( 2016.12.08 )



 少子高齢化社会を迎えた日本について、人口問題や社会保障の観点から積極的な提言を行っている第一人者の森田朗さんから、日本の人口がなぜ減ったのか、また、少子高齢化は何が問題なのかについて伺いました。
木本武宏きもと たけひろ : 1971年大阪府生まれ。1990年木下隆行とお笑いコンビTKOを結成しツッコミを担当。2006年、東京へ本格的進出。S−1バトル優勝、キングオブコント総合3位などの受賞歴がある。テレビドラマやバラエティなど、ピンでも活躍中。レギュラー番組にTOKYO MXテレビ『昼キュン!』水曜日MCなど。『Abema Prime』金曜日では、本連載をビデオコンテンツ化した番組も配信中。
森田朗もりた あきら : 国立社会保障・人口問題研究所所長。1951年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、千葉大学法経学部教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授、同公共政策大学院院長、厚生労働省中央社会保険医療協議会会長などを歴任。2014年4月より現職。人口問題、行政学、医療・社会保障、地方自治などについて積極的な提言を行なっている。著書に『会議の政治学I~III』(慈学社出版)など。

ジェットコースターの急坂を迎えた日本

木本 : 日本の人口はどのように変化するのか。 今日は、人口問題について教えていただきます。
まず、 「日本人口の歴史的推移」 という面白い形をしたグラフが、いま私の目の前にあります。
森田 : これは長期的な日本の人口推移をグラフにしたものです。 西暦600年から2200年までの人口の推移を見ると、平安時代が500万人強、関ヶ原の戦いの時で現在の10分の1の1200万人、江戸時代に3000万人を超えて、明治以降、急激に増えました。 2010年まではドカンと上がったわけです。 ところが、そこが頂点で、これからジェットコースターのフリーフォールのように急減していきます。



木本 : 徐々にじゃなくて、急激に下がる原因は何でしょう。
森田 : これは、少子化につきます。
木本 : 基本の部分を聞きますけど、そもそも、どうして少子化になっているんでしょうか。
森田 : 結婚する人が少ない。 結婚しても子どもを作らないし、作っても1人か2人しか作らない。 経済成長が鈍って多くの人が正社員になれなくなっているので、子どもを産み育てる経済的余力がない。 産んで育てようにも、女性が働きに出るための保育所が足りない、という流れです。 また、女性が高学歴化して、かつては多くの人が20代で第一子を産んでいたのが、今では過半数の人が30歳を過ぎるようになったので、4人も5人も産めません。 そういういろいろな理由が重なっています。


人口が減る要因は以前からあった

木本 : ここを解決すれば人口が増える、という答えのパターンが見つからない。
森田 : 日本だけではありません。 多くの国がいろいろな政策を打ち出しているのですが、どの国も少子化対策には苦労しています。
木本 : かつてないものを経験しているんですね。
森田 : それを示しているのが2つめのグラフです。 「日本の人口推移( 年齢3区分 )」 を見てください。 こういうカーブになるんです。
木本 : 先生、すみません。 2つめのグラフ以降は、ヤフーニュースなど一部のサイトでは見ることができないので、わかりやすく説明してください。
森田 : 過去130年を振り返ると、1955年が年少人口がいちばん多かった時代です。 そのあと団塊ジュニアの時代にもう一度、山になっている時期があります。 その後、3番目の山ができないままずっと減ってきています。
「生産年齢人口」、つまり生産活動の中核を担う15歳以上65歳未満の人口をみると、1995年をピークに減っている。 少子化に気がつかなかったのは、高齢者がどんどん長生きし、総人口は、国勢調査では2010年( 総務省の 「推計人口」 と呼ばれている公的な年次別人口では2008年 )まで増え続けていたために隠されていたのです。 ただ、高齢者も無限に生きられませんから、人口が急速に減り始める。 しかも、子どもの人口は減っているから、全体の人口はさらに減っていくわけです。



木本 : なるほど。人口構成をみれば、問題は以前からあったわけで、人口急減は予測できていた、ということですね。
森田 : 次のグラフ、 「人口ピラミッドの変化」 を見てください。 昔は子どもが産まれても、栄養状態や医療の未発達で毎年多くの人が亡くなった。 そして、65歳まで生きる人がほんの少ししかいなかった。



木本 : 1960年がそういう年齢構成ですね。 本当にピラミッドのような形をしています。
森田 : ところが医療が発達して、皆が長生きするようになった。 2010年の65歳前後の人口は非常にボリュームがあります。 2030年の予想を見ると、少子化でだんだん下の年齢層がすぼんでくるのがわかるでしょう。
木本 : 焼き物作りのためのロクロみたいな形に変化していきます。
森田 : だんだん横幅( 人口 )が狭くなって、ピラミッド型から砲弾型になって2060年には壺型になるわけです。
木本 : 器に例えると、だんだん不安定な形になってきている。 明らかに後期老齢人口の赤い部分が膨らんでいますもんね。


2060年にいちばん多いのは86歳

森田 : 推計ですが、2060年でいちばん多い年齢層は86歳なんです。
木本 : ええ⁉ 86歳のお年寄りがいちばん多くなるんですか。
森田 : 86歳の女性が70万人強になる推計です。
木本 : やっぱり女性のほうが長生きする。
森田 : 男性よりは長生きなのは間違いない。 2060年の推計だと、産まれてくる女の赤ちゃんは多めに見積もっても33万人、真ん中で23万人。 少ない場合には16万人です。 70万人以上いる86歳に対して、生まれてくる赤ちゃんが20万人強だと ……。
木本 : 赤ちゃんは3分の1以下にすぎない。
森田 : 赤ちゃんがどんどん減っていくわけです。 生まれた時のボリュームからして、移民など外から人が入ってこない限り、将来膨らむことはあり得ません。 その後、年を重ねるほど下はもっと細くなる。
まったく数学的な計算ですが、西暦3000〜3500年には最後の日本人がいなくなるのです。
木本 : ええ!そんな計算になるんですか。
森田 : 1人の女性が一生の間に生む子ども数の平均値が合計特殊出生率ですが、2.07だと親世代と同じ数の子どもが産まれて人口がずっと維持できます。 今は1.45程度まで落ちています。 そうである限り親の世代より人口は増えない。 少子化対策で増やそうといっていますが、それは簡単ではない。 次のグラフ 「女性20~39歳人口の減少」 を見てください。
いちばん外の枠が2010年でその世代の女性は1584万人います。 でも2060年には、736万人で、2010年の46.5%と半分以下になるのです。



木本 : たしか20~30代って、生物学的には女性がいちばん子どもを産みやすい時期ですよね。
森田 : おっしゃるとおり20~30代の女性から約95%の赤ちゃんが産まれますが、過去の少子化の影響でその世代の女性の数が減っている。 したがって、1人の女性が2.07人産んだとしても子どもの数は減っていきます。 それが繰り返されるので長期にわたって人口は減るということになる。 少子化対策などが功を奏して、急に生まれるようになったとしても、底を打つのが2060~2070年くらいと計算されています。


