( 2016.08.25 )

  四(思)



ふしぎの 「し」 は 「4」 のこと

 宇宙とは何か? 数とは何か? 生命とは何か? 科学は根源を探究します。 究極の謎に挑戦し続けてきた物理学、数学そして生物学。

 4つの力の統一こそが物理学の夢であり、その統一理論に私たちの宇宙は4次元時空の謎が関係してきます。

 4つの色だけで地図の塗り分けが可能か。 4色問題はグラフ理論へ翻訳され4色定理として解決されました。 4つの塩基配列が支配する生命の設計図。 自らのすべての塩基配列を読むという偉業を達成した我々ホモ・サピエンス。

 根源の探究を使命とする科学はかくして 「4」 の発見に至りました。 物理学、数学、生物学の 「4」 の物語を振り返ってみましょう。


物理学 「4」 の物語 4つの力を統一せよ!

   これまでの物理学は、宇宙は 「 もの 」 と 「 力 」 でできていることを説明することに成功しました。 「 もの 」 は原子から成り立ち、 「 力 」 は重力、電磁気力、弱い力、強い力という4つに分類されることが明らかにされてきました。

 アインシュタインの 「 奇跡の1905年 」 から始まる20世紀の物理学。 その大躍進は私たちの宇宙観・自然観を大幅に変えました。

 「 もの 」 の根源として 「 素粒子 」 が発見されました。 すると、 「 力 」 も 「 素粒子 」 によって説明できるという 「 場の理論 」 の建設が始まりました。

 重力とはニュートンの万有引力のことです。 ニュートンは月とリンゴに働く力に本質的な違いはないことを見抜きました。 天上界と地上界の統一を数理的に成し遂げたのが天才ニュートンです。

 ファラデーが発見した電気力と磁気力の関係は、マクスウェルによってまたも数理的に見事な方程式にまとめ上げられ電磁気力と呼ばれる新しい力に統一されました。

 私たちの時空には、電気力を伝搬する電場の性質と磁力を伝搬する磁場の性質があります。 そしてこの電場と磁場が相互の場を作り出す仕組みが 「 電磁場 」 でありそこに存在するのが電磁波つまり電波です。

 マクスウェルの方程式から、電磁波の伝搬速度が一定の速度をもつことが分かり実はそれが光速であるという驚くべき結論が導かれました。 そうして出来上がったのが光速度一定を仮定とした理論が、アインシュタインの特殊相対性理論です。

 その後、素粒子加速器という強力な助っ人とともに発展した素粒子物理学は原子内部に隠された驚異の構造を次々と明らかにしていきます。 弱い力と強い力という核力の発見です。

 物理学者はもてる限りのアイディアと知り得る限りの数学を駆使して素粒子世界にある調和の法則を探し続けました。 例えば、超弦理論の起源である弦理論は我らが南部陽一郎によって考え出されたもので、 「 ストリング 」 という言葉を最初に使ったのも彼です。

 強い力が示す実験データがガンマ関数により構成されるベータ関数によって説明されるという奇妙な事実が発見されました。 1968年、南部は強い力とベータ関数を結びつけるアイディアを思いつきました。 それが素粒子を点ではなくストリング( 弦 )と考える弦理論です。

 快進撃は続きます。 電磁気力と弱い力を統一した電弱統一理論の誕生です。

 電弱統一理論は標準理論とも呼ばれ、素粒子加速器と電子計算機がが次々とはじき出す膨大なデータを高い精度で説明してみせました。 まさに理論と実験の競演が世界中で繰り広げられてきました。

 その流れで強い力、重力も統一できるのではないかと期待感が高まり研究が発展し、電磁気力、弱い力、そして強い力の3つを統一する 「 大統一理論 」、そしてこれに重力を加えた4つすべてを統一する 「 超大統一理論 」 の研究が進行していきます。

 超大統一理論の有力候補が超弦( スーパーストリング )理論です。

 面白いことに超弦理論は “1つの理論” ではなく5つの型が考えられることが分かりました。 真の意味で “1つの理論” とするアイデアがウィッテンによるM理論です。

 超弦理論が弦を元にした10次元時空の理論であるのに対して、M理論は膜を元にした11次元時空の理論です。 さらに現在では12次元時空のF理論が提案されています。

 M理論のMは、membrane( 膜 )、mystery( ミステリー )、magic( マジック )、matrix( 行列 )などと考えられていますが、Mという名前を与えたウィッテンは、Mは各自が好きに解釈していいと語っています。 F理論を考案したバッファは、MをMother( 母 )として、Father( 父 )なる理論としてFと名付けたといいます。

 10次元の 超弦理論、11次元の M理論、12次元の F理論は、4つの力を統一することと合わせてなぜ宇宙が4次元なのか、その仕組みの解明も目指していますが、まだ道半ばです。 宇宙を表す 「 Universe 」 の Uni は1つ、verse は回転するを意味します。 物理学の 「 4 」 の物語が完結した時、私たちはUniverseに隠された “1つの理論” に遭遇します。


