採用面接で候補者に名刺すら渡さなかったり、出入りの業者だからといって、ぞんざいに扱うことについて、何の疑問も持たない会社は数多い。 しかし、社外からの訪問者という意味合いでは、彼らも立派な 「お客さま」。 こうした人たちにまともな対応ができない会社は日々、無意識のうちに自社のイメージに泥を塗っていると思った方が良い。 採用候補者として名刺を渡しても、面接担当者は名刺を受け取るだけで自分の名刺は渡さず、名乗られただけという経験をした方も多いに違いない。 候補者から名刺を渡そうとしなければ、多少の自己紹介をして、そのまま面接に入ることが通例だ。 中には、こちらが名刺を渡したり、自己紹介したりしても名刺を差し出さないどころか、名乗りもしない採用面接担当者もいる。 そして名乗らないことを、当然だと思っている採用面接担当者もいるのだ。 |
なぜ採用担当者たちは 候補者たちをこうもぞんざいに扱うのか? |
その理由を聞いてみると、 「人事部からそう指導されているから」、 「採用面接マニュアルにそのように書いてあるから」、 「従来から、そうしているから」 など、特に意識していないというケースもあれば、 「なぜ、取引先でもない採用候補者に名刺を渡さなければならないのか?」、 「リスク管理のために渡すべきでない」 と答える人もいた。 「リスク管理のため」 とは分かりづらい理由かもしれないが、要は 「取引先でもない、人となりもわからない採用候補者に名刺を渡して、悪用されたらどうするのか」、 「不採用になった候補者から、個人的に恨まれてはかなわない」、 「( 恨まれないまでも )採用に関して、個別にコンタクトされては困る」 というわけだ。 しかし、そこまで目くじらを立てて 「リスク管理」 を優先する必要が本当にあるのだろうか? 採用窓口である人事部ではなく、面接担当者にコンタクトしてきたら、 「採用窓口へお問い合わせください」 と誘導すればよいだけではないか。 採用窓口は人事部と知りながら、何か理由があって、面接担当者に直にコンタクトしてきたのであろう。 そうした事情を斟酌して、応ずる気持ちがあるのであれば応ずればよいし、応ずる考えがないのであれば、人事部へ回せばよいではないか。 こうした行動は、ビジネスにおいてはごく普通の応対だと思われるのだが、なぜか採用候補者に対しては、防衛本能が働いてしまうようだ。 確かに、書類選考しているとはいえ、採用候補者の人となりは、会ってみないと分からない。 それは言えるだろう。 しかし、会ってみなければわからないという状態は、初めてコンタクトする潜在顧客も同じではないか。 しかし、潜在顧客には嬉々として名刺を渡し、採用候補者には名刺を渡さないということが起きているのだ。 採用候補者に対しては、あたりまえの挨拶がなぜできないのだろう。 「不採用になった候補者から、個人的に恨まれてはかなわない」 という理由が挙がった採用面接のケースをひもといていくと、不採用になった場合に恨まれるような面接をしている事例が山ほど出てきた。 「その場で過去の成果について、ダメ出しをする」、 「その程度の実績では、当社では通用しないと断言する」、 「転職理由をくどくど聞いて、その都度、異論を唱える」、 「面接中に面接担当者が居眠りをしてしまった」 という実例まで挙がった。 ビジネスパーソン同士の対応とは思えない言動である。 |
「業者扱い」 で失礼があっても平気な企業は お客さまの支持を得られない |
採用候補者に名刺を渡したくないという心理が働くというケースでは、面接そのものに対するネガティブなマインドや、書類選考する部門( たいていは人事部 )に対する不信感を、面接担当者自身が根強く持っているケースも少なくない。 「この忙しい時に面接を入れられて迷惑だ」 ( できるだけ手間をかけずに、早く、済ませよう )、 「現場をわかっていない人事部が書類選考した候補者に、良い人材がいるはずがない」 ( まともに相手をしてもしょうがない )、 「自分( たち )が最高だ。 自分( たち )以上に優れた人材がいるはずがない」、というわけだ。 そもそも、面接をする前段階から、面接担当者のマインドが間違っている。 面接担当者が採用候補者へ名刺を渡さない会社は、採用候補者をお客さまとして接遇していない会社だと言えることは間違いない。 