都市部では高齢者の人口急増が起こる

木本 : でも、今を生きる僕らにとっては、現在のバランスの悪さにも問題がありますよね。
森田 : そこがまさに高齢者の問題。 グラフで頭でっかちなピラミッドを見せましたが、若い世代は減っても、高齢者の世代は固まりとして残ります。 それが社会保障の課題になる。 では、次のグラフ 「高齢者の都道府県分布の変化」 を見てください。
木本 : グラフがたくさんありますね。 どう見ればいいんでしょうか。
森田 : 都道府県ごとに65歳以上の人がどれだけいるかですが、特に首都圏・都市部で爆発的に高齢者が増えます。 これをどうするかが21世紀前半のわが国の大きな課題といえます。



木本 : なるほど。高齢者に限ると人口は急増するわけですね。 とくに大都会は高齢者が急増しますね。
森田 : まだ見てほしいグラフがあります。 次のグラフ 「従属人口指数の年次推移」 を見てください。 従属人口指数とは年少人口と老年人口を足したものを生産年齢人口( 15歳~65歳 )で割った数字です。 支える世代と支えられる世代の比率がわかります。 戦前は70%ありました。 つまり働く人100人に対して70人くらいの子どもと高齢者がいた。




「人口ボーナス」 が高度経済成長の要因

木本 : 働ける大人が、お年寄りと子どもを結構な負担で支えていたと。
森田 : 一方戦後、団塊の世代と団塊ジュニアが大人になった時は、生産人口がすごく増えましたが、子どもが減って、お年寄りも少なかった。 生産人口に属する人たちが社会の富を作りますが、その富を 「次の世代と高齢者を支えるためのおカネ」 にあまり使わなくて済んだ。 そこで残った部分を新たに投資できて、高い経済成長を生み出した。 それが人口の観点から見た高度経済成長の説明。 人口ボーナスという概念です。
木本 : なるほど。 では人口オーナスとはなんですか。
森田 : 高齢者が増えてくると社会保障で支えなければならない。 すると生産人口が生み出した富のうちのかなりの部分が社会保障に振り向けられる。 いわゆる投資に向けられるおカネが少なくなる。 それが人口オーナス。 オーナスとは負担という意味です。
木本 : 高度経済成長をしたら、次は成熟というのが人口で説明できるわけですね。
森田 : はい。 そこで成長が止まってしまう。 次のグラフ 「世界の従属人口指数」 はアジアの国の比較を示したものですが、日本は1970年から1990年くらいまでがボーナスの時期でした。 韓国は現在ボーナスの後期に相当します。



木本 : 日本と10年ずれている感じですね。

どの国もボーナスを経験し、その後は下がる

森田 : 中国、インドネシア、インドもそうですが、それぞれ歴史の中で一度だけ人口ボーナスを経験するといわれています。 でもその後は、どの国も角度は違ってもカーブを描いて下がってくるでしょう。
木本 : ジェットコースターの登りから下りに転換するときのお腹がフワッとするような感覚ですかね。
森田 : その例えはいいかもしれません。 中国は今ボーナスのいちばん低いところにあるかもしれません。 中国に経済成長が起こって、それがだんだん低下していくのは、他の要因もありますが、人口的にはボーナスの概念で説明できる。
木本 : 確かに爆買いの時期と一緒。 韓国もボーナスが終わる。 少子化対策として、移民をどうするかは大きな問題ですよね。 たとえば、ドイツは積極的に移民を受け入れてますが、どんな思惑があるのでしょうか。
森田 : 去年、シリアなどから急増した難民を受け入れたのには思惑があると思います。 ドイツも人口が減っていて、生産維持のためには労働者が必要だということ。 日本にも移民をと言いますが、それほど簡単ではない。
次のグラフ 「出生数と死亡数の推移」 を見てください。 2010年の人口ピークを過ぎてから1年で28万人減っています。 産まれた赤ちゃんが100万人で、亡くなったのが130万人弱。 こらから毎年30万人減っていく。 2039年をピークに毎年100万人以上減ります。 毎年100万人以上を海外から受け入れるとはどういうことなのか。 でも、そこまでしないと人口が維持できないのです。



木本 : それだけの人口減少を補おうと、ドンと受け入れたらバラエティの世界も変わるかもしれない。 いま、バラエティ番組では海外から来たタレントが大人気です。 ひな壇を目指してますます熾烈な戦いが繰り広げられるような気がします。 僕も危なくなってしまう。

簡単には移民を増やせない

森田 : それもありますし、その人たちはどこから来るんですか、という問題もある。 日本に貢献してくれる学歴の高い人に来てくださいと言っていますが、それは世界中が求める人材なわけです。 どなたでもよくて、低賃金で労働してもらえる方を受け入れたとします。 仮に彼らを日本人にして、国民として同等に扱うならば将来の社会保障にもかかわってきます。
木本 : いろんな仕事をしても選挙権はなかったりして、制度を整備するのも必要ですし、われわれも変わっていかないといけませんね。
森田 : 人権や憲法の問題からも考えなければいけません。 労働力とだけとらえて、非人道的な政策をとる国や、要らなくなったら帰ってもらう制度の国もある。 今のままでは日本で移民を受け入れるのは難しい。 暗い話ですが、これもあれもというハードルが高いです。
木本 : 地球全体で人口は減っているんですよね。
森田 : 地球全体で見れば人口ボーナスが終わって、全世界で人口が減るところまでいっていませんが、インドでも少子高齢化の傾向が出てきています。 その一方でアフリカ諸国の人口は増えている。 かつては先進国の人口比率が高かったのですが、南アジア、アフリカがかなりの人口を占めるようになる。 人数は力ですから、国際政治の情勢も変わっていくことになるでしょう。
木本 : なんとも暗い気持ちになりますね。



木本 : 人口の急減によっていったい何が起こるのでしょうか。 暗い話を聞く前に、 「人口が減るメリット」 を聞いておいていいでしょうか。 何か、メリットはありますよね?
森田 : もちろんメリットはあります。 生産量が変わらなければ食料の自給率が上がるのがひとつ。 人口が減ればエネルギー需要も低下しますから、自然エネルギーでかなりカバーできるようになるかもしれません。

一時的なメリットはあるが ……

木本 : 人が少なくなると、土地、家、車は売れなくなって値段が下がるのはメリットですかね。
森田 : 値段は下がりますが、車に乗る人が少なくなっています。 最盛期は年間780万台売れていましたが、今は450万台前後です。 東京においては、都心に家が買える。 長時間乗車を強いられた満員電車が空いてくる、高速の渋滞がなくなるといったあたりが一時的に得られるメリットかもしれません。
木本 : 本当にささやかなんですね。 では、本題に入ります。 しかし、このグラフは本当に大きなインパクトがあります。 いったい、私たちは何を覚悟しなければいけないのか、教えてください。
森田 : 「住み方」 を変えていく必要が出てきます。 子どもの数が減れば、学校はそんなにいらない。 一学級あたりの人数が減って教師もこれまでのようにいらなくなる。 うまく学校を統廃合すれば、少ない数の先生で質の良い教育が受けられる可能性があります。
ただ、住む地域によっては一人あたりのコストが上がりますから、住み方の問題は考えなければいけない。 元岩手県知事で前回の都知事選にも出た増田寛也さんの 『地方消滅』 という本が話題になりました。 規模を維持できない自治体が増えていき、いずれ896もの自治体が消滅するという予想です。 消滅というと悲しいですが、上手にコンパクト化をするという政策はある。 すでに地方では空き家問題が出てきていますが、不動産の需要減で、土地の資産価値が下がることの影響も見逃せません。

