( 2018.09.20 )
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 日本の 「香害」 被害者は1000万人程度、 「潜在患者」 を含む化学物質過敏症の疑いが濃い人は550万人 ―― 6年前に実施された大規模な疫学調査の結果を現在に引き伸ばすと、こんな深刻な状況が浮かんでくる。
 日本は 「香害先進国」 アメリカの後を追っているようだ。

化学物資過敏症の疑いがある 「患者」 は550万人程度

 この調査は、内山巌雄京都大学名誉教授・あずま賢一近畿大学准教授らが2012年1月に、インターネット調査会社に登録されている20歳以上の約98万人を対象に実施した。

 日本の人口動態統計に基づいて無作為に抽出した人にオンラインで質問し、7245人から有効回答を得た。 調査にあたっては、 「QEESI=クィーズィー」 と呼ばれる、自記式調査表を用いた。

 QEESIはアメリカのミラー博士が、化学物質過敏症( 以下、過敏症 )の診断と治療のために開発した調査方法で、5項目の質問( 各項目10問 )に10段階評価で答えてもらい、一定の点数( カットオフ値=診断分岐値 )以上なら過敏症と判定する。

 調査ではこのうち、
「( タバコの煙や殺虫剤・除草剤などの )化学物質曝露に対する反応」
「( 水道のカルキ臭など )その他の化学物質曝露に対する反応」
「症状」

 という判定に必要な3項目を尋ねた。

 3項目すべてについてカットオフ値を上回った人を( 化学物質に対する感受性が高い ) 「高感受性」 の人と判定した。

 高感受性の人は、化学物質に対して強い過敏症状を示し、QEESIで過敏症と判定された人のことだ( 専門医の診断を受けていない人や別の病気に誤診された人も含む )。 言い換えれば 「潜在患者」 も含めた患者である。

 調査では、成人の4.4%が 「高感受性」 だった。 男女別では、男性3.1%、女性5.5%と有意な差が出た。 日本の20歳以上の人口は約1億500万人なので、 「高感受性」 の人は約460万人になる。

 また 「化学物質に対する反応」 と 「その他に対する反応」 の2項目についてカットオフ値を上回った人を調べたところ、7.7%だった。

 この人たちは化学物質に対して相当な過敏症状を示す、いわば 「準・高感受性」 の人、過敏症になる可能性が強い 「予備軍」 も含めた人たちである。

 過敏症の主な原因が近年は香りつき商品になっていることを考えると、 「準・高感受性」 の人のほとんどは、 「香害」 の被害者と考えてよいのではないか。 約800万人になる。

 調査では、実際に過敏症の診断を受けたことのある人が1.02%( 約110万人 )、シックハウス症候群の診断を受けたことがある人が0.97%( 約100万人 )いたこともわかった。

 調査は20歳以上の人を対象に、高残香性の商品が発売され出した2012年に実施された。

 20歳未満の人や、その後6年間の増加分を加えれば、現時点で過敏症の疑いが濃い人、つまり 「患者」 が550万人程度、香害被害者が1000万人程度と推定して見当外れではないだろう。


2012年までの11年間で 「患者」 は6倍、 「被害者」 は4倍に

 QEESIを用いた調査は、2000年7月にも、内山名誉教授らにより、訪問面接方式で実施されている。 このときの対象者は男女4000人で、2851人から回答を得た。

 その結果は、過敏症の診断を受けた人が0.81%、シックハウス症候群の診断を受けた人が0.53%、 「高感受性」 の人が0.74%、 「準・高感受性」 の人が2.1%だった。

 二つの調査結果をまとめたのが次の表だ。


 調査方式が異なるので単純な比較はできないが、約11年の間に、過敏症の患者が約3割、シックハウス症候群の患者が約8割増えている。

 過敏症患者の増え方がシックハウス症候群の増え方より少ないのは、過敏症の診断が難しく、診断書を出す専門医の少ないことが関係していると考えられる。

 注目されるのは、高感受性の人と準・高感受性の人の激増ぶりで、前者は約6倍、後者は約4倍にもなっている。

 内山・東両氏らの論文はこの変化について 「化学物質に対して感受性が高いと考えられる人は、約11年経過した現在でも、ある程度の割合で依然として存在していることが明らかになった」 と述べるにとどめている。 これは社会的影響を考え控えめな表現にしたものと考えられる。


日米で重なり合う 被害者たちの悩み

 「香害ウォッチ 『香害先進国』 米国の悲惨な実態、成人3人に1人が被害者」 ( 2018年8月29日付け )では、アン・スタイネマン教授の調査研究を基に、アメリカの悲惨な実態を紹介した。

 スタイネマン教授のアンケート方式と、内山・東両氏のQEESIを用いた調査は方式が全く異なるが、あえて類似のものを比較すれば、次のようになる。

▽アメリカの過敏症患者=12.8%、日本の 「高感受性の人」 =4.4%
▽アメリカの 「香害」 被害者=34.7%、日本の 「準・高感受性の人」 =7.7%

 このように日米の被害の程度は異なるが、被害者たちの悩みの内容は重なり合うところが多い。

 たとえば日本消費者連盟が昨年7・8月に実施した 「香害110番」 の相談内容を見てみよう。 そこには次のような悲鳴や訴えが寄せられている。

 その主なものはこういった声だ。
駅のホームで制汗剤を使われ、めまいがした
公共トイレの消臭剤がきつくて入れない
通勤電車に乗ることもできず、職場には柔軟剤使用者がいるため、退職を余儀なくされ、生活は困窮している
大学病院に通っているが、医師・看護師にも香りつき柔軟剤を使っている人がいて、辛くてたまらない
老人福祉施設で働いているが、施設内が芳香剤・洗剤・制汗剤などのニオイがきつく、いつまで仕事を続けられるか、わからない
先日訪れたホテルのラウンジは人工香料が満ちていて、利用できなかった
日本航空の国際線を利用した際、おしぼりのアロマサービスで被害を受けた
 両国には違いもある。

 その一つが、日本で苦情が最も多かった 「近隣の洗濯物のニオイ」 がアメリカではほとんど問題になっていないことだ。

 背景にあるのは、住環境や生活習慣の違いだろう。 日本の多くの住居は狭く、洗濯物はベランダや室内で干す人が多い。 これに対してアメリカでは、比較的広い住宅に住み、洗濯物は大型の乾燥機で乾かすことが多いからだ。

 いま日本では、1000万もの人々が 「香害」 に苦しんでいる。 その現実を、政府も自治体も、医療関係者や教育関係者も直視してほしい。 実態調査や対策の検討を急ぐときだ。


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