( 2018.09.19 )




“TIDE OF LIES”( 嘘の潮流 )という記事のタイトル
( tideには、 「とどめようもなく、莫大な量で押し寄せるもの」 という意味がある )。
 8月17日付のアメリカの科学専門誌 『サイエンス誌』 に、北斎の富嶽三十六景 「神奈川沖浪裏」 のパロディが掲載された。 よくみると、襲い掛かる巨大な白い波頭は論文と思しき大量のペーパーで構成されている。 船には江戸時代の船頭ではなく、呆れて見上げる世界中の白衣の研究者たち。

 記事は、日本人の論文捏造事件と、それを暴くイギリスとニュージーランドの混成チームの奮闘を報じる。 告発者たちの闘いをメインに、捏造論文のもたらす誤った治療や、メタアナリシス( 複数の実証データを収集・統合して、統計的手法によりより大きな見地から分析すること )の脆弱性などの問題を取り上げている。

 戯画は、日本が 「論文不正大国」 であると印象づける。 さて本当か。 また、不正者はなぜ、無益な不正論文の量産に励んだのか。


一人の人物が大量の虚偽論文を作成


 まず 『サイエンス』 の記事の要旨を紹介する。

 弘前大学医学部の元教授である佐藤能啓氏は、リセドロンという薬品により、女性脳卒中患者の骨折率が、86%も改善すると主張するなど、骨折予防に関する論文を多数書いていた。

 2005年、ビタミンDの骨折予防効果を調べていたイギリスの研究者( 栄養士 )が、脳卒中患者とパーキンソン病患者の骨折率を論じた佐藤氏の論文2編において、患者群の平均BMI( Body Mass Index、肥満度を表す )が正確に一致しているなど、複数の不自然な点を発見した。 前後してドイツの研究者が、佐藤論文には、同氏が1人で特定の疾病患者500人を数週間ごとに診察したなど、現実性のない記述があることを指摘していた。

 イギリスの研究者は、オークランドの疫病学者ら3名とチームでカルシウムに関する研究を行う中で、メンバーに佐藤氏の異常なデータが、メタアナリシスを歪めていると教える。 疫病学者らは驚き、佐藤氏の臨床試験から33を抜き出して、被験者集団の属性データを比較し、異常な類似性を発見する。

 チームは、こうした属性は統計的に生じえず、捏造が疑われるとの論文を著し、 『JAMA』 ( Journal of the American Medical Association )など一流誌を含む、佐藤論文の掲載誌に取り下げを依頼する。 だが編集者は、不正の審査が仕事ではないとして消極的な対応に終始した。 不正を暴く論文も、なかなか掲載されない。 2016年になって、アメリカの 『Neurology』 誌がようやくチームの論文を掲載した。 その時点で、佐藤氏の33の不正論文のうち10は取り下げられていた。 だが今なお複数の論文が残っている。

 3カ月後、佐藤氏は謎の死を遂げる。 記者は取材に来日し、代理人弁護士の証言などを得て、自殺であったと示唆する。 そして、不正を暴いた不屈の努力の想像外の結果に、動揺する女性研究者の複雑な心境で、記事を結ぶ。

 さて記事は、日本は科学論文の数で世界の5%程度にとどまる一方、 「撤回ランキング」 ( 撤回に追い込まれた論文の多い人物 )では、ワースト10人中の半数を独占するという。 出典の、Retraction Watch ( 「撤回監視団」 といった意味 )のデータを見ると、確かに、1位( 183件を撤回 )を筆頭に、6位、8位、9位、10位と、5人が 「入賞」 している。

 これがわが国の科学研究の象徴だと思われては、不本意である。 多くの研究分野で日本は高く評価され、21世紀のノーベル賞受賞者13名は、米国に次ぐ世界2位である。 ランキングならば、研究者の論文撤回数ではなく、国別の撤回率を比較したいが、これは難しい。 Retraction Watch も、いつも聞かれるが、分母の把握が困難だ、としている。

 さて、論文撤回とは、どの程度の深刻さか。 学術論文の出版規範を議論・制定している国際的組織のCOPE( Committee on Publication Ethics、出版規範委員会 )は、論文の変更措置を 「撤回」 「訂正」 「懸念表明」 と定めている。 最も重い 「撤回」 を考慮すべき場合は、要約すると以下のとおりで、安易には行われない。
( 1 ) 不正または誤りの結果、明らかに結論が信用できないもの
( 2 ) 二重投稿、剽窃、倫理に反する研究
 たとえば、不正の証拠が決定的でない場合は、懸念表明にとどまり、論文は残る。 撤回される論文とは、一言でいえば、有害無益な 「世にないほうがよい論文」 である。


不正研究を防ぐためには?