数学 「4」 の物語 4色問題と4次元

 いかなる地図も4色あれば塗り分けができるだろうという 「 4色問題 」 は1976年、アッペルとハッケンによって証明され 「 4色定理 」 となりました。

 点と線からなるものをグラフといいます。 地図の塗り分けの問題はグラフとしてとらえられ、グラフ理論が駆使されて解決へと至りました。 そして特筆すべきことは証明に電子計算機が使われたことです。 20世紀ならではの証明でした。

 もう1つ、4で思い出されるのが 「 4次元 」 です。 特殊相対性理論は、私たちの宇宙が4次元時空連続体であることを主張します。 4次元時空とは空間3次元+時間1次元のことです。

 アインシュタインのもう1つの一般相対性理論は、この4次元時空が 「 曲がる 」 と考えることで重力が説明できることを示しました。

 私たちは空間を縦、横、高さの3次元と知覚しますが、4次元以上の空間を知覚することはできません。 しかし、トポロジー( 位相幾何学 )の理論によって4次元以上の形の世界を理解できるようになりました。

 有名なポアンカレ予想はトポロジーの定理です。 もともと3次元についてポアンカレによって述べられた予想は、 n次元でも成り立つことが分かり研究が発展しました。

 1960年に5次元以上で成り立つことがスメイルによって証明され、1981年に4次元の場合がフリードマンによって証明されました。 フリードマンの 『 4次元多様体のトポロジー 』 の研究によって、1982年にドナルドソンによる異種4次元空間の発見につながりました。

 この研究でドナルドソンはヤン=ミルズ理論と呼ばれる素粒子物理学の理論を用いたことが数学者を驚かしたのですが、同じことが2002年のポアンカレ予想の解決においても起こりました。 数学者ペレリマンは物理学的アプローチにより3次元ポアンカレ予想を解決してみせたのです。

 このように数学と物理の世界で問題になるのが4次元です。 私たちの宇宙がなぜ4次元なのか? 4色問題が解決されたように4次元の問題が解決される時がきっとやってくるでしょう。


生物学 「4」 の物語 DNA

 この宇宙が不可思議だと考えている私たちは、人間自身の中に 「 4 」 の物語を見つけました。

 生命体は細胞でできています。 細胞には核と呼ばれる部分があり、その中にあるのが染色体です。 有名なメンデルのエンドウ豆の実験以来、遺伝を伝える物質の存在が予想されるようになりました。 それが染色体です。 染色体はDNA( デオキシリボ核酸 )の固まりです。

 1953年、ワトソンとクリックはDNAの2重らせんモデルを提唱しました。 DNA を構成するのがアデニン( A )、チミン( T )、グアニン( G )、シトシン( C )と呼ばれる4つの塩基です。

 DNAは生命にとって重要なタンパク質の設計図の役割をもっているのですが、それがアデニン( A )、チミン( T )、グアニン( G )、シトシン( C )の配列( genome sequences、sequence は数学では数列 )で表されます。 それゆえDNAの4つの塩基の配列は遺伝暗号とも呼ばれます。

 私たち人間の染色体は常染色体22対44本と性染色体2本( 女性はXX、男性XY )、合計46本あります。 この中に含まれるすべてのDNAをヒトゲノムと呼びます。

 ワトソンとクリックの2重らせん構造の発見に始まった分子生物学は電子計算機という強力な助っ人を得て4つの塩基配列の解読に乗り出した。 ゲノム配列( ゲノム・シーケンス )はシーケンサー( 遺伝子配列決定装置 )によって解読されます。

 約30億塩基対もあるヒトのDNAの全塩基配列を解読するプロジェクト 「 ヒトゲノム計画 」 が1990年に米国で始まりました。 2003年、人類は偉業を成し遂げました。 ヒトゲノムの全塩基配列の解読に成功しました。 ワトソンとクリックの2重らせんモデルの発見から50年後のことです。

 遺伝子情報の解読の研究によってバイオインフォマティクス( 生命情報学 )と呼ばれる新しい学問領域が作られました。

 4つの塩基が作る遺伝子情報はデジタル情報にほかなりません。 生命科学が電子計算機を必要とするのは必然と言えます。 計算機が生命の謎に挑戦する時代が始まっています。

 生物学が他学問と融合する予兆は、2重らせんモデルを発見したクリックに見ることができます。 数学と物理学が得意だったクリック少年は物理学者になります。 30歳を過ぎてから生物学を学び始め、あっという間に書き上げた世界的な論文が2重らせんモデルだったのです。


科学 「4」 の物語は始まったばかり

 時空の根源と生命の根源に共通するのが 「 4 」 です。 そして、科学 「 4 」 の物語に共通するキーワードが 「 計算 」 です。 電子計算機によって、宇宙と生命の根源の探究が進展していきます。

 なぜ 「 4 」 なのか?
 
 電子計算機による 「 神様のパズルの謎解き 」 は始まったばかりです。 私たちの宇宙が 「 4 」 の物語を内包する理由はまだまだ分からないことだらけです。 でも1つだけ確実に言えることがあります。 私たちの宇宙は 「 4 」 でうまくいっているということです。