高齢者と若年層の軋轢が高まっていく

木本 : どこを増やしてどこを減らすかをみんなで考えるしかないですね。
森田 : 人口が減ると労働力が減りますが、これは同時に消費者も減ることを意味しています。 企業は国内をマーケットにしているだけだと事業規模を縮小しなければいけない。 今は海外でたくさん売って、企業収益を確保しています。 今後必要になる労働者をどう確保するのか。 海外から入れるのが難しければ、高齢者に働かせようという方向になっています。
木本 : でも、できる仕事は限られるのではないでしょうか。
森田 : 最初は定年延長でしょうね。 今は労働力不足なので歓迎されますが、将来的には高齢者の比率が増加していく。 そうなると、若い人から職場を奪ってしまうおそれもあって、その調整で大きな軋轢を生みます。 今後しばらくは、そこが大変なことになります。
木本 : 古い世代の人が会社に残ると、若い人は働きにくい。 そうなると、それがイヤになって会社を辞めていく人も増えそうですね。 会社の中に残っている高齢者に対して、 「もう辞めてくれないかな」 という気持ちになる人もいると思います。 もちろん、高齢者にも働く場所や働きがいがあったほうがいいんでしょうけれども。
森田 : 今までとはまったく違う下り坂のカーブです。 これまでは足りないものをどう増やすかに知恵を絞ってきましたが、これからは余っているものをどう切っていくかにフォーカスしなければいけない。
国民意識の変革と、新しい仕組みが必要です。 公共事業で作った橋や道路が老朽化して建て替えるとします。 橋を渡った向こう側の人口がどんどん減っているので、今まで3本あった橋を全部修繕することはできない。 1本だけ修繕して、残りの2本は閉鎖するという場合、どの橋を残せばいいのか。どうやって決めればいいのか。
木本 : 誰だって 「自分の家の目の前にある橋」 を残したいですよね。 そうなると、いろいろな対立が生まれそうです。
森田さんは優しい方ですよね? ひょっとして、あまり日本人を不安がらせないようにしていませんか(笑)。 鈍感な僕に 「最悪の話」 を教えてください。



森田 : 人口減といっても、実は都市部の高齢者が爆発的に増えます。 首都圏では75歳以上の人口が今後30年で2倍以上に増える。 こうした高齢者は職場が東京にある 「千葉都民」、 「埼玉都民」 の方も多く、地域のコミュニティに根ざしていない。 リタイアしても身近に親しい人がいない。 そんな人も、いずれは医療介護を受けるようになります。 介護者が絶対的に不足する中で、どうやってケアするのか。 これが大きな課題になります。
単身者も多いので、団地などでは孤独死がかなり出るでしょう。 それは覚悟しなければならない。
木本 : ちょっとブラックユーモアですが、交番に 「昨日の孤独死は何人」 という看板ができてもおかしくありませんね。
森田 : その前段階で心配しなければいけないのが認知症です。 首都圏で65歳以上の老人が400万以上増えるわけです。 その中で認知症になる人が10%だとして40万人。 そのうち10%の人が車を運転するとしたら、大変な問題が起きる可能性がある。


新たなシニアサービスはアジア展開も可能

木本 : 今でも、高齢者の起こす死傷事故が増えているように感じます。 孤独死だけでなく交通事故死も増えることになれば、交番の看板は大変なことになるかもしれませんね。
一方では、新しいビジネスにも期待できるように思います。 メーカーもシニア家電の開発には力を入れています。 シニア世代のあらゆるところがお金儲けのターゲットになれば、みんな食いつくかもしれません。
森田 : おっしゃるとおり。 産業としては成り立ちます。 ただその製品を買うだけの余裕がある高齢者がどれだけいるのか。 年金生活者は、年金そのものが減って苦しくなりますから。 よほど安くて便利でなくては、簡単には普及しないように思います。
木本 : なるほど。値段は高くせず、今あるものを、お年寄りが使いやすいように変化させることが大事ですね。 でも、そうなってしまうと新しいものが生み出せなくなって、大事なイノベーションという部分が衰退する危険もありますね。
森田 : シニア向け製品におけるイノベーションということは考えられるでしょう。 国内だけでなく世界を見渡せば、シニア向けの新技術や新サービスの市場規模は、どんどん大きくなります。 アジアの国も高齢化が進み始めており、日本の社会状況を追いかけていきますから。
木本 : 日本が先行できる、と。
森田 : それはあり得ます。 しかし、カギを握るのは、引退をせずに働き続ける 「若いお年寄り」 をどれだけ増やしていけるか、でしょう。 年金に頼らず、収入を得ながら活発に消費を続けるお年寄りが増えれば、消費行動を全体として上へシフトさせることができます。
木本 : なるほど。 そのうえで、運転者が気を失っても安全に止まる仕組みを搭載した自動車に乗ることを義務付ける、などの施策も必要になるかもしれませんね。
森田 : 高齢者が長生きするのは結構なことです。 しかし、忘れてはいけないのは、幸せな人生を送るには誰かの支えが必要だ、ということ。 その支えてくれる人が減っていくわけです。 とくに独身の方は深刻です。 男性の場合には4人に1人が生涯独身。 高齢化したときにどうなるのか。 今でも深刻な問題ですが、これからますます問題が大きくなります。
木本 : そうですね。 僕は4人兄弟で、たまたま4人で祖母や父の世話ができていますが、一人っ子だったらどうなっていたんだろうか、と想像してしまいます。