 論文撤回の原因となる不正研究の防止策を考えよう。

 論文不正に関わる人には、自ら好んで捏造を行う人と、共著者などとして、望まずして加担してしまう人がある。 前者を捏造型、後者を加担型と区別しよう。

 捏造型は、執筆に手間を掛け、発表に積極的である。 論文内容は、耳目を引くものが多く、時に荒唐無稽でもある。 彼らが 「潮流」 の原動力である。 一方、加担型の関与者は、好んで誤った主張を行うわけではなく、被害者の面がある。 同情すべきケースも多いが、不正に巻き込まれれば、問題を増幅してしまう。 彼らの問題は、必要な検証を行わずに参加することにある。

 加担型に関し特記すべき問題に、 ”Honorary Authorship” という慣習がある。 著者が相手への好意のしるしに、あるいは自らの箔付けをねらって、名ばかりの共著者を設ける、いわば 「名義貸し」 である。 共著者があると、一見チェックが働いているかに見え、不正論文の信用性を高めてしまう。

 この習慣の廃止を訴える2012年8月31日付の 『サイエンス』 誌記事 "Ending Honorary Authorship" によれば、研究論文の実に25%に、名ばかりの共著者があったという。 世界的な問題だが、日本は対策が遅れているとの主張も目にする。

 名を貸すだけでなく、共著者が誤った事実を信じてしまうと、事態は深刻になる。 2014年に起きたSTAP細胞をめぐる騒動は記憶に新しい。 世界的に著名な研究者である笹井芳樹氏は、共著者となって論文を手助けした結果、命を絶つところまで追い込まれた。

 科学研究の体制は各国とも性善説で構築する。 これは必然で、もし性悪説を取れば、研究も検証も致命的に遅れてしまう。 性善説を保ちつつ不正に加担しないためには、主著者の主張の根拠を検証する基本動作が必要である。

 不正者の隠蔽が巧妙なケースは多くはない。 「根拠なくこんな主張をするはずはない」 といった思い込みから、事実確認を怠り、稚拙な偽装を見逃すことに注意が必要である。 共同研究者が名探偵のごとく犯人を見分けるのは無理である。 だが、基礎的な事実を確認することは可能であり、励行すべきである。


捏造型の人物には共通する特徴がある


 捏造型不正者はもとより科学者ではない。 これを見分けて追放する役目は、共同研究者ではなく、指導教官や研究所の管理職が担うべきである。 捏造型の人物の心理を研究し、教育研修などでその識別法を徹底すれば、性善説のシステムの下でも、実行は可能である。

 捏造型人物には、下記の特徴が顕著である。
( 1 ) 不正に親しんで抵抗がない。ゆえに研究生活のごく初期から不正に手を染める。
( 2 ) 研究の動機が真理探究ではない。その結果、データ管理、研究記録は極端に杜撰である。
 (1)は、学生、院生時代に捏造や改ざん、盗用癖などがないか、指導教員が観察すべきである。 また、(2)は、実験データを他者がチェックすれば一目瞭然なことが多い。 ヘンドリック・シェーン、小保方晴子、佐藤能啓などの 「名だたる」 不正者は、いずれも重要データを提出していない。 適正なデータの取り扱いや実験記録は、労力が大きいゆえ、似非えせ科学者は、常にこれらが杜撰である。

 捏造型の識別と、そして、発見したら早期に排除する勇気が、アカデミズムに求められる。

 さて、捏造者の動機は何か。 なぜ佐藤氏は大量の論文を捏造したのか。 ノバルティスファーマ事件のような直接の経済的利益を狙ったものではない。 捏造の心理は以下の3点が考えられる。

 第1に、 「有名になりたい」 という知名欲である。 この心理は珍しくない。 科学者には、理由は何でもいいから有名になりたい、という者は少ないが、似非科学者となれば話は別である。 雑誌のグラビアに出るような者も出てくる。

 第2に、常習性である。 大きな不祥事の陰には、たいてい小さなごまかしがあり、味をしめて次第に大胆になる過程が潜む。 とがめられなければ、不正は常習となる。 人は、何度も行っていることを 「正当」 と感じる。

 会議で 「俺は、いつもこの席だ」 といってたまたま座った新参者を追い払うのは、サルにも共通する 「常習心理」 である。 法令も占有権を所有権に優先させ、成文がない場合には慣習を法規範とするが、これも同じ原理による。 常習性はまた、 「中毒症状」 を生むことがある。 マニアが寝る間を惜しんでゲームに励むように、得失を考えず捏造に励む者もあるだろう。