お客さまとまでは言わずとも、通常の社外の方に対する対応をしていない、いわばビジネスパーソンとしての言動にもとることになる。 事情はともあれ、 「手間をかけずに済ませよう」、 「良い人材がいるはずがない」 と思い込んで、普通の対応ができていないということが、大きな問題だ。 多くの企業では、 「お客さま」 は 「当社製品やサービスを買ってくれる人・企業」 という暗黙の了解があるようだ。 しかし 「来客」 という言葉があるように、外部から会社を訪ねてくる人は、広い意味で 「お客さま」 であるはずだ。 また、宅配業者や清掃業者など、こちら側がお金を支払っている企業に対しても、 「カネを払っているのだから、腰を低くしろ」 とばかりに横柄な態度を取るのはいかがなものか。 こうした人たちも、日常生活の中で、あなたの会社のサービスや商品を利用している 「お客さま」 であるかもしれない。 仮に直接の 「お客さま」 でなかったとしても、こうした人たちに悪評をもらってしまうような接遇をしていれば、知らず知らずのうちに、自社の企業イメージに泥を塗っているのと同じだ。 面接を受けにきた人たちも同様だ。 「不採用になれば、当社とは縁がないのだから」 と考えるのは、あまりにも短絡的発想だ。 そして、採用候補者をお客さまとして接遇することのできない会社は、取引先に対しても、程度の大小こそあれ、お客さまとして接遇できていない部分があると見た方がよい。 「取引先のレベルによって対応が変わる」、 「取引先の担当者の職位によって接し方が変わる」、 「取引先のオフィス内外で態度が変わる」、 「取引額の大小により応対が変わる」、 「礼を失した言動を発してしまう」 ……。 こんなことが生じてしまったら、目もあてられない。 「当社はそんなことがないよう、社員を指導している」 と胸を張る企業もあるかもしれない。 しかし、本当に細部にまで目が行き届いているだろうか? たとえば、受付電話の横に 「お客さま:内線○○番へおかけください」 という案内の下に、小さな文字で 「業者の方:内線○○番へおかけください」 という表示に代表される、 「お客さま」 と 「業者」 を区別する対応をする会社は多いが、私にはその理由がわからない。 荷物運搬用のエレベーター、社員用エレベーター、来客用エレベーターを区別する理由は分かる。 荷物運搬用は、養生シートを設置する必要があるだろうし、お客さまを優先することも明快だ。 しかし、受付で 「業者」 を区別する理由があるのだろうか。 |
ATM利用者はお客さまに非ず!? 失礼きわまりない張り紙 |
中には、狭義の 「お客さま」 をもレベル分けし、ぞんざいな対応を取っているケースもある。 先日、某メガバンクATMの入り口ドアの前に張り出された告知版に目を疑った。 そのATMは、繁華街の道路に面したビルの1階にあり、8畳ほどの極めて限られたスペースだった。 案内文には、 「通行されるお客さまの迷惑になりますから、ATMの利用者は建物の壁面に沿って一列でお並びください」 とあった。 ATMの利用客は、お客さまではないのか。 こんな文章では、明確に意図していないにしても、無意識のうちに 「ATMに並ぶ人はお客さまではなく、通行人などから銀行が苦情を被る、迷惑を引き起こす人」 というメッセージが伝わってしまう。 「限られたスペースですが、少しでもお役に立つようにATMを設置しています。 ATMをご利用のお客さまは、安全のため建物の壁面に沿ってお並びいただければ幸いです」 …… と書けばよいではないか。 仮にこのような意図があったとしても、そうした意図は全く伝わっていないのである。 採用候補者も、 「業者」 も、ATM利用者も、 「社外の方」 であることに違いはない。 であれば、ことさら 「お客さま」 と 「それ以外」 という分類をして、あからさまに態度を変えるのではなく、 「社外の方」 に対する、ごく普通の対応をすれば済む話だ。 「お客さま第一」、 「クライアント・ファースト」、 「顧客第一主義」 …… お客さまを尊重することを社是として掲げている会社は数あれど、具体的な行動にブレイクダウンして、ガイドできている会社は極めて少ない。 狭義のお客さまに支持され、伸びていく会社は、広義のお客さまへの対応がしっかりしているものだ。 |