シルバーデモクラシーが若者の希望を奪う

森田 : 一人っ子は多いですから。子どもが多ければ、一人だけ親元に残って、あとは都会に働きに行く ―― これが地方における標準的な家庭の在り方でした。 結果として都会の人口が急増し、高度経済成長を促したわけです。 その一方で、地方に残っている子どもが墓を守り、親を養ったわけです。
ところが、今は一人っ子が都会に出てしまうと残るのは親ばかり。 元気なうちはともかく、その人に介護が必要になった時にどうするか。 都会での仕事を辞めて介護のために地方に帰らざるを得ない人はたくさんいます。 そうした方は、ますます増えていくでしょう。
木本 : 確かに 「介護離職」 という言葉を目にするようになりました。 僕自身も、安心して年を取れないな、老後が不安だな、という実感があります。
森田 : 今の40歳代は大変でしょう。 今の高齢者は年金もあり、支えてくれる人がいる。 ところが、次の世代では年金は使い果たしているから、ほとんどもらえなくなる。 そのあとの世代になると、もっと厳しくなります。
それでも若い人に大きな負担をしてもらう仕組みは変わらない可能性がある。 なぜなら、有権者に占める高齢者の割合が多くなってシルバーデモクラシーと呼ばれる傾向が強くなっていくからです。 若い人たちが 「嫌だ」 と投票しても、政党は、今の高齢者の利益になるような政策を選ぶ。 高齢者のほうが票数が多いからです。
木本 : 厳しい話ですね。 若者たちの意見は結果として反映されない、と。
森田 : 高齢者が生活するための原資は若い人にまかなってもらう、ということになるでしょう。 これは、民主主義のルールでやっているかぎり簡単には解決しない問題です。
まずは 「今は一時的な右肩下がり。 また上がるんじゃないか」 という発想を捨てないといけません。 失われた10年とよく言いますが、この言い方だと失ったものを取り戻せるように思うでしょうが、取り戻すことはできません。 したがって、新しい局面におけるベストの解は何なのか、という未来を向いた発想をしなければダメです。
木本 : 日本はなんでこんな大変なことになってしまったのでしょうか。
森田 : これは日本だけの問題ではありません。 世界中で起こっている問題です。


アジア各国が急速に高齢化する

木本 : 高齢化に迅速に対応できている国はあるんですか。
森田 : ヨーロッパは 「人口ボーナス」 が比較的緩やかなものだったため、対応する余裕がありました。 しかし、それが社会保障政策などの政策的努力の産物かどうかはわかりません。 でも、日本をはじめとするアジアの場合は人口ボーナスが大きかっただけにインパクトが大きいのです。
木本 : お手本にできる国がないなら、独自で道を見つけるしかないですね。
森田 : 2040年以降、日本の場合には高齢化率が40%に近づきます。 100人のうち36人が65歳以上になりますが、そんな国は歴史上存在しません。 どうするかを自分たちで考えていかざるを得ない。
木本 : 毎年130万人の人が亡くなる時代がやってきます。 果たして火葬場は追いつくんでしょうか。



森田 : 今でも、火葬場のキャパシティより多くの人が亡くなることがあります。 したがって、亡くなって翌日、翌々日に火葬するのが難しくなっている。 ですから、遺体を冷蔵保存する業者がビジネスになっています。 しかし1週間ならともかく、1カ月待ち、2カ月待ちになったら大変なことになるでしょう。
木本 : 事前に予約ができるものではありませんからね。


電車の優先席を増やすべきなのか

森田 : 保育所ですら自宅の近くに建ててもらったら困るという人の声が大きい時代です。 ましてや火葬場を新設することは簡単ではない。 今は市町村ごとに作っていますが、広域的な対応も必要になるでしょう。
70歳を表す 「古稀」 という言葉の意味は、 「古来稀なり」 という意味です。 めったにいないからこそ大事にしましょう、ということでお年寄りを大事にしたわけです。 その延長線上で、電車の優先席を増やせという議論がある。 お年寄りをもっと大事にせよ、ということです。
しかし、そうなると割を食うのは若い人たちです。 新聞の投書で読みましたが、登山をしてきた元気な高齢者が優先席に座っている若者に聞こえよがしに 「近頃の若者は年寄りに対する敬意が足りない」 と言ったそうです。 それを聞いた若者が疲れた顔で 「あなたたちの年金はわれわれの残業代から出ているのだ」 と反論したそうです。 殺伐としていますが、もう敬ってもらえる存在ではないのです。
木本 : 確かに、 「高齢者を支えている自分たちを敬え」 と言いたい気持ちもわからなくはありません。 でも、世代間対立が深まるのは避けたいですね。
藤子・F・不二雄の漫画に、自分の余命を決められる薬を配る話があります。 仲間と冗談で 「自分の寿命が決められるといいのにな」 という話をすることがあるんですよ。 僕らの世代は老後にワクワクしていないんです。
森田 : 気持ちはわかります。 生き方死に方をどうするか? 人生観そのものをどう変えていくかも問われることでしょう。 たとえばスイスには自殺幇助罪がなくて、尊厳死が認められている。 安楽死を求めてスイスに渡航する人もいるそうです。
木本 : そのうち 「長生きしたい」 という発言が空気にそぐわない時代になるかもしれませんね、寂しい話ですが。 これからも、この問題を真剣に考え続けていこうと思います。





( 2018.05.09 )



 最近、ニュースなどで 「人口減少社会」 というキーワードをよく見掛ける。
 実際に、日本は8年連続で人口減少が続いている。 少子高齢化が叫ばれて久しいが、ここにきて、 「少子化=人口減少」 が明らかに目に見える形で表れてきている。

縮小する経済、深刻化する供給過多


日本にとって避けて通れない重大な問題です
 今年3月30日、国立社会保障・人口問題研究所が衝撃のデータを発表した。 2030年にはすべての都道府県で人口が減少し、2045年までに日本の総人口は1億0642万人になると予想している。

 2015年の総人口が1億2709万人だったから、今後30年で2000万人以上減少することになる。 とりわけ、ひどい落ち込み方をするのは都市部より地方で3割減が当たり前と見込まれている。

 高齢化も確実に進む。 65歳以上の人口比率は東京都や神奈川県といった首都圏でさえも、現在の高齢者数に比べて1.3倍に増える。

 ちなみに、2045年以降も人口減少は続き、47年後の2065年には8808万人、65歳以上の老年人口比率は38.4%となり、ほぼ4割が高齢者になる。

 生産年齢人口比率は51.4%に落ち込み、現在( 2015年 )の60.7%を大きく下回る。 働ける人が2人に1人の時代になりつつあるということだ。

 さて、こんな人口減少社会は日本にどんな影響をもたらすのだろうか。 大きく分けて次のような項目が考えられる。

① デフレが続く

 現在、日本銀行が実施している異次元緩和は、将来のインフレ期待を刺激してデフレから脱却しようとしている。

 しかし、今後の人口減少、高齢化社会の到来を考えれば、誰だって気前よくおカネを使うわけにはいかない。 将来インフレになるかもしれないという 「インフレ期待」 を演出しても、国の衰退を肌で感じる以上、デフレマインドは消えないし、生活防衛のために無駄な消費はできないのだ。

 デフレの原因が人口減少だけではないにしても、この問題を素通りしては解決できない。 人口減少は税収の減少をもたらし、巨額の財政赤字の原因とも密接な関係がある。

② 経済が縮小する

 今のままではあと10年そこらで、労働力人口が500万人減少すると予想されている。 実際に、文部科学省の 「18歳人口の将来推計」 によると、2028年に22歳になるのは106万人。 今年50歳になる1968年生まれの人が18歳になる1986年の18歳人口は185万人。 10年後の2028年の106万人と比較すると約80万人も少ない。

 労働人口が減少すれば、消費の中心となる人口が着実に減少していくことになる。 流行とか消費に興味がなくなった年金生活の高齢者ばかりの社会では、経済が縮小していくのは当然のことだ。 深夜営業や年中無休が売り物だったコンビニや牛丼チェーン店も、すでに人手不足が深刻で24時間営業や365日営業が困難になりつつあると言われる。 アマゾンが始めた無人のコンビニも、実は日本にいちばんニーズがあるのかもしれない。