人間は客観的事実よりも「信じたいこと」を信じる


 第3に、信念である。 人は、 「真実」 ( truth )を追求する。 「事実」 ( fact )に、直観による信念を加えたものが、 「真実」 である。 客観的事実は一つでも、真実は主観的で、人の数だけある。 真実を求める本能は、文明以前に進化しているから、これが科学と相性が悪いのはやむをえない。 地動説も進化論も人の直観に反している。

 人は感情に従い、事実を超えてでも信じたいことを信じる。 情が理より強いことの一例である。 ドナルド・トランプ大統領の支持者に、事実を突きつけても興味を示さないのは、真実が感情に由来するためである。 天才といえども例外ではなく、アルベルト・アインシュタインは 「神はサイコロを振らない」 との信念で量子力学を否定している。

 信念の上位に観察事実を置かなければ、希代の天才も誤る。 俗物が誤った信念に踊れば、捏造や改ざんに躊躇がなくても不思議はない。

 捏造型不正者の多くに、知名欲、常習、誤った信念の3点が観察される。 先述のように初期の小さなごまかしを見落とさず、真理探究心の有無を見分ければ、性善説のシステムを保ちつつ、早期に発見できる。 少数の特異な者たちに、日本の宝である科学研究を貶めさせてはならないと強く思う。





( 2015.02.10 )
STAP



小保方晴子氏は懲戒解雇相当だがすでに辞職


STAPはなかった。論文の筆頭筆者小保方晴子氏は「懲戒解雇相当」の
処分が妥当とされたが、すでに辞職している
 理化学研究所は、2月10日午後3時から、不正認定された 「STAP論文」 の関係者処分について会見を開いた。 出席者は、堤精史人事部長と加賀屋悟広報室長の2人。

 筆頭筆者だった小保方晴子元研究ユニットリーダーは、2014年12月に自主退職し、それが認められているため、直接の処分はできないものの、懲戒解雇相当と判断。 共著者で指導的立場にあった若山照彦山梨大学教授は出勤停止相当( 規定上は最大で1年 )とし、客員研究員の委嘱は解除した。

 また、小保方氏が所属していたCDB( 発生再生科学総合研究センター )の当時センター長だった竹市雅俊氏( 現・多細胞システム形成研究センター特別顧問 )は論文作成過程での管理責任により譴責処分。 共著者で検証実験も行った丹羽仁史プロジェクトリーダー( 当時 )は、懲戒には当たらないものの、共著者としての一定の責任はあるとして、文書による厳重注意となった。 竹市氏は自主的に給与の10分の1( 3カ月分 )を自主返納する。 また、 「研究不正を事前に発見し、不適切な論文の発表を防ぐことができなかった責任を重く受け止める」 とのコメントも発表した。

 懲戒委員会から竹市氏への最初の通知は1月30日。 不服申請期限の切れる2月9日をもって確定したため、小保方氏など他の人には本日付けで通知したという。 若山氏には直接口頭で、小保方氏にはメールで伝えたというが、小保方氏本人が確認したかどうかはわからないという。 8月に自殺した笹井芳樹副センター長( 当時 )についても、相当の責任を認めたものの、故人であるため公表は差し控えられた。

 論文に関する特許については引き続き、共同出願者であるハーバード大学側と取り下げの方向で協議中であり、ハーバード側が同意しない場合でも共同出願者から理化学研究所側は下りるなどの方向で考えているという。


研究費などを返還請求、ES細胞窃盗で刑事告訴も


 また、小保方氏に対しては、不正な研究にかかわる研究費、検証実験費用や、12月に自主退職するまで支払われていた給与( CDBが多細胞システム研究センターに改組された11月までは研究室主宰者としての給与 )などを含めた費用返還請求や、STAPの正体であったとされるES細胞の窃盗に関する刑事告訴なども、 「理研としてやる必要があるかどうかを含めて改革委員会で検討中」 ( 加賀屋広報室長 )という。

 12月の2回目の調査委員会の報告では、ES細胞の混入を誰がやったかまでは特定できないとされた。 だが、強制力のある捜査の手が入れば、憶測を含まない正確な事実が明らかになるかもしれない。

 理研が支払ったSTAP研究の費用は、小保方氏のPI( 研究室主宰者、2013年1月着任~14年11月 )としての給与年間1000万円と研究費年間1000万円( 研究ができる状態ではなくなった2014年3月以降の研究費は支払われていない。 給与もCDBが多細胞システム形成研究センターに改組された11月以降は一般研究員レベル )のほか、1500万円とされる検証実験費用、論文投稿費用、度重なる会見の費用まで含めると個人の支払い能力を超える可能性もある。


