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( 2019.07.10 )
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 健康保険料のうち、 「基本保険料」 は自分たちが使う金額、 「特定保険料」 は高齢者医療への 「仕送り」 だ。 ほとんどの会社は給与明細に内訳記載がなく、会社員は 「仕送り」 を意識しない

 75歳以上の後期高齢者の人には1人当たり年間約91万円の医療費がかかっている。 このお金は何で賄っているのだろうか。

 患者本人が病院窓口で原則1割の自己負担分を払う。 残りについては、半分が税金、1割を後期高齢者の人たちが納めている保険料で、あとの4割は現役世代が負担している。 これをさまざまな調整の仕組みを勘案して計算すると、現役世代は1人の後期高齢者に対して毎年、約35万円を 「仕送り」 していることになる。

 日本が世界に誇る 「国民皆保険制度」 だが、現役世代の仕送り頼みというのが現実だ。 こうした仕組みは、あなたが高齢者になる日まで続けられるのだろうか。


 後期高齢者に 「仕送り」 35万円
 給与天引きで自覚薄く自覚のない現役世代


 「そんなに高額の仕送りをしているつもりはないんだけど……」。 横浜市の会社員、杉浦浩樹さん(34)は、医療保険の仕組みをよく知らない。 病院のお世話になるのは、趣味の草野球でけがをしたときくらいで 「3年に1度くらいですね」。 妻の有紀さん(30)はパートで、夫の扶養家族になっている。 たまに熱を出しても 「仕事を休んで寝ていれば治るし。 病院には行ったことがない」 という。 「それなら、高いお金を払って、保険に入る必要はないじゃないか」 ――。

 日本の公的医療保険制度は、国民だけでなく日本に住所を置く外国人も全員加入する 「国民皆保険」 だ。 1961年にできた。 「入る、入らない」 を自分で決めることはできない。

 かかった医療費のうち、患者が医療機関の窓口で支払う 「自己負担」 は原則年齢によって1~3割。 残りの9~7割は加入する健康保険から支払われる。 財源は、加入者が納める保険料のほか、国や自治体の税金だ。 この制度のおかげで、お金のあるなしにかかわらず、安心して、誰でも同じ医療を受けることができる。

 どの保険に加入するかは、年齢や職業で自動的に分けられる。 自営業者らが入るのは 「国民健康保険」 で、自治体が運営する。 会社員は勤め先が設立した 「健康保険組合」 か、健康保険組合がない場合は 「全国健康保険協会」 (協会けんぽ)。 一方、75歳以上になると一律に 「後期高齢者医療」 に入る。

 自分が入っている保険は、保険証に書いてある。 杉浦さんが保険証を見たところ、会社の健康保険組合だった。 医療機関にあまりかからないことに加え、保険料が給料から自動的に天引きされていることもあり、杉浦さんもあまり意識していなかったようだ。


 「お互いさま」 でごまかし

 「保険ということは、それぞれの加入者の保険料で、病気やけがのリスクを支え合うんでしょ?」。 有紀さんが、長男(3)の通う保育所のママ友との井戸端会議で 「生命保険、入らないとね」 と話題になったことから仕入れた 「にわか知識」 を披露した。

 杉浦さんは 「医療費があまりかからないんだから、たいした金額じゃないはず」 と、普段はあまり気にしない給与明細を見て、驚いた。 「健康保険」 の欄にあるのは 「1万7683」(円)。 月収額面の5%程度だった。 病院にかからない若い世代でも保険料が高いと感じるのは、医療費のかかる高齢者への 「仕送り」 のためだ。

 「自分もいつかは高齢者になるわけだし、お互いさまと言われたら、その通りだね」。 杉浦さん夫妻は、顔を見合わせた。

 75歳以上の人が入る 「後期高齢者医療制度」 は2008年度にスタートした。 それ以前は子の健康保険組合の扶養家族になるなど保険料負担なしで医療を受けられた。 だが、高齢化の進展に伴い医療費の膨張が見込まれる中、後期高齢者一人一人にも保険料を負担してもらい、税金や現役世代の保険料負担が際限なく膨らむことを抑えるのが狙いだ。

 それは後期高齢者にとって大きな負担増だ。 このため、制度発足直後から 「年寄りは死ねということか」 「うば捨て山だ」 といった批判が相次いだ。

 だが、負担する現役世代側からすれば、杉浦さん夫妻のような気持ちになる。


 耳の痛い議論は選挙後


人工透析を受ける患者
 実は、サラリーマンにとって、高齢者医療への負担はこれだけではない。 国保に加入する65~74歳の前期高齢者に対しても拠出している。

 定年後の会社員の多くは国保に加入する。 病気になりがちで、保険料も多く負担できず、国保の負担が大きくなるからだ。 サラリーマンの健康保険における高齢者医療への 「仕送り」 を合計すると、保険料の42%を占める。

 各企業の健康保険組合でつくる 「健康保険組合連合会」 (健保連)は、 「負担がどんどん重くなっていくことが問題だ」 と指摘する。

 健保連によると、団塊の世代(1947~49年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になり始める2022年、65歳以上の高齢者医療への支援は5000億円増加すると見込む。 一方、現役世代の人口は減るため、加入者1人当たりの 「仕送り」 が2割増える計算になる。 また、過半数の733組合が、保険料に占める 「仕送り」 割合が5割超になるという。

 健保連は 「保険料の半分を超えるのは、自分たちの医療費よりも支援が大きいということになり、さすがに負担と給付のバランスが大きく崩れていると言わざるをえない」 と訴える。

 こうした状況に、政府はどう対応しようとしているのか。

 政府は、6月に閣議決定した経済財政運営の指針 「骨太の方針」 で、国民の 「痛み」 を伴う政策は具体的に明示されなかった。 一方、来年度については、 「給付と負担のあり方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる」 と記述した。 分かりにくい文章だが、 「給付と負担のあり方」 とは、 「給付減と負担増」 を示唆している。 つまり、社会保障の切り下げに向け伏線を張っているのだ。

 厚生労働省幹部は 「病院窓口で原則1割負担の後期高齢者の2割負担引き上げは検討せざるをえない」 と話す。 高齢者にも応分の負担を求めざるをえないというのだ。

 「こういう大事なことを、選挙の前になんでしっかり説明してくれないのかな」。 杉浦さんの疑問はもっともだ。


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