社会全体の高齢化とともに起こること

③ チャレンジしない 「責任回避社会」 がはびこる

 人口減少社会では、若者の比率がどんどん減少して、企業の管理職や政治家、行政をつかさどる官僚や役人も、すべてが年寄り中心の社会になっていく。 チャレンジよりも安定志向が強く、現在の生活レベルを脅かすことには臆病になる。

 もともと日本企業は、昔から海外転勤する場合でも、ほとんどの社員が数年で日本に帰国してしまう。 韓国や中国のように、海外の勤務地に1度就いたら、そこに骨を埋めるようなマインドは持ち合わせていない。

 実際に、日本企業が海外に進出する場合には、ほとんどの企業が現地のスタッフに運営を任せる 「現地化」 の推進で、日本企業の知名度を上げてきた。 しかし、そのビジネスモデルが今後も通用するのかといえば大いに疑問だ。

 日本の場合、役所や病院、銀行、保険会社などなど、何らかの手続きや契約に行くと山のように同意書を書かされる。 それらの書類の山は、ほとんどが相手の企業や役所の担当者の 「責任回避」 のためのものと言っていい。

 イベントやテレビCMも数人のクレーマーによる抗議の電話だけで、イベントを中止し、放映を自粛してしまう。 人口減少社会では、そうした傾向がさらに強まることが予想される。 どうすれば自分たちが責任を取らずに済むのか ―― 社会全体の高齢化とともに、責任回避のマインドがはびこる。 ここでもまた経済の縮小が起こってしまう。

 責任回避社会は、物事の意思決定にも時間がかかる。 日本企業の多くは意思決定が遅いばかりに、グローバルなビジネスチャンスを失ってきた。 日本企業の中にまったく新しい価値観を持った人材を投入しなければ、グローバルでは勝てない時代が来ているのだ。

④ 不動産価格の崩壊が示す人口減少の影響

 バブル時代、あるいはその後に購入したマンションや一戸建ての値崩れ現象が、都心の一部を除いて現在も起こっている。 都心から1時間圏内であってもバブル時代にローンを組んで5000万円前後で購入した不動産が、現在では2000万円にも満たない。 とりわけ、一戸建てはわずか30年程度で住宅の価値はゼロに近くなる。

 自分や家族が住んでいた住まいだから、3000万円程度の資産の目減りは仕方がないと思うかもしれないが、ここまで不動産価格が目減りしてしまう国は世界でも珍しい存在だ。 しかも、ローンを支払って返済してきたことを考えると、ローン金利だけで2000万円ぐらいは余計に支払っている可能性も高い。

 つまり、首都圏など人口密集地でマイホームを取得した平均的な日本人は、生涯資金のうち数千万円は “消滅” していることになる。 マイホームは、投資ではなく 「消費」 だと言われるゆえんだが、生涯資金の相当の部分を消滅させてしまっているのが、日本人の平均的な姿なのだ。

 いずれにしても、欧米のように土地よりも建物の価値が維持されている不動産市場とは異なり、日本では土地価格しか残らないということだ。

 こうした背景にあるのが、人口減少社会だ。アベノミクスが始まって以降、どんどん住宅やマンションが建設されているが、人口が減少していくというのに誰が住むのか。 外国人投資家の先行投資の対象になっている都心部の不動産ブームも、いつまで続くのか不透明だ。

 実際に、都心の一部を除いて住宅やアパート、オフィスは余っている状態だ。

 都心の一等地では、オフィス空室率2%といった報道がされているものの、全国的に見れば7軒に1軒が空き家状態で、全国の空き家率は13.5%( 2013年現在 )に達している。 空き家やアパートなどの空室が増えている原因は、言うまでもなく過疎化であり、人口減少社会が起因している。

 日本の住宅価格は、2010年に比べて2040年には平均で46%下落するというシミュレーションもある。 少子高齢化が進む今後は、共同住宅で積立修繕金が不足して、建て替えもできない物件がどんどん増えていくことも予想される。

 今後は、建て替えられない老朽化したマンションに住み続ける高齢者が都市部を中心にあふれかえることになる。

⑤ 「2018年問題」 に揺れる教育現場

 人口減少社会の最前線といえば、やはり教育現場だろう。

 前出の人口問題研究所の地域別将来推計人口では、2042年には高齢者増加のピークを迎え、地方都市の多くで運動会や遠足が廃止され、 「受験」 で苦しむ子どもの数は少数派になりそうだ。

 東京大学は25年後でも難関校であり続けるだろうが、早稲田、慶応といった有名私立大学でさえも定員割れに陥るかもしれない。 現実に、有名私立校も含めて都心部に学校があった大学などが、2010年代に入ってから 「関東ローカル化」 を推進していると報道されている。

 地方の大学進学希望者の多くが、経済的な理由から学費の少ない国公立大学に流れており、やむをえず都心にあった名門私立大学も、学校を地方に移してローカル化することで定員を確保しようとしている。

 いずれにしても、教育産業全体が衰退していくことになるのは間違いない。 実際に、大学受験業界の現場では18歳以下の人口が加速度的に減少する 「2018年問題」 という課題が、業界のリスクとされている。


行き着く先は社会保障制度の崩壊?

 こうしたさまざまなリスクに加えて、今後とりあえず直面せざるをえなくなるのが、人口減少および高齢化社会の進展による税収不足だろう。

 とりわけ、人口減少で直面するのが、税収減と社会保障費の負担増だ。 2018年度の社会保障関係費は33兆円の予算だが、将来的にはどこまで膨れ上がるのか想像もつかない。 1990年度の決算数字では、わずか11兆5000億円しかなかったことを考えると10年間で10兆円ずつ増えている勘定になる。

 2038年には、社会保障関係費だけで50兆円を超えることになる。 2018年度の税収は前年と比べて3兆円増えて59兆円に達するようだが、縮小する経済の中で今後税収が増えていく可能性は低い。 税収も伸びないが、社会保障関係費はどんどん膨らんでいく ――。

 人口減少社会を解決するにはどうすればいいのか。 残念ながら、その答えは意外とシンプルかもしれない。 かつて、欧州でも同じように人口減少に直面したときに、ほとんどの国は移民を増やす方法を採用した。 しかし、その背景には高度なスキルを持ったIT技術者など高度人材の獲得競争があったからだといわれる。


人口減少そのものを解決する方法

 人口減少社会では、経済成長に限界がある。 経済成長を軌道に乗せるには、人口減少そのものを解決するしか方法はない。 その方法としては、次のような方法が考えられるが、いまや選択肢は数少ない。

① 出生率を飛躍的に増やす

 人口統計の常識からすると、一度人口減少が始まった国が、再び人口を増加させて現状回復させるためには100年かかるそうだ。 つまり、尋常な方法では出生率は高くならない。 結婚して第2子ができるまでは、国家もしくは企業が夫婦の面倒を見るといった、型破りな政策を打ち出すぐらいのインパクトがないと、日本の人口は増えないのではないか。

