも会社にいく派」 ということを踏まえると、 「これくらい大丈夫」 と無理に無理を重ね、最終的にごまかしきれなくなって病院に転がりこむ40~50代もかなり多いのではないかと推察されるのだ。


「風邪くらいで休めるか派」 を問題視する理由

 日本人は組織内での責任が増すほど 「風邪でも休まない」 という傾向がある。 この事実は、みなさんが想像している以上に日本社会に悪影響を及ぼしている。

 「プレ金だ時短だなんだいっても上司が早く帰ってくれないとこちらは帰宅できない」 という声をよく聞くように、日本社会は 「上へならえ」 が基本である。 だから、部長クラスのおじさんが 「風邪くらいで休めるか」 という思想にとりつかれると、その部下である若者世代はもちろん、おじさん社会のなかで肩を並べて働く女性たちも、否応なしにそこへ合わせなければならない。 つまり、 「風邪くらいで休めるか」 という思想が、管理職世代から組織全体、そして社会全体へとまるでウィルスのように広まってしまうのである。

 これこそが、 「風邪でも絶対に休まないおじさん」 を問題視する最大の理由だ。

 厚労省の予測では、新型インフルが発生した場合、最悪200万人の入院患者が出て、64万人が亡くなるという。 このような事態をさらに深刻化させるのが、感染してもコホコホと咳をしながら、人混みや職場へ出かけてしまう人たちであることは言うまでもない。 来るべきパンデミックの対策としても、1日も早く 「風邪でも絶対に休まないおじさん」 の減少に努めなくてはいけないのである。

 では、いったいどうすればいいのか。

 これまで示してきた調査を見ても分かるように、 「風邪くらいで仕事は休めない」 というのは、もはや日本の常識といっても差し支えないほど定着している。

 常識を壊すには、これまで正しいと信じられているような考えをひとつひとつ否定していくしかない。 そこでまず真っ先に手をつけるべきだと考えているのは、 「皆勤賞」 というものに対する否定である。

 だいぶなくなってきたがいまだに、日本社会には 「無欠勤」 というだけで評価されるカルチャーがあった。 なにかしらの功績をあげたとか、人一倍努力をしたとかではなく、 「体が丈夫」 「毎日休まず通勤( 通学 )した」 というだけで、 「すごい」 ともてはやされてきた。


「休まない」 ことに価値がある

 なぜこういうおかしな風習ができたのかというと、明治時代の近代化による影響が大きい。 江戸時代あたりの日本人はわりとアバウトで、約束もよく破ったし、いまのように働き者ではなかった。 そこで、明治の経営者たちは、休まない労働者を褒めて、サボりぐせのある人たちにはペナルティを課すという、いわゆる 「信賞必罰」 というマネジメント方式を導入した。 これが皆勤賞の始まりだ。

 富国強兵が進むとこの傾向はさらに強まり、無欠勤はなにをおいても尊いものだとなった。 それを如実に示すのが、戦時中、生産体制を支える労働戦士を鼓舞する新聞紙面を飾った無欠勤賞賛記事である。
無缺勤で追撃増産( 読売新聞 1944年10月19日 )
働く沖縄乙女に贈る眞心 共に励まし合つて誓ふ“無缺勤”( 朝日新聞 1945年8月8日 )
 どの記事も、 「休む」 ことは個人エゴであり、それを押し殺して組織に身を捧げることが国のためであり、日本人としての誇りであり、生きがいだと説いた。 それは軍国主義だったので仕方がないとマスコミは言い訳をするが、そうではない。 当時の日本社会は受け身ではなく、自主的にこのような 「常識」 を受け入れていた。 事実、こういう無欠勤信仰は戦争に負けてきれいさっぱり消えるなどということもなく、戦後もしっかりと続いていた。

 それがうかがえるのが、1957年のインフルエンザ流行だ。 この年もいつものようなインフルエンザにかかる人が多くいたが、なかでも東京・八王子の流行が深刻で、小中学校8校が休校として、ついには中学1年生の男子が亡くなってしまう。 そこで八王子教育委員会はこのような対応をとった。

 「こんご児童の無理な登校を恐れて、学業皆勤賞などすべての( 褒 )ほう賞制度を廃止することとなった」 ( 読売新聞 1957年10月29日)

 これは裏を返せば、少しくらいの熱があっても、皆勤賞を目標に無理をして登校をする子どもがたくさんいた、ということである。

 当時は戦争が終わってまだ12年しか経っていない。 今の我々の 「常識」 と2005年ごろの日本社会の 「常識」 がそれほど変わっていないように、1957年の日本は戦時中の 「無欠勤信仰」 を当たり前のように引きずっていた。

 つまり、高度経済成長期に日本人があれほどがむしゃらに働くことができたのは、戦前に刷り込まれた 「休むのはエゴ」 という教育によるところも大きいのである。


風邪でも休まないのは 「社会悪」

 このような皆勤賞カルチャーは高度経済成長期、外国人から 「クレイジー」 と呼ばれる企業戦士を生み出す要因ともなった。 台風でも国鉄のストで交通機関がまひしても、歩いて会社を目指す彼らの頭には、戦時中の労働戦士と同じく、 「休むのはエゴ」 という思い込みがあった。

