金銭教育


日本の家庭から完全に抜け落ちている 「お金教育」

◆ 欧米では、当たり前のように行なわれている

 周囲を見渡してみると、日本の子どもたちは、本当にお金と縁遠い環境で育っているなと思います。 親の保護下にある間に、お金に触れる機会がはたしてどれくらいあるでしょうか。 「お店屋さんごっこ」 のオモチャのお金では、話になりません。

 「ごっこ遊び」 もしないよりはいいかもしれませんが、せっかくなら、早いうちから 「本物のお金」 に触れさせてあげてほしいと思います。

 その点、アメリカの子どもたちは、もっとお金と親密です。

 たとえば、お小遣いが報酬制であるという家庭の話は、よく聞きます。 ゴミ出しをしたら何ドル、ベッドメイキングをしたら何ドル、ママの料理を手伝ったら何ドル、といったお小遣いの支給方法が、ごく普通の一般家庭でも行なわれています。

 ガレージセールで、年端もいかない子どもがレモネードやホットドッグを売っている風景も日常茶飯事です。 10代になりたてくらいの女の子が、近所の奥さんがちょっと出かける間にベビーシッターをして数ドルの報酬を得る、といった話もよく聞きます。

 日本では、アルバイトは高校生からとほぼ決まっていますが、アメリカの子どもたちは、こうして幼いころから 「自分でお金を稼ぐ」 という体験をしているのです。

 ほんの数ドルであっても、 「自分でお金を生み出す」 という体験は貴重です。

 家庭やご近所さんという小さな 「社会」 にかかわることで、お金のやりとりが生まれる。 この感覚は、将来、自分がもっと大きな社会にかかわることでお金を稼ぎ、自活していくということを、リアルに想像する源になります。

 また、そのわずかなお金を、使うのか、貯めるのか、はたまたそれを何かの元手とするのか。 それを考えることで、ごく自然に、お金を生む、貯める、殖やすという発想も生まれます。 こうしてアメリカの子どもたちは、日本の子どもたちよりずっと早くから投資マインドが育ちやすい環境にあるのです。

 日本では、お手伝いに報酬をつけることに賛否両論あるようですが、私は、とてもいい教育だと考えます。 自分の行動、もっといえば 「貢献」 によってお金が生まれるという体験は、ごく初歩的なお金の教養になるからです。 「お金は降ってくるものではない」 ということを子どものころから理解しておくのは、大切なことです。

 といっても、日本では月々、決まったお小遣いをあげることが一般的ですから、いきなりお小遣いを報酬制にするのは難しいかもしれません。 であれば、やはりまずは、日常の会話のはしばしに、 「お金」 というテーマを織り交ぜていくといいでしょう。

 そこで問題となるのは親の教養ですが、それ以前に問わねばならないのは、働く親がどれくらい子どもと接しているか、ということです。

 たとえば、銀行や証券会社など、金融ビジネス系の仕事をしている親ならば、かなりのお金の教養が備わっているはずです。 ところが、朝早く出かけて夜遅くに帰ってくる毎日で、一番よく見るのは子どもの寝顔 ...... なんて生活では、せっかくの知識や体験を子どもに伝えることができません。

 実際、大手の証券会社に勤めているけれど、子どもとはいっさい、お金の話をしたことがない、という話はよく耳にします。

 子どものほうは親の仕事の話を聞いたことがないから、関心を持たない。 当然、お金の教養が身につくはずもなく、親がくれたお金を、ただただ消費に回すのみ ......。

 せっかく親に豊富な知識と体験があるというのに、教育に生かしていないとは、なんともったいないことでしょう。

 もし、この親が週に一度でも早く帰ってきて、子どもとテーブルを囲みながら自分の仕事の話をしていたら、それだけでも、子どもはお金の教養をぐんぐん身につけていくに違いありません。

 いわんや、自分にはお金の教養がないと感じている親であれば ...... 厳しいことをいうようですが、よりいっそう意識を改め、家庭教育にあたらねばなりませんね。

 子どもの幸せのために、まず親がお金の教養を身につけること。

 と同時に、そもそも働いている親は、どれくらい家庭教育にかかわっているのか。

 こと 「家庭」 と 「仕事」、 「子育てする親」 と 「働く親」 を分けて考えがちな日本の風潮のなかでは、こんな原点から問いなおさなければいけないのかもしれません。