 先進国の中で、数少ない少子化を克服した国にフランスがあるが、行政のバックアップと子育てをサポートする民間企業のコラボが機能しているようだ。 たとえば、 「男の産休」 は7割が取るといった社会的コンセンサスができている。

 その点、日本では女性活用社会といいながら安心して子育てもできないし、そもそも保育園や学校でも、責任回避のツールになっている連絡帳だの、PTAだの煩雑な手続きやイベントが多すぎる。 女性が、子育てと仕事を両立させられる社会をつくらなければ、日本は永遠に沈んでいくだけだろう。

 安倍政権も、教育システムにメスを入れようとしているが、それをやるなら国家公務員のキャリア、ノンキャリア制度を直ちに全面廃止して、エリートではない人が子育て行政の現場に立たなければ解決にはならない。

② ロボットやAIによる生産性向上で人口減少に勝つ

 安倍首相が、人口減少の対策として掲げたのが 「ロボットやAI( 人工知能 )の活用」 だが、最近のトレンドとして機械化できるものはロボットに任せて、ビジネスはAIに任せる。 そのうえで、国民に対しては最低限生活できるおカネをばらまく 「ベーシックインカム」 を充実させる、という方法が話題になっている。

 とはいえ、人口減少をロボットやAIがカバーするには限界があるし、抜本的な解決策にはならない。 かつて、米国ホワイトハウスの金融担当者が 「時給20ドル未満の労働者はAIに仕事を奪われるだろう」 と予測したが、外国から優秀な人材が入ってこない日本の現状では、それだけのシステムを構築する技術が育つとも思えない。

 ちなみに、日本の高齢化がピークになる2040年代には、コンピューターが全人類の知性を超える 「シンギュラリティ( 技術的特異点 )」 がやってくるといわれている。 その頃には、行政を人間に代わって遂行する 「汎用AI」 が、4000万人にも達するといわれる高齢者の存在を、不要とする決断を下すかもしれない。

③ 単純労働者も含めて海外から 「移民」 を受け入れる

 シリア難民が欧州に押し寄せて、欧州全体が混乱に陥ったのは2016年のことだが、日本は世界的にも外国人労働者を移民として積極的に受け入れていない国として知られている。 とはいえ、実はすでに200万人を超す移民人口がある。 2015年の 「移民人口」 データで見ると、世界のベスト5は次のようなランキングになる( 資料出所:世界銀行 World Bank )。

< 世界の移民人口 国別ランキングベスト5 >
1位 米国4,662万人
2位 ドイツ1,200万人
3位 ロシア1,164万人
4位 サウジアラビア 1,018万人
5位 英国854万人
28位 日本204万人


デフレからの脱却への数少ない道

 ちなみに、日本の在留外国人数は2017年6月末の段階で中長期在留者数は213万人。 特別永住者数などを合わせると全部で247万人になる。 この数字が多いか、少ないかは判断の分かれるところだが、実際に日本で暮らす外国人はもっとはるかに多い印象がある。

 人口減少社会の解決法として最も近道といえば、言うまでもなく移民受け入れの増加だろう。 米国情報大手のブルームバーグは、日本が早期に外国人の人材を受け入れていれば、超大国になっていただろうとする社説を出したことがある。 とりわけ、IT( 情報技術 )やAIなどの高度なスキルや才能を持つ優秀な人材の獲得競争は、10年以上前から世界的に起きていたことであり、その流れに乗り遅れた日本は今後、そのツケを払わなければならない。

 移民の受け入れは、治安悪化、賃金下降を招きデフレを強める、神社がモスクに変わったり、日本の文化を守ることが難しくなったりする、といったデメリットがあることは間違いない。 しかし、コンピューターなどの才能や知識を持った高度人材を受け入れるためには、どうしても移民規制を緩和するしかないだろう。

 人口減少社会の影響は、確実にわれわれの生活を変化させている。 街にあった学習塾やコンビニ、ラーメン店が閉鎖され、代わりに有料老人ホームや高齢者向け業務サービスを届ける施設に代わっている。 人口減少社会の経済に対する検証を公平な立場から、より正確に精査すべき時期がきている。

 しかも、この少子高齢化は日本だけではなく、お隣の韓国や中国までもが抱える課題になりつつあるといわれる。 すでに外国から多数の移民を受け入れてきた欧米各国では解決済みの問題かもしれないが、国境に “高い壁” を築いてきた日本にとって、まさにこれから解決しなければならない重大な課題と言っていいだろう。

 ひょっとしたら、人口減少社会の解決こそが、長年苦しんできたデフレからの脱却への数少ない道なのかもしれない。 アベノミクスや異次元の金融緩和では、デフレ脱却できない可能性が高いのだ。





( 2017.10.02 )

  



妻が脳梗塞を患っている倉持麟太郎弁護士(35)と「禁断愛」を育む既婚で子供がいる元検事の山尾志桜里衆議院議員(44)
 死後20年以上を経った政治家・田中角栄には 「越山会の女王」 と呼ばれる愛人がいました。 ”闇将軍“ の金庫番として絶大なちからをふるう彼女の存在は周知の事実でしたが、そのことが問題とされることはまったくありませんでした。 後年、正妻の娘である眞紀子氏や愛人の娘が、 “父親の不倫” “愛人の子ども” という境遇にどれほど苦しんだかを告白しています。

 「時代がちがう」 というかもしれませんが、興味深いのは、角栄の愛人の存在が公になった1970年代は、いまよりはるかに不倫にきびしかったことです。 当時のテレビドラマには、不倫が発覚して夫の両親が嫁の家族に土下座して謝る、というような場面が出てきました。 小指を立てた男性が 「私はこれで会社を辞めました」 と語る禁煙グッズのCMは、いまでは意味がわからないでしょう。

 その後、不倫は急速に大衆化して 「ありふれたもの」 になっていきます。 いまでは友人や同僚から不倫の相談を受けても、 「大変だね」 と思うか、(子どもがいないなら) 「そんなの別れちゃえば」 ですませるでしょう。

 「オレ、不倫してるんだ」 とか、 「あたし、夫がいるのに好きなひとができたの」 といわれて、 「そんな不道徳、許されるわけがない!」 と怒り出すことはないし、もしそんな反応をすれば 「おかしなひと」 です。 不倫は社会的な事件から個人的な出来事に変わり、他人がとやかく口出しをすることではなくなったのです。

 ところが、社会が不倫に寛容になるにつれて、一部のひとに対してだけ不倫はますます道徳的に許されないものになっています。 それが、芸能人と政治家です。

 芸能人の不倫に対しては 「相手の家族がかわいそう」 と批判されますが、これはすべての不倫に共通することですから、一般人も同様に断罪されなければなりません。 政治家は公人ですから 「不倫をするような人物は信用できない」 と批判するのは自由ですが、その人物が議員にふさわしいかどうかは次の選挙で有権者が判断することで、刑事犯でもないのに 「辞職しろ」 と強要するのは民主政治の否定でしょう。

 芸能界も政界も閉鎖的な世界で、そこに男と女が押し込められるのですから、恋愛関係が生じないほうが不思議です。 知人の国会議員は、 「不倫は議員辞職ということになったら、政治家の半分はいなくなる」 と真顔でいっていました。

