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( 2020.03.30 )

  



ノートPCの電源ケーブルを会社に放置したまま “在宅勤務”

 オフィス机の上にある少し埃をかぶったパソコン(PC)の電源ケーブル。 この黒い物体をにらみながら、若手社員はつぶやいた。

「この人、絶対仕事してないでしょ」

 電源ケーブルの持ち主は、大手石油元売り会社の中高年社員。 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、会社は社員たちにテレワークを促した。 これを受けて、このおじさん社員も在宅勤務にシフトしていた。

 自宅で仕事をするには、会社支給のノートPCが欠かせない。 在宅勤務の社員たちは当然、ノートPCを持ち帰っている。 このおじさん社員もノートPCはかばんに入れたが、電源ケーブルをオフィスに忘れてしまった。 これでは家で仕事にならないはずだ。

 ところが、本人がそのことに気付かないまま1週間以上、電源ケーブルはオフィスの机に置きっ放し。 先に気付いた席の近い社員たちが、彼の机を冷ややかに見やる日々が続いている。

 柔軟な働き方を促進するものとして、テレワークは働き方改革における目玉の一つに位置付けられた。 都内の大手企業では、東京オリンピック・パラリンピックの開催を見据えて本格的な導入の準備をしているところも多かった。 五輪・パラリンピック開催期間中の交通混雑を緩和するためにも、国や東京都は導入を強く求めてきた。

 コロナ危機の影響で五輪・パラリンピックは開催延期が決まった。 が、それを待たずにテレワークは一気に広がった。

 新型コロナウイルスに感染した従業員がいると判明した電通をはじめ、感染リスクを回避する危機対応として大企業を先頭にテレワークへのシフトが一斉に進んだ。 従業員の出社を原則禁止した会社もあり、ビジネスパーソンたちは半ば強制的にテレワークを体験した。

 このテレワーク、意外な副産物を生み出した。 レガシー大企業にとりわけ多い 「働かないおじさん」 をあぶり出したのだ。

 デジタル音痴も影響して、働いていないことがバレるおじさん社員が続出している。


テレビ会議のすっぽかし バレたことに気付いていない

 ある電力会社では、ご多分に漏れず、テレワークによるテレビ会議が増えている。 これまで社内の会議室で開く会議に欠かさず出席していたある中高年社員は、在宅勤務になって以降、テレビ会議にすっかり姿を見せなくなった。

 PCの画面に表示される彼のステータスは一日中、ずっと黄色。 テレビ会議などを行うこのコミュニケーションツールで、黄色は 「退席中」 を意味する。

 会議が始まっているのに黄色表示というのはとにかく目立つが、 「彼は他の社員に 『退席中』 のステータスが見られているってことを知らないんだろうね」 と同僚はあきれる。 当人だけが、すっぽかしがバレたことに気付いていない状態だ。

 そもそも彼は、従来の会議室での会議でも、ほとんど発言していなかった。 席に座っているだけで、仕事をしているように見えていたにすぎない。 もしかしたら、PC上は 「退席中」 でも、彼は自宅でPCの前にきちんと座っているのかもしれない。 何にせよ、テレワークによって、会議で何も生み出していない実態が露呈してしまった。

 「働かない」 か否かは別として、テレワークが鬼門というおじさん社員は少なくない。


テレワークのテレビ会議に 出社して参加する “おじさん” の哀愁

 JTは2月末、コロナ対策として国内の全従業員を原則在宅勤務にした。 自宅から社内のテレビ会議に参加した中堅社員は、PCの画面に映るベテラン社員を見て違和感を抱いた。

 「あれ?先輩、ひょっとして会社ですか?」

 「そうだよ!」

 と答える姿は普段着と思われるセーター。 でも、背景はおなじみのオフィスだ。

 テレワークのテレビ会議に、出社して参加する。 これは、おじさん社員の “あるある” だ。

 不要不急の出社を控えるように言われても、会社に足が向いてしまう。


テレワークを利用したリストラが加速する

 「体にね、通勤が染み付いちゃって」 と、ある50代のサラリーマン。 「それにね、今まで家庭をないがしろにしてきたもんだから、家で仕事をしたくても煙たがられるんだよ。 ぼくの居場所は会社にしかないんだよ」 と苦笑いを浮かべる。

 アフターファイブも居場所に困る。 「接待も駄目。 いつもみたいに部下を誘って飲みに行くのも駄目って会社に口酸っぱく言われちゃった。 居酒屋でお仲間を探そうと思う」 と語り、なんとも哀愁が漂う。

 頼まれてもいないのに、わざわざ出社してくるおじさん社員は、至る所に出没している。 ちなみにJTは、上司の許可がなければ出社できないよう運用を改め始めたという。

 終身雇用制の下で会社に対して忠誠心を持って人生をささげた世代は、テレワークになじめなかったり、デジタル音痴だったりする。 彼らを 「働かないおじさん社員」 「使えないおじさん社員」 とひとくくりにはできない。

 とはいえ、今回テレワークを体験した多くのビジネスパーソンは気付いているだろう。 オフィスに来なくてもできる仕事はたくさんあり、オフィスに来るだけで仕事をしていない人がたくさんいる、ということに。

 ある経団連幹部は 「コロナ危機をきっかけにテレワークを利用したリストラが加速する」 と断言する。 経団連かいわいや、経営者・幹部の間で、これがよく話題に上るようになっているのだ。

 テレワークはITツールを使って仕事が進む。 勤怠管理だけでなく、働きぶりもより精緻にデジタルデータで明らかにできる。 アナログな 「追い出し部屋」 などから進化した、 「新型リストラ」 が始まる。




( 2020.03.30 )

  


 テレワーク対応は 「最恐の労務管理ツール」 だった。 パソコンのキーボードの操作内容を全て記録し、集積したデータを分析する。 サボっていればバレバレ、仕事ぶりはスケスケだ。

テレワークで知らぬ間に仕分けられる 新型リストラ予備軍

 大手石油元売り会社の若手社員は、気付いてしまった。 テレワーク導入によりテレビ会議が増える中、これまで社内での打ち合わせには参加していたのに、テレビ会議になると呼ばれなくなったメンバーがいることを。

 「怖いよな。 本当は必要なかったと切り捨てられたんだもの」 と、周囲とささやき合った。

 身内だけの会議は、とかくだらだらしやすいものだ。 これがテレビ会議になると、余計な会話が一切そぎ落とされ、参加メンバーには建設的な発言が求められる傾向にある。

 じかに顔を合わせる会議であれば、座っているだけでも存在は目に入る。 それがテレビ会議になると、全く発言しない人は存在が認識されにくくなる。 揚げ句、存在する価値がないと評価され、呼ばれなくなるというわけだ。

 テレワークなどの新たな働き方は、リストラ予備軍の姿を変えていく。

 従来の予備軍は社内会議に呼ばれなくなると自席に根を張り、ソリティア(Windowsの中に入っているトランプゲーム)の腕ばかりが磨かれる者もいた。 予備軍入りか否かは本人にも周囲にも分かりやすかった。 これに対し、新たな予備軍は、いつの間にかテレビ会議に呼ばれなくなるなど、気付きにくいかたちで仕分けられるから恐ろしい。

 社員の仕事ぶりを丸裸にして新たなリストラ予備軍をリストアップする 「最恐の労務管理ツール」 がそれを可能にするのだ。


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