 お金の教養を身につけるというのは、いってみれば、親子でスイミングスクールに通うようなものです。 子どもに教えるために、親が少しリードしておく必要はありますが、子どもと接する時間をもっと増やして一緒に体験し、うまくできるようになっていけばいい。

 そんな意識で、お金の教育を始めていただければと思います。


1.幼児・幼年の子供に対して
金銭教育は、幼児時代からを始めることができます。幼児が△△が欲しいと言うと、そのためには、対価( 欲望の代償・お金 )が要る旨を、そっと教えます。次いで「お金は、雨のように天から自然に降って来るものではない。お金を手に入れるには、それなりの努力が要る」ことを年齢に応じて教えます。
人間は皆、父も母も、お金( 金銭 )を得るために、つらいことを辛抱して毎日毎日頑張っていることを、伝えることが非常に重要です。玩具や食べ物を欲しがれば、些細なことでも手伝いをさせ、躾( シツケ )教育をし、その後に与えます。
例えば、郵便受けまで新聞を取りに行かせる、玄関にある一家全員の靴を揃えさせる、電灯を点灯( 消灯 )させる、買い物カートから荷物を取り出し然るべき場所に運ばせる、両親の出勤・帰宅時には必ず玄関まで行き挨拶( 行ってらっしゃい・お帰りなさい )をさせる、他人からお金・物品を頂いた時は心からお礼を言う、等々日常のありふれた案件で充分です。
少し成長して小遣いを渡す年齢になると、金銭教育の大切さは一層増します。お金には、入り( 収入 )と出( 支出 )のバランスが肝要なことを、そっと教えます。子供は、受取った小遣いの範囲内でしか使えない、と先ずはっきりさせます。家計の基本は、入り( 収入 )の範囲内で、出( 支出 )を計画することです。
子供の時の金銭教育がしっかりしていれば、必ず金銭感覚の優れた青少年が育ちます。過大債務で苦労をする危険は、大幅に減少します。もちろん両親の見本が健全なことは、当然の前提条件です。
2.学齢期の子供に対して
幼稚園年長組・小学校入学頃になると、金銭を管理する感触を教えます。みんなが相応の苦労をして( 辛くとも働いて )、やっとお金を手に入れていること、楽をしてだまし取っては良くないこと、その場の欲望でなく、先のことを考えて効果的に使うこと等を、両親が見本を示し実践することが大切です。
お小遣いを管理するため、本人名義の預金通帳を作ってやり、基本は子供に任せ両親は忠告するだけに留めます。残高が増える喜びを体得させることが重要です。
家事でもお使いでも、幼い弟妹の世話でも、家族にとって役立つことを、加勢させて対価( 小遣い )を支払うようにします。ただ単に金銭を与えるのは、極力避けます。祖父母や親戚からの金銭プレゼントは、年に1度限りと減らすよう、事前打ち合わせをして、子供の金銭的自立を促します。
「金銭は川」、多すぎると管理できず洪水( 浪費を体験し、後で後悔 )となり、不足すると( 干上がって )飲み水・灌漑用水( 生活資金 )にもこと欠きます。「分相応が一番大切だ」と教えることです。日本の学校では、「金銭」を避けて通り、この面の教育がありませんので、家庭での金銭教育が絶対必要です。成人してからの金銭関連犯罪の素は、70~80%子供時代の金銭教育次第で決まります。
3.小学校・中学校の子供に対して
この年齢になると、お金の値打ち・有り難さが分かるようになって来ます。お金があると、当面の欲望を満足( 欲しいモノを手に )できるからです。でも、使い方の出発点を誤ると、将来にわたり、金銭がきっかけで失敗を繰り返すこことなりかねません。大人になって、金銭問題で悪に走る人の多くは、この辺に源流があると思います
本人名義の預金通帳を作ってやっていますが、「何時・何に使うか」を自己申告させます。できるだけ本人の希望を入れてやることが必要ですが、かと言って、金銭の使い方が、軌道に乗るまでは、本人の好き勝手は、絶対いけません。全く不適正であれば、断固止めさせる勇気が必要です。「金銭は使い方によって、良くも悪くもなる」からです。