 そう考えれば、ネタになる人物の不倫だけが集中的にバッシングされているのは明らかです。 標的のほとんどが女性なのは、角栄から 「世界のワタナベ」 まで、男の不倫は当たり前すぎて面白くないからでしょう。

 不倫を批判するひとたちは、 「恋愛は独身になってからやれ」 といいます。 自由恋愛が絶対的な価値になった現代社会で、お互いが独身なら、外国人はもちろん、男同士や女同士であっても恋愛になんの制約もなくなりました。

 だとすれば、一連の不倫騒動を見て賢い独身女性が考えることはひとつしかありません。
い !
 日本で少子高齢化が進む理由がよくわかります。





( 2019.10.28 )



 衝撃的な予想が公表されました。 今年、出生数が90万人を割りそうだというのです。
 厚労省の人口動態推計速報によると、今年1月から7月までの出生数合計が51万8590人で、このペースでいくと今年1年の出生数は90万人を割ることになりそうです。
 1973年に約210万人だった出生数が半分以下の100万人の大台を割ったのが2016年。 それからわずか3年で90万人を割るという、政府の予想を大幅に超えるハイペースでの減少です。 出生数がこの調子で下がり続ければ、極論ですが、あと30年もたたないうちに、日本はほぼ新生児のいない国になってしまうかもしれません。

もはや少子化対策は日本の最優先課題

 人口が増加するためには、合計特殊出生率(一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子どもの数の平均)が2.08以上なければならないとされています。 ここでは分かりやすくするために、2以上としましょう。 夫婦など男女のカップルで子どもを2人以上もうけなければ、将来的に人口が減っていくということは直感的に分かると思います。

 ところが2018年の合計特殊出生率は1.42しかなく、こちらも今年は減ると予測されています。 これでは日本の人口は減っていく一方です。

 政府も手をこまねいているわけではありません。 この状況を何とか打開しようと、あの手この手を考えています。 この10月に実施された消費増税にしても、安倍政権はその眼目の一つとして、まさに子育て支援を挙げているほどです。 具体的には増税によって増えた財源を、幼児教育の無償化、待機児童解消、結婚支援や不妊治療支援などにあてるとされています。 そもそも安倍政権が2015年に公表している 「新・三本の矢」 の政策の一つが、 「夢をつむぐ子育て支援」 で、そこではまさに合計特殊出生率を1.8まで引き上げることを目標にしています(それが実現できても人口は減り続けるわけですが)。

 このように政府も少子化対策についていろいろ頑張ってはいるのですが、正直、効果は出ていません。 合計特殊出生率の目標である 「1.8」 についても、最近はほとんど言及されることもなくなりました。 数字は逆に下がってきているのが実態です。

 逆に10月に誕生した安倍改造内閣で最近クローズアップされているのは、 「全世代型社会保障」 ですが、その中身は70歳まで働けるようにする環境整備や、現在、職に就いている高齢者への支給年金が減らされる月収の基準を47万円以上から月収62万円以上に引き上げて、できるだけ働く高齢者を増やすといった、どちらかというと高齢者向けの対策が取り沙汰されています。 少子化対策、子ども向け対策、若者世代向け対策は 「もう終わった」 とばかりに後回しにされている印象です。

 これでは日本の将来が本当に心配です。 今、かなり思い切った少子化対策をしないと、極端な話、日本は消えてなくなってしまうかも知れません。 実はこれは、どんな経済対策、どんな安全保障対策と比べても喫緊の課題だと思うのです。


80年後、日本は人口3000万人台の国に

 日本の人口推移を長期のスパンで眺めてみると、明治維新の頃は3300万人くらいだったものが、その後急激に増え、1億3000万人近くになりました。 ところが今後の推移については、低位推計だと2100年ごろには明治維新当時の水準(3000万人台)に戻ってしまうことになります。 80年後には、日本の人口がそれなりの確率で3000万人台になってしまうのです。 ついこの間まで1億3000万人近くいたわけですから、わずか100年ほどの間にその大半の1億人が消えてしまう計算です。


【図1】: 日本の人口推移(超長期)<出典:総務省「国勢調査報告」、同「人口推計年報」、同「平成12年及び17年国勢調査結果による補間推計人口」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」、国土庁「日本列島における人口分布の長期時系列分析」(1974年)をもとに、国土交通省国土計画局作成>

 西暦2100年に恐らく私は生きていませんが、私の子どもたちの世代は十分生きている可能性があります。 彼らが生きているうちに、人口3000万人台の日本が出現する可能性があるわけです。 これは絵空事ではなく、かなり現実的なシナリオなのです。

 図2を見てください。 赤い線で示された出生数の推移を詳しく見てみると、2005年に合計特殊出生率は1.26の史上最低の数字をマークしました。 その後、若干ですが、数字が少し盛り返したものの、後述しますが、このままだと再び減少していくと言われています。


【図2】:出生数及び合計特殊出生率の年次推移<出典:令和元年版 少子化社会対策白書>
 出生率の若干の上昇に伴い、出生数も一時は若干上向いたのですが、その後はじりじり下がり続け、冒頭で触れたように、今年はついに90万人を割りそうです。 一時的に出生数が増えていた時期があったのは、そこがちょうど団塊ジュニア世代が出産適齢期だったからです。 私はまさにその世代にあたります。 先述のとおり、同級生が210万人ですから、単純に言えば女性100万人以上いる世代です。 さすがに同年代の女性で出産する人は少なくなってきました。 これからさらに、このボリュームゾーンの女性が子どもを産まなくなってきますので、合計特殊出生率も、全体の出生数も放っておくと下がり続けることが予想されます。

 これは、日本にとってかなり深刻な問題です。


もう 「金銭的インセンティブ」 で出産を促すしかない

 なぜ日本ではこんなに急激に出生数が減ってきたのでしょうか。 さまざまな要因がありますが、私が注目している要因の一つが、 「見合い結婚」 の激減です。

 日本では 「男性が草食化したことが未婚者の増加、ひいては出生率の低下につながっている」 と説明されることもあります。 もちろんそうした説明にも首肯できる部分がありますが、実態的には、恋愛結婚の数は1970年代あたりから55~65万件の間を推移していてあまり減少していません。 国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、一方で、かつては結婚の主流のスタイルだった 「見合い結婚」 が減っていき、特に1970年代に、それまでの40~50万件から、大きく落ち込みだしていることが分かります(現在は4万件以下)。

 昔は、出会いの機会がない独身者に、職場の上司や親せき、周囲の世話焼きの人々が、 「あの人はどうだ」 「こういう人はどうか」 と、適齢期の異性を紹介してくれました。 そのお見合いのシステムはどんどん細り、いまは結婚全体の数%にまで落ち込んでいるのです。