 その後、バブル景気や 「失われた20年」 など紆余曲折はあったものの、 「休むのはエゴ」 という労働文化が消滅することはなかった。 むしろ、近年になると、人口増型の経済モデルが破たんして、あらゆる業種がブラック化したことで再燃している。 その背中を押しているのが製薬会社だ。 従来の風邪薬ではなく、 「仕事を休まなくていい薬」 というコンセプトを前面に押し出した新商品を続々と世に出してきたのだ。

 その代表が、 「風邪でも、絶対に休めない あなたへ」 というキャッチコピーで知られる、エスエス製薬の 「エスタックイブファインEX」 だ。 これらの薬は、熱や重症になった喉の痛みに効果が高いとされるイブプロフェンが配合されている。 要するに、 「風邪をごまかすことができる薬」 なのだ。

 こういう市販薬トレンドもあって、いまや日本社会は無欠勤信仰があふれた戦後と同じくらい、 「風邪でも絶対に休めないおじさん」 が溢れかえっている。 戦後レジームからの脱却なんてことをいうが、ワークスタイルだけをみれば戦前レジームに先祖帰りしている、というのが現実なのだ。

 風邪で休んだらクビ・降格というブラック企業をなくしていくためにも、 「皆勤賞」 から始まる 「休むのはエゴ」 という明治期につくられた常識を壊していくしかない。 つまり、風邪でも休まずに会社に来る、学校へ来るというのは 「社会悪」 だというくらいの発想の転換を促さなくてはいけないのだ。

 休みたくても休める雰囲気ではない。 自分が休んだらもうなにも回らない。 そういう悲鳴が日本中であがっているのは、よく分かるが、先ほども申し上げたように、病人が無理を押して仕事をしても効率が悪いだけだし、組織全体にはマイナスだ。

 日本の生産性向上のためにも、新型インフルで犠牲者を減らすためにも、政官民が一体となって、 「風邪でも絶対に休まないおじさん」 を 「風邪は絶対に休むおじさん」 に変えていかなければいけない。

 安倍さん、裁量労働制拡大なんかよりもこちらのほうがよほど重要な 「働き方改革」 のような気がするのですが、いかがでしょうか。





( 2018.02.02 )

 



 インフルエンザと診断されたけど、同期に差をつけられたくないから出社したい ──。 インターネット上のQ&Aサイトにこのような相談がありました。

 相談者は新卒社員。 インフルエンザと診断されてしまいましたが、 「同期に遅れをとりたくない」 と出社を考えています。

 「休んだ後出社したら、同期がバリバリ働いていた、なんてことになっていたら悔しい」、 「マスクとかで隠したら、インフルエンザだってバレないのでは?」 とこっそり出勤しようとしています。

 インフルエンザだと診断され、医師に出勤しないように言われたにも関わらず、勝手に出社したことが発覚した場合、会社から処分を受ける可能性はあるのでしょうか。


懲戒処分が有効となる3つの要件

 そもそも、会社の懲戒処分はどのような場合に有効になるのでしょうか。

 「(1) 『使用者が労働者を懲戒することができる場合』 で、(2)その懲戒処分に 『客観的に合理的な理由』 があり、(3) 『社会通念上相当』 と認められることが必要です( 労働契約法15条 )。

 そして、(1) 『使用者が労働者を懲戒することができる場合』 という要件との関係では、懲戒事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則で明記されていることが必要です。 今回のケースとの関係では、懲戒事由として、就業規則にどのような根拠規定が設けられているのかを確認する必要があります」


就業規則に規定されている場合が多い

 実際は、どのような規定が設けられている場合が一般的なのでしょうか。

 「就業規則には、病者の就業禁止や報告義務等が規定されている場合が多いでしょう。 例えば、 『会社は、病毒伝播のおそれのある伝染性の疾病( 新型インフルエンザおよびその疑いを含む。 )に感染した従業員については、就業を禁止する』、 『従業員は、伝染病の疾病( 新型インフルエンザおよびその疑いを含む。 )に感染した場合またはその疑いがある場合、直ちに所属長に報告しなければならない』 といった規定です。 また、懲戒事由として 『就業規則に違反する行為があったとき』 などと定められていることでしょう」


インフルエンザで出勤すると懲戒処分を受ける可能性も

 では、インフルエンザで出勤すると、処分が有効になるのでしょうか。

 「先ほど説明したような懲戒事由が定められている場合、今回のケースは、就業規則に定められた懲戒事由に該当することになり、(2)懲戒処分に 『客観的に合理的な理由』 があるといえるでしょう。

 ただ、懲戒処分は、(3) 『社会通念上相当』 であることも求められます。 そのため、懲戒処分の種類・程度が重すぎるような場合には、懲戒処分が無効となることもあります」

 インフルエンザでの出勤が発覚すると、 「同期に遅れをとる」 どころではない話になってしまう可能性があるだけに、医師の診断にしたがって、しっかり休養すべきでしょうね。