「金銭は欲しくなると、底がない性質を持っています」ので、野放しに小遣いをやったり、欲しいモノを全部買い与えては、絶対にいけません。収支のバランス( 程合い・釣り合い )が、肝要である旨を、両親が家計簿を見せる等で、身をもって教えることです。
専らお金を貯める( 増やす )ことに、喜びを見いだす子がいます。この場合、「金銭は、目的達成の道具( 手段 )の一つであって、道具に支配されてはならない。お金を貯めること自体を目的として追求してはいけない」と教えます。「お金は堆肥( 肥料 )」なのです。うまく使用すれば、翌年益々豊かになりますが、使わずに放置すると、腐って臭くなります。金銭は、有効に使って初めて活かせるものとなります。
一方、お金があれば、後のことは全く考えないで、全部使おうとする子もいます。「お金を粗末にするのは絶対にいけない。世の中のみんなが、金銭を手に入れるのに、どんなに苦労( 上下左右に自己を殺して我慢 )しているか」を教えます。金銭は、一歩間違うと、人生の落とし穴( 犯罪 )に結び付くのです。世の中の犯罪で、金銭と無縁の犯罪に限定すると、件数が激減( 革命的減少 )します。
人間と他の動物との最大の違いは、「金銭の心配」をするかどうかです。お金を卑しんだり、避けたりしないこと、上手に活用すれば、本当に強い忠実な下僕として、一生仕えてくれます。子供の時の金銭教育をしっかり叩き込んでおけば、きっと子供のためになります。
ちょっとした手伝いやアルバイトで、お金を稼ぐ喜びを味合わせるのは、とても良いことですが、学校の勉強に影響するに至りますと、逆効果でして、生徒としての本分が、最も重要です。  学校でやってくれない「金銭教育」を補完するのは、家族( 特に両親 )しかありません。日本の教育で一番欠けているのは、「金銭教育・金銭哲学・金銭対処法」なのです。
4.高校・大学の子供に対して
金銭のことは、相当分かって来ています。しかし、金銭教育を全く受けず、家庭での慣例もバラバラなため、自分なりに分かっている積もりで、好き勝手な方向に進んでいることが問題です。
お金が不足すると、親や家族が何とかして呉れることに、依頼・依存して( 甘えて )いる場合が極めて多いです。「魚を欲しがっている人に、ただ魚を与えてはなりません。魚の釣り方を教え、自分で釣るようにし向けることです」高校・大学の時期には、このような金銭教育が必要です。
最近女の子を中心に「援助交際」等と呼ばれている、快楽的・一時的アルバイト( ? )が流行しています。自分の身体を餌代わりにして、魚を釣るように「お金を入手」する、実に困ったことが発生しています。両親家族は、子供が収入に見合わない金銭を所持していたり、分に合わない使い方をしている場合は、よく観察して原因を確かめることです。頭ごなしの追求は、逆効果の場合が多いです。
金銭教育は、数学や理科の問題のように、確定的正解を求めることは極めて困難です。ところが、「金銭の扱い方は、人生で最重要の課題である」のは事実です。一途な金儲け主義( 分不相応な金銭の獲得願望 )は、その人の人生を損なうことが多々あります。棚ぼた式金銭入手( 宝くじ・賭博性のもの )は、有っても「あなた限り」とし、子供には絶対にお奨めできません。
本当に難しいのは「使い方」です。その家庭が貧乏なら、金銭を「稼ぐ、儲ける」ことを先行せざるを得ませんが、普通以上の家庭では、上手な「使い方」を考えることがより大切です。金持ちか貧乏人かが、直ぐに分かるような「使い方」は、よくありません。ただ単に金銭元本を減らしても、「使った」ことになりません。
人生の最後までに、どれ程沢山の金銭を有意義に使ったかで、「金持ち」の値打ちが決まります。そんなことを、子供と一緒に考える機会を作って、考え方を練っておけば、必ず将来の為になります。あなたの懐具合にかかわらず、ご家庭にふさわしい金銭教育を実施なさって下さい。