【図3】:結婚年次別にみた、恋愛結婚・見合い結婚構成の推移<出典:国立社会保障・人口問題研究所 第15回出生動向基本調査>

 例えばフランスなどでは、結婚しないカップルが産む子ども、いわゆる婚外子が出生数全体の半数以上になっていて、これが出生数を押し上げる効果を発揮しています。 フランスの場合、カップルが入籍という手続きを取らずに共同生活しながら子どもを育てる、というスタイルが公式な制度としても確立しています。

 現代の日本では価値観も制度もそこまで達していません。 今でも多くの人が想定しているのは、 「結婚して出産」 というスタイルです。 順序として、 「子どもが出来たから結婚」 という、いわゆる 「でき婚」 は増えていますが、それでも 「結婚」 が出産の前提となっています。 ということは、日本で少子化対策を打ち出す場合、結婚と出産をセットで考える必要があります。

 政府も、結婚相手紹介事業に乗り出しはじめ、例えば、各都道府県が手掛けている結婚相手紹介事業に交付金を出すなどしていますが、お世話焼きが激減している中、かつての仲介機能を役所や民間企業が代替するだけでは、十分な対策とは言えません。

 もちろん、こうした地道な努力も必要ですが、私は現在の少子化の急ピッチな進展を見ていると、もっと思い切って大胆な手を打たなくてはならない時期に来ていると思うのです。

 では、どうすればよいのか? はっきり言えば、もう 「金銭的インセンティブ」 しかないと思うのです。


「理想の子どもの数」 と実際の 「出生率」 の差はなぜ生じる?

 結婚したらどれくらい子どもが欲しいかという、理想の子どもの数を夫婦に訪ねてみると、年々その数は減少傾向にあるものの、2002年の調査でも2.56人、2015年でも2.32人となっています。 要するに平均値でも2人以上は欲しいと考えているわけです。 ところが実際の出生率は1.42になっている。 この差はどんな原因から生じているのでしょうか。

【図4】: 平均理想子供数と平均予定子供数の推移<出典:平成30年版 少子化社会対策白書>

 実はその調査もあります。 聞いてみると、子どもを持たない理由の中で圧倒的に多いのは、 「費用」 の問題なのです。 「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」 子どもを持たないというのです。 であるならば、その費用負担を軽くしてあげれば、子どもを持つ夫婦が増え、すでに子どもを持っている夫婦もさらに多くの子どもを持つようになる可能性は極めて高いのです。


【図5】: 妻の年齢別にみた、理想の子供数を持たない理由<出典:平成30年版 少子化社会対策白書>

 もちろん安倍政権も 「教育無償化」 と言ってそこにサポートする姿勢を見せています。 しかし、現在の危機的状況を鑑みれば、これは手ぬるいと言わざるを得ません。 もっと直接的に、子どもを生んだ世帯にドーンとお金を支給すべきだと思うのです。 自治体によっては子どもが生まれたらその親に一時金を配っていますが、まずはこれをさらに思い切って出すのです。

 この件について試算したことがあります。 2015年、まだ毎年子どもが100万人生まれる前提で計算したものですが、目標は 「出生率を2以上」 にすることですから、第一子、第二子が生まれたらそれぞれ100万円、そして第三子が生まれたら300万円を配るというプランを実行したとします(第四子以降も100万円前提)。 するとかかる予算は年間1兆2000億円ほどです。 日本の国家予算はいまや100兆円規模ですから、国家的課題であれば、そのくらいは出せるはずです。(とはいえ、財源案については後述) なお、北海道福島町や福島県矢祭町など、自治体レベルでは第3子に100万円以上の祝い金を給付しているところは既にいくつか存在します。

 さらに、教育を全部無償にしたらどれくらいかかるか、という試算もしたことがあります。 すなわち、学校教育費・給食費以外の、塾代等の平均費用(学校外活動費の平均費用)として、小学生一人につき年額で21万円、中学生一人につき年額28万円を補助したらどうなるか(他に流用されないように教育バウチャーとしての支給が前提)。 かかる費用はおよそ2兆5000億円になります。 これくらいの予算規模だったら、政府が決断すればできない施策ではありません。

 もしかしたら、 お子さんいらっしゃらない世帯やもう子育てが終わった世帯から、 「なぜそんなに子どものいる家庭を優先するんだ」 と不満が噴出するかもしれませんが、 このまま効果的な手を打たなかったら、 日本という社会がなくなってしまうかもしれないのです。 われわれは、 もうそれくらいの危機感を持たなければならない時期に差し掛かっているのです。

 中国やインド、インドネシアは元々日本より人口が多い国として認識されていますが、このままでは我が国はベトナムやフィリピンにも人口では抜かれていくでしょう。 中国は人口減少局面に入りつつありますが、その他のアジアの国々は人口ピラミッドも正三角形に近いところが多くあります。 日本の人口ピラミッドは死に向かう 「棺桶型」 (上が少し膨らんでいるが先細り)と揶揄されることもありますが、経済的のみならず社会的にもアジアや世界の国々に埋もれる存在になりかねないのです。


財源は捻出できる

 では財源はどうするか。 私には2つ、アイデアがあります。

 1つは 「資産課税」 です。 金融資産を中心に、資産課税をしたらよいと考えています。 消費税については税率を上げるのに世論は敏感ですし、逆進性が高いとされます。 非裕福層の負担が重くなり不公平だとう意見が強くなるでしょう。

 それが資産課税だったら、資産がある人だけが負担することになります。 居住用の不動産まで資産課税の対象にすると、多くの人が重税感を覚えることになるでしょうから、金融資産だけにするのが現実的かもしれません。

 例えば、現在1800兆円ほどある個人金融資産に 「未来のため・子どものため」 と仮に1%の資産課税を実施したとすれば、それだけで18兆円の税収になります。 所得との兼ね合いなどで調整したとしても、10兆円くらいは確保できるでしょう。 0.5%でも5兆円です。 それだけで、先ほどの出産一時金や学校外教育費の無償化の財源は十分に賄える計算になります。

 もう1つ、検討すべき財源捻出策があると思っています。 「コンソル債」です。

 コンソル債とは、元本を償還せず、利子だけを受け取れるという債券です。 イギリスでは戦時にかつて発行されたことのある国債ですが、償還されることはないので、設定利率にもよりますが、購入した投資家はほぼ間違いなく儲かりません。 では、なぜこれが売れるのかというと、この債券を持っていることが名誉とされるからです。 購入者の気持ちにうまく訴求できれば、わずかな利子の支払いしかなくても、購入者が多くあらわれるのです。

 この仕組みを利用し、 「この国を救うため」 という側面を強調し、投資家に購入を呼び掛けるのです。 おそらく趣旨に賛同して購入してくれる富裕層の人々もいると思います。 かつてイギリスで発行された際は変動利率でしたが、後年度負担がはっきり分かるように固定利率(しかも低利)でも良いかと思います。 極端な場合、 「利子」 は、感謝状とか、恩賜の記念品とかでも良いかも知れません。 無税であるだけで、いわゆるアングラマネーが表に出てくるという説もあります。

 いずれにしても、財源は考えようです。 税負担が増える一部の層からは反発が出るかもしれませんが、いま思い切った少子化対策を行わなければ、取り返しのつかないことになります。 安倍首相の決断に期待します。


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