「ちょっと体調が悪くて……」 「なんか最近体が……」 こんな悩みを抱えているビジネスマン は多いはずだ。 だが忙しい企業戦士のみなさんのこと、気軽に休暇を取得して病院で一日じっくり検査、というわけにはいかないだろう。 たいてい、 「寝れば治る」 でほっておいてしまう人が多い。
だが、ちょっと待ってほしい、その病気になる直前の “病気もどき” こそ体のSOS信号なのだ。
スマホやパソコンを見続けていると、目は充血してショボショボ。 視力もボヤケがち。 市販の目薬を差しても、あまり症状は改善されず、布団の中でスマホを見続けた翌朝には、目がチカチカして痛む。 鏡をのぞくと目は血走って赤目。 これって単なる目の疲れ? それとも深刻な事態? ドライアイ治療のスペシャリスト・後藤眼科医院( 神奈川県鎌倉市 )の後藤英樹院長が指摘する。 「一晩ゆっくり眠って目の調子が回復するならば、単なる 『疲れ目』。 眠ったり休んだりしても、目の痛みやかすみなどが改善しないのは 『眼精疲労』。 疲れ目が慢性化した状態です。 目の症状だけでなく、頭痛や吐き気なども伴うことがあり、放置しておくと、肩こりや首の痛み、全身のだるさ、イライラなどの症状も重なり、悪化します。 眼精疲労は疾患なので健康保険で診療できます。 朝起きたときに、目が充血して調子が回復しないようならば、眼科の受診をお勧めします」眼精疲労の影には別の病気も潜んでいる。 スマホなどを見続けて起こりやすいのは 「ドライアイ」。 人間は、無意識のうちに1分間に平均14回のまばたきをするが、 「スマホなどに熱中していると、1分間に5回程度までまばたきは減ってしまう」 ( 後藤院長 )。 まばたきの回数が減ると、涙の量は減り、目の表面の角膜や結膜が傷つく。 さらに、目が乾燥するだけでなく、目に必要な栄養分の補給や目の修復の妨げにもなるそうだ。 長時間のパソコン作業やスマホの使用、コンタクトレンズの装着、エアコンなどは、ドライアイを進行させやすいので要注意。 |
日常生活にスマホが浸透し、プライベートな時間だけでなく通勤途中でも、四六時中スマホ漬けという人は珍しくはない。 スマホだけでなく仕事などでパソコンを使用していると、まばたきが減ってドライアイ、さらには眼精疲労になるだけでなく、画面のバックライトのLED( 発光ダイオード )から放たれるブルーライトの影響も受ける。「ブルーライトの人体への影響は研究が始まったばかりで、まだはっきりしていないことは多い。 ただし、そもそも人間の歴史上、光源の光そのものをこれほど近くで長時間見つめるようなことが少なかったでしょう。 そのため、目への光の影響が心配されているのです。 ブルーライトを多く含むLEDディスプレーの機器は、いわば 『小さな太陽』 のようなもの。 夜間の長時間の使用で不眠が引き起こされるなど、生体リズムへの影響にも注目が集まっています」 ( 後藤院長 )。ブルーライトの研究成果は今後を待つとしても、小さな太陽を見続けることでの目や身体への影響は懸念されている。 かすみ目や視力の低下、充血の影で、ブルーライトの暴露も増加。 目から身体の不調が引き起こされている場合もあるため、 「単なる疲れ目」 と勘違いしてはいけない。 |
ドライアイや眼精疲労、ブルーライトの影響を防ぐには、スマホなどの端末を見続けないことが大切。 といっても、現代社会の便利なツールだけに、わずかな時間でも手放せない人はいるだろう。「ブルーライトについては、 『カットフィルター』 や 『ブルーライトグラス』 を活用して、低減するように努めましょう。 光のエネルギーは、距離の2乗に反比例するため、目からの距離を30センチから倍の60センチにすると、4分の1に低減することが可能です。 画面の明るさも最大輝度からかなり下げても、目で見たときの確認のしやすさの 『視認性』 は確保できます。 まぶしい画面に目は慣れやすいので、意識して輝度を下げるようにしましょう」( 後藤院長 )。画面を直視することが原因となる眼精疲労は、眼球を動かす筋肉疲労が関与している。 後藤院長が、2007年に花王のヒューマンヘルスケア研究センターと共同で行った研究では、眼精疲労やドライアイの症状がある人に対し、 「40度の蒸しタオルで10分間」 温めた研究を行ったところ、ピント調節力やドライアイが改善した。 「目を温めることで、筋肉のコリをほぐし、涙の蒸発を防ぎ、自律神経をリラックスさせるといった効果が期待できます。 仕事でのパソコン作業や、スマホを使用した後などに、 『10分間の蒸しタオル』 を試してみてください。 ただし、まぶたは皮膚組織が弱いので、やけどをしないように注意しましょう。 蒸しタオルが面倒なときには、市販されている目を温めるグッズも活用可能です」 ( 後藤院長 )。画面の強い光を防ぎ、疲れた目の筋肉は温める。 これならば長時間の携帯端末の使用も怖くない。 と言いたいところだが、やはり、四六時中はよくない。 |