子どもは大人が考えているより、ずっとお金について考えている

 子どもに対してお金について教えることは容易ではない。 アメリカは、日本より比較的お金の話に対してオープンでざっくばらんに見えるかもしれないが、それでも 「親子間でお金の話をするのはタブー」 という空気は少なからずある。

 子どもとお金。 多くの大人は、子どもたちはお金についてあまり考えていないと想定しがちだが、ミシガン大学の研究グループはその前提に反する結論を見いだした。 同大の研究グループは5歳から10歳の子どもたちの消費の習慣を調査。 彼らが用いたのは浪費家・倹約家指数だ。 この指数は、購入に関する浪費家の感情的反応を測るものである。 ここで言う 「浪費家」 とは購入する可能性のより高い人で、対して 「倹約家」 とはよりお金を手放しそうにない人のことだ。


倹約家の子どもと浪費家の子ども

 子どもたちには、それぞれ消費か貯金するようにと1ドルが与えられる。 この調査の参加者225人のうち、より浪費すると見なされた子どもたちは積極的にお金を使った。 たとえ商品がとりわけ欲しくも、好きでもないものだったとしても。 倹約家の子どもたちはほとんどお金を使わなかった。

 この研究のリーダーであるクレイグ・スミス氏によれば、この研究によって、5歳から10歳の子どもたちの消費や貯金に対する感情的反応が、その子どもがお金をどう扱うかに関する有力な指標となるということがわかる。 「こうした感情的な反応は、子どもたちの店に置いている商品へ感情を抑えたとしても、どうやってお金を使うかということを左右する」 とスミス氏は言う。

 では、浪費家と倹約家はどちらが多かったのか。 大人と同様に、倹約家の子どもの数は浪費家の4倍だった。

 ここで疑問となるのは、子どもたちはどこから 「金の設計図」 を学ぶのかということだ。 T・ハーブ・エッカー氏は自身の著書 『ミリオネア・マインド 大金持ちになれる人』 の中で、金の設計図を、家の設計図との類比によって定義している。 家の設計図とはある家のための事前の計画ないし下絵である。 同様に金の設計図とはつまり、お金に関する事前の計画ないしあり方のことだ。 ではその設計図はどこから生まれるのか。

 「子どもたちは誰しも、お金に関してどのように考え、行動すべきかを教わる」 とエッカー氏は述べている。

 2人の子どもを持つカリ・リリーさんも幼くしてお金との関係を学んだ。 彼女のお金の管理に関する最も古い記憶の1つは、母親と食料品を買いに行ったときのことである。 母親は小切手で支払いをし、その場ですぐに小切手帳に記録をつけた。 彼女や兄弟は両親とはお金について話し合ったことはない。 ただ両親を観察していただけだ。

 「両親の観察から、私はお金に関して注意深くあることを学んだ」 と彼女は言う。 「そのことが、私が倹約家となった一因だ。 収支を合わせて節約しなければならない。 余分なお金はない、と」。 親は学費1年分は払ってくれたが…

 こうしたお金との付き合い方は、大学に入ってから役立った。 彼女の両親は、大学1年分の学費を払ってくれたが、残りは彼女自身の責任だと言ったのだ。 だから、彼女はホテルや大学の食堂で給仕として働き、自ら学費やアパート代、生活必需品などを払い、そしてしっかりと学位も得た。

 現在は、建築家の夫を持つ専業主婦となったリリーさんは、自分の子どもたちにもお金に対して 「慎重になるように」 伝えている。

 たとえば、ある日6年生になる娘が、リリーさん夫妻に 「生活上の予算」 について尋ねた。 すると、リリーさんは、娘に食費の予算は週に100~120ドルだと教え、家族の1週間分の食品リストを作って食料品を買うようにとの課題を与えた。

 スーパーに行くと、娘は即座にシリアルを4箱欲しがったが、1箱が5ドルすることに気づくとすぐにその数を減らした。 彼女はきっちり予算内で買い物をしたわけだが、リリーさんはその後、娘のある変化に気が付いた。 娘は以前のようにシリアル1箱をガツガツ食べることはせず、より注意深くなったのである。 シリアルの値段が身にしみたことが大きかったのだろう。

 心理学者で 『子どもの思春期を切り抜ける』 の著者であるカール・E・ピックハルト氏はこの方法に同意している。 思春期最後の段階( 18~23歳 )の若者がどれだけ自己管理ができるかを占う重要な要素の1つとして同氏は、 「若者がどれだけよくお金の管理を学んできたか」 を挙げている。

 ピックハルト氏は、小学校低学年になったら、週のお小遣いを3つの目的のために3つに分割して与えるべきだと提案する。 すなわち、貯金、納税、消費である。 貯金からはお金の蓄積によって生まれる購買力というものを学べる。 納税は貧しい人々について考える助けとなる。 そして、消費は一時の価値しかないものを買うか、長期的な価値のあるものを買うかという優先順位を判断することを学べる。

 その後、思春期の初期から中期( 9~15歳 )までには、ペットの世話や庭仕事、赤ちゃんの世話など、家の外での仕事をさせるようにする。 そうすることで子どもたちは、雇用主のもとで働くことや約束を守ること、責任を負うことを覚え、比較的少ないお金を稼ぐのにかかる労力を知る。 さらに、お金を稼ぐことは自尊心を高めるのにも役立つ。 「私はお金を受け取るに足るだけの労力を提供できる」 という形で。


浪費家は通常、目先の満足感を求めている

 冒頭の浪費家・倹約家の研究に戻ると、ピックハルト氏は購入に関する感情的反応について心理学的な説明をしている。 いわく、若い浪費家はしばしば 「衝動の制御ができず、つかの間の満足を強く求めており、先のことよりも現在に関心を持っている」。 それに対して若い倹約家はより自制心が強く、計画するべき将来の可能性についての感覚を持っている。 若い倹約家は浪費家がしばしば欠いている満足遅延耐性と、判断する能力とを持っている傾向にある。

 こうしたことから、 「両親が浪費傾向のある子どもに貯金の習慣をつけさせる価値はあるかもしれない」 とピックハルト氏は言う。

 アリ・シュシュマンさんは、娘が 「ネズミを飼いたい」 と言い出した時、拒否すると同時にひとつ提案をした。 「ネズミが欲しいなら、自分で飼うべきだ」 と。 すると、娘は何を思ったか、スライムを作り始めた。

 彼女はのり、ホウ砂( アルカリ塩の鉱床にある白い鉱物で、ガラスや陶磁器の製造に使われる )といった材料を買い集め、忙しく作業し始めたのである。 それからワシントン州グラント郡で開かれたグレイトフル・デッドのコンサートに入り込んでスライムを観客へ売り、それによって300ドルの利益を上げた( 材料費などを差し引いて )。 そして、娘はそのお金で特大のカゴを買ったのである。
 「ノーと言ってからの、子どもの計画性は目を見張るモノがあった」 とシュシュマンさんは振り返る。

 5人兄弟の1人して生まれたシュシュマンさんも、実は家族でお金について語り合うことはなかった。が、家を出て大学に入る前に、両親は彼女にあることを教えた。 それは、どのようにして収支を合わせるか、ということだった。 親が言わんとしていたのは、 「何をやろうとしているのか」 ということと、それに対して 「何をすべきか」 ということを併せて考えなければいけない、ということだ。

 シュシュマンさんは、これと同じことを娘に教えたのである。 ネズミを飼いたいと言い出した娘に対して、 「あなたの計画は?」 と聞いたところ、彼女はスライムを作り出したのだ。

 大学入学時に金銭的 「自立」 を促されたことは、後にシュシュマンさんが、自身の両親が立ち上げた広告代理店を買い取るまでに自らが成長するのに役立った。 シュシュマンさんは現在でも、この代理店を経営しながら、ファッション誌の編集者も務めている。


お金でその人の価値は決まらない

 ただ、クレジットカードやアップルペイなど、決済のキャッシュレス化が進む中で、リアルなお金を稼ぐことを教えることも難しくなりつつある。 こうした中、シュシュマンさんは、娘の手伝いに対して、お小遣いを与えている。 これによって、どの程度の仕事をしたときにどれくらいのお金が稼げるのか、また、手に入れたお金をやり繰りする方法を教えたいと考えている。

 シュシュマンさんが、お金の価値を娘に教えたいと心底考えたのは、彼女が幼い頃 「うちがお金持ちだったらいいのに」 と言った時のことだ。 シュシュマンさんは、その言葉に困り果てた。 なぜなら、シュシュマンさんたちは、比較的裕福なエリアに暮らしていたからだ。

 「この言葉は娘の友人たちから来ていて、娘たちは自分よりも多くのものを持っている誰かがいることに気づき始めていた。 そもそも 『もっとお金持ちだったらいいのに』 っていう意味をわかっているのかどうか」 ( シュシュマンさん )