「ITの発展で目を使った働き方が主流となり、目からの情報の取得の重要性は増すばかりです。 目と脳への情報の氾濫、目の酷使の流れは、当面、続くと思われます。 この状況下で、目だけでなく身体への負担は、予防策を講じても完全に防げるものではありません。 スマホなど携帯末端との付き合いには節度を持ち、さらには意図的に自然に触れることによって、目も身体も休ませる必要があるのです。 私自身も、携帯端末は文明の利器として便利に使用していますが、月に1日でも 『ノースマホデー』、寝る前の数時間は必ず 『ノースマホタイム』 を設けるよう心掛けています」 ( 後藤院長 )。便利なツールに振り回されることなく、目と身体を守るために、休憩を意識してとってみてはいかがだろうか。 |
スマートフォンが私たちの健康に引き起こし得る悪影響に、新たに 「一過性スマホ失明」 が加わった。 米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン( NEJM )に掲載された報告の中で、イギリスの研究チームは、それぞれ早朝と深夜に一時的に目が見えなくなったと医師の元を訪れた2人の女性のケースを紹介。 その原因について医師たちは、暗い場所で片目でスマホを見ていたことが原因で引き起こされた一時的な症状と判断した。 ベッドで横向きに寝ながら( ここが重要。 横向きに寝ると片方の目は枕に埋もれ、もう片方の目だけでスマホを見ることになる )スマホを見ると、どうなるのか。 研究報告の著者らは、次のような仮説を立てている。 「スマホを見ていた方の目は光に慣れ、枕で隠れている方の目は暗闇に慣れる。 その後( スマホを手放すと )、スマホを見ていた目は暗闇に慣れるまでに数分の時間がかかり、一時的に失明のような状態が生じる」 言い換えると、スマホの画面を片目だけで見ていると、その目の光感受性色素が 「白く」 なってしまい、もう片方の目よりも通常の光に対する感受性が一時的に弱くなる。 明るい陽射しの中から屋内に入った時に、目が屋内の暗さに慣れるまでの数分、見えないような感じになるのと同じことが、片方の目だけを光にさらした時にも起こるのだ。 だがこれは一時的に 「失明」 したように感じるだけで、実際には違う。 そしてスマホが私たちに及ぼす影響は、これ以外にもあることが分かっている。 |
片目の 「失明」 現象は、スマホを手にベッドに横になった時に起こる危険の1つにすぎず、ほかにもっと健康への影響が大きい危険はある。 スマホやタブレットが発するブルーライトは、私たちの睡眠覚醒サイクルを狂わせることが分かっている。 その一因は、ブルーライトが、睡眠をつかさどるメラトニンというホルモンの量を減らすことにある。 複数の研究によれば、ベッドの中でこれらの端末機器を使う人々はメラトニンの分泌が抑制されるだけでなく、レム睡眠に陥るのが遅れて翌朝の目覚めも悪くなる。 専門家は、寝る少なくとも1時間前にはスマホやタブレットの電源を切って、神経系を落ち着かせるよう勧めている。 |
ここ数年で 「テキストネック( スマホ首 )」 や 「スマホ肘」 といった身体的不調も取り沙汰されている。 「テキストネック」 は、スマホ画面を見るために首を曲げる姿勢が原因で起こる症状。 「スマホ肘」 は、長電話をしてスマホを耳に当てる姿勢を続けることで、尺骨神経が圧迫されて運動障害や違和感が引き起こされる症状だ。 |
スマホが身の危険や死を招きかねないこともある。 運転中のメールが最も危険だが、もう1つが歩きスマホだ。 特に携帯メールをしながら歩くと、周囲が見えないため電話で話しながら歩くよりも危険だ。 非営利組織ピュー慈善信託の調査によれば、別のことに気をとられながら歩いていることが原因の怪我は毎年、着実に増えており、一部の死については歩きながらスマホなどのガジェットを使っていたことが原因とされている。 |
おそらく最もよく知られているスマホの “危険” は、その中毒性だ。 最近の世論調査によれば、子どもの50%、親の27%が自分はスマホ中毒だと感じている。 まだ正式な定義や心理学者たちによる共通認識はないが、私たちの多くは必要以上に頻繁にスマホに “強く引きつけられて” チェックしている。 私たちがさらにスマホに夢中になり、それがいずれ問題化する日が来ることも想像に難くない。 精神的・肉体的な健康のためには、 スマホの使用頻度を意識的に減らすのがいいかもしれない。 身の安全のために持ち歩く必要がないならば、 外出時に家にスマホを置いて行く、 在宅時に別の部屋に置いておく、 あるいは仕事中はバッグの中にしまっておくようにしてみよう。 ベッドの中でスマホをチェックするのは、絶対にやめた方がいい。 |