 前述のリリーさんにとって、これは 「お金は非常にパワフルである」 という意味だ。 しかし、子どもには、持っているお金の額で、その人の価値や人間性が決まるということはないと伝えている。 そうではなく、大事なのはそのパワフルなお金をどう管理するか、そして、その価値をどう判断するか、ということだ、と。

 もちろん、お金に対する考え方や価値は人それぞれだろう。 だが、子どもは大人が思っているよりずっと、お金について考えていることは知っておくべきであり、あなたの価値観やお金に対する考え方を子どもに伝えたいと考えているのなら、タブー視するのではなく、幼い頃から積極的に親子で話をしてみてはどうだろうか。





( 2015.12.16 )





 最近、マネー相談に訪れるご夫婦にそれぞれの貯蓄額を尋ねると、「夫〇〇万円、妻〇〇万円、 『夫婦のお金』 〇〇万円」 といった答えが返ってくることが頻繁にある。

 よく聞いてみると、独身時代に貯めたお金は夫、妻それぞれのお金で、結婚後に貯めたものは 『夫婦のお金』 なのだと言う。 共働きが増えた頃から 「これは夫婦のお金」 と定義するカップルが多く見受けられる。

 私は心の中で( 『夫婦のお金』 ってないんだけどな )と思いながら、相談者に 「その 『夫婦のお金』 は、どなたの名義の預金口座にありますか」 と聞いてみると、 『妻名義』 の預金であることが多い。

 よく見かけるのは、夫の収入で生活をし、妻の収入をほとんど貯蓄に回すケース。 共働き歴が長いと、妻の口座に数千万円貯まっていることも少なくない。 このやり方は、夫の口座だけチェックすればいいので管理がラク。 夫の収入の範囲で暮らそうと目標ができるので、貯蓄モチベーションも高まる。

 ふたりは、妻の口座に丸々残っているお金を 『夫婦のお金』 と認識しているのだが、実際には銀行口座の名義には 「夫婦連名」 のものはないので、口座の名義はどちらか一方にせざるを得ない。 つまり、自分たちが 『夫婦のお金』 と考えていても、外からは口座名義人のお金、つまり 「妻のお金」 と見えるのだ。

 結婚後の貯蓄は、夫婦それぞれ 「自分の名義の口座」 で貯めるのが原則だ。 『夫婦のお金』 として、いずれか一方の口座に片寄せして貯める方法は、いくつか弊害が発生するのでやめたほうがいい。




 弊害のひとつ目として、住宅を購入したときの頭金の問題がある。 共働き夫婦の例で見てみよう。

○物件価格:4000万円
・頭金:2000万円( 本人たちが 『夫婦のお金』 と考えているお金から出す。 お金は妻名義の銀行口座にある )
・住宅ローン:夫1000万円、妻1000万円

 登記簿上の持ち分は、分母が 「住宅の取得価格」、分子に 「資金を負担した金額」 を置いて計算される。 資金を負担した金額は、頭金と住宅ローンを合わせた金額となる。

 本人たちは、頭金の2000万円を 『ふたりのお金』 と考えているので、夫、妻ともに 「頭金1000万円、ローン1000万円ずつ資金負担」、 「持ち分はそれぞれ2分の1ずつ」 となると思うようだ。

 しかし、頭金の2000万円は夫、妻それぞれの銀行口座にあるわけでなく、妻名義の銀行口座に片寄せしているお金だ。 外から見ると 「妻の預金」 である。

 片寄せ貯蓄の問題が表面化するのは、ある書類が届いたとき。 マイホームを購入すると、税務署から 「購入した資産についてのお尋ね」 という書類が送られてくる。 全員ではないが、結構高い確率で来る。

 これは、税務署が贈与の有無をチェックのために購入資金の出所や名義を調査するためもの。 返送された書類のつじつまが合っていないと、税務調査が行われることがある。

 表と裏に記入する書類で、表面に住宅の取得費金額や支払先、登記簿上の名義人、共有名義の場合は持ち分割合を書く欄があり、裏面には、資金調達方法( 頭金、住宅ローン、親からの贈与など )を詳細に記入するようになっている。

 特に裏面の頭金の記入欄は詳細だ。 「どこの銀行」 の 「どの支店」 の 「誰の名義の口座」 から 「いくら出したか」 を書く。 先の例だと、頭金2000万円は 「妻名義の預金」 から出すので、書類上は頭金の2000万円は全額妻のお金から捻出したことになる。

書類を見た税務署は、持ち分比率を次のように考えるだろう。

  夫:頭金ゼロ、住宅ローン1000万円…持ち分4分の1
  妻:頭金2000万円、住宅ローン1000万円…持ち分4分の3

書類表面の 「登記簿の持ち分比率」 が夫、妻2分の1ずつとなっていると、税務署は妻から夫へ1000万円の贈与があったと見る可能性がある
 税務署に呼び出されたとき、2人で働いて貯蓄してきた期間や夫婦の年収などを税務署員にきちんと説明することができ、先方が納得すれば贈与税は課せられないだろうが、生まれてはじめて税務署に呼び出しを受け、うまく説明できる人はどれほどいるだろう。

 マイホームを共有名義で購入するなら、税務署から 「お尋ねの書類」 がくることを想定して、書類上のつじつまが合うようにしておきたい。 表面の持ち分比率と裏面の資金調達の比率が同じであれば、それ以上調査されることはない。




 もうひとつ考えられる弊害は、相続の問題だ。 たとえば、子どもがいない夫婦で 「結婚してから貯めた 『夫婦のお金』 は2000万円。 全額夫名義の銀行口座にある」 という場合、口座の名義人が死亡するとちょっとやっかいだ。

 子どもがいない夫婦の場合、相続人は配偶者と親である( 配偶者3分の2、親3分の1 )。 夫が死亡すると、2000万円の預金は夫の両親にも相続権がある。 妻は 「2000万円は2人で貯めたお金だから、1000万円は私のもの。 相続の対象となるのは半分の1000万円のはず」 と思うだろうが、夫の両親はそう見ないかもしれない。 息子の名義の口座にあるなら、息子が働いて貯めたお金と見るのが自然だ。

 夫の両親が 「私たちは息子のお金を当てにして生活していたわけでないので、このお金は要りません」 と権利を放棄してくれれば何の問題もないが、放棄してくれる親ばかりとは言いがたいのが実際だ。 日頃から親との関係が良好でないと 「もめる」 可能性は高い。

 親より先に死亡するケースは可能性として少ないが、マイホーム購入はほとんどの人に当てはまる事例だ。 銀行預金が 「2人の連名」 の名義で作れない以上、あとで 「もめる」 要素を残さないようにするのがいい。




 では、すでに 『夫婦のお金』 としていずれか一方の預金口座に片寄せしている場合はどうするといいのか。 実態に合わせて、口座を分けておくのが安心だ。

 たとえば、夫の年収が700万円、妻の年収が350万円の夫婦が、結婚してから2人で貯めたお金が妻名義の口座に1200万円あるとする。 年収比率は2対1なので、1200万円のうちの3分の2の800万円が夫のお金、3分の1の400万円が妻のお金と考える。

 夫の800万円を妻の名義の口座から夫名義の口座に振り込み、実態に合わせる。 このように書くと、 「それこそ、妻から夫への贈与と思われるのでは?」 と質問を受けることが多いが、そんなことはない。

 仮に税務署に聞かれることがあったとしても 「これまで間違えて妻名義に片寄せして貯めてきたので、実態に合わせるために修正しました」 と説明すればいいのだ。 軌道修正が済んだら、その後は 「夫婦それぞれの口座」 で貯蓄をしていく。

 妻が専業主婦で妻の口座で貯めていた場合は、 『家族のお金』 ではなく、 「夫のお金」。 妻の口座から夫の口座に全額振り込むことで実態に合うことになる。

 これには異論がある人もいるかもしれないが、収入のない人の口座でお金を貯めていると、それこそ税務署は夫から妻への贈与とみるだろう。 税務上は、 「自分で働いたお金は自分の名義で貯める」 のが原則だ。 離婚の際の財産分与とは、考え方が異なることを知っておきたい。

 結婚したばかりのカップルなら、最初から 「夫婦それぞれの口座」 で貯めていくことを実践すればいい。 「貯まる共働き」 を目指すなら、毎月とボーナスの積立額をお互いオープンにし 「ちゃんと貯めている? 今年は目標通り貯まった?」 と確認し合うこと。 この緊張喚起も貯蓄のモチベーションを高めてくれるはずだ。


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