細胞のすり替えという大胆で単純な不正


 STAPはなかった。 昨年1月の論文発表から1年あまり、科学界を揺るがした不正論文事件は、細胞のすり替えという、あまりにも大胆で単純、だからこそ科学者の世界ではあり得ないと考えられていた不正によるものだった。 それを行ったとみられるのは 「未熟な科学者」 などではない。 「科学者とはいえない人」 だったのである。

 それを見抜けずに後押しまでした有能な科学者たちを責める声もある。 しかし、相互の信用をベースに成り立っている科学の世界で、共同研究者をどこまで疑うのか、あるいは信じるのか。 とくにさまざまな分野のエキスパートが共同で実験し1本の論文を書き上げる生命科学の分野では、疑い始めればきりがなくなってしまう。 相互信頼のベースとなる博士号の存在意義すら揺るがしかねない。


度重なる見逃しと信用の連鎖、異例の事件


 もしほんとうに責任を追及するのであれば、不正な研究を見逃した理研や博士号を授与してしまった早稲田大学( 現在は1年内に再提出という猶予付きの取り消し )ばかりでなく、国費の浪費という観点からは、博士課程1年目の時点で3年間の学術振興費を与えた日本学術振興会の選定担当者にまで遡って責任追及すべきだろう。 今回の信用の連鎖はその時点から始まったと見ることもできるからだ。

 博士号取得後定職に就けない人が多い、いわゆるポスドク問題という背景もあり、科学研究の不正は少なくないという。 しかし、今回のように不正見逃しの連鎖が続いた事例はある意味で特殊であり、今後も同じようなケースが続出するとは考えにくい。 CDBで小保方氏と同時期に研究室主宰者に取り立てられた優秀な若手もいる。

 システムが間違っていたという論も単純に過ぎるだろう。 CDBが、センター長が、理研トップが、と誰かに責任を被せてしまうのはたやすいが、それでは真の解決は難しい。 国費である研究費の出資者である国民に対する義務として、科学者ひとりひとりが襟を正し、自覚を持つことしか、解決の道はない。





( 2015.11.04 )



 世間の耳目を集めたSTAP細胞問題の中心人物、小保方晴子氏の博士号が取り消しとなった。 2014年10月に早稲田大学は、小保方氏の博士論文に剽窃ひょうせつなど複数の不正があるとして博士号の取り消しを決めたが、大学側の教育指導責任をも認め、1年程度のうちに研究倫理教育を受けたうえで論文を訂正、再提出して審査に通れば、博士号の維持を認める、としていた。 いわば執行猶予のついた博士号取り消し決定で、2015年10月30日に猶予期間が切れたため、取り消しが執行された。


大学側のさまざまな特例措置


 この間、大学側は、2014年11月には指導教員を選出し、論文提出、審査のスケジュールなども小保方氏に伝えたという。 大学に通学ができない小保方氏の状況を勘案し、研究倫理教育のためのe-ラーニングの受講環境を整えた。 また、指導教員2名は5月以降、3度小保方氏を訪れたほか、メールや電話などで内容の確認や指導を行ったという。

 だが、小保方氏から最初の訂正論文が送られてきたのが今年6月。 訂正作業が不足している部分などを指摘するコメントをつけて差し戻し、8月に4度目の訂正稿を小保方氏に戻したあと、小保方氏側からは送られてこなかった。

 そのため、10月29日に先進理工学研究科の運営委員会で、論文審査ができないことを確認し、翌30日には大学の研究科長会での議論を経て大学執行部によって取り消しが確定した。 小保方氏からは期限の延長希望が出ていたとのことだが、 「これ以上学位論文のないまま学位を維持することはできない」 ( 鎌田薫・早稲田大学総長 )との判断で、延長は受け入れられなかった。

 この件を報告する早稲田大学の会見は3時間に及んだ。 会見の中で大学側がたびたび言及したのは、この問題での大学側の小保方氏への対応は 「きわめて特例」 であることだ。

 博士論文の不正自体は本人の責任であるとしながらも、大学側の教育指導体制の不備を認め、通常であれば 「即時取り消し」 もありうる状況にもかかわらず、1年間の執行猶予をつけた。

 また、今回の 「論文再提出・再審査に関わる費用は一切大学側が負担し、今後も小保方氏に対する請求は行うつもりはない」 ( 恩藏直人教授、早稲田大学理事/広報担当 )という。


学位授与の基準を厳格化


 そもそも一般の学生であれば、博士どころか学士であっても、論文の提出が期限に遅れればその年の授与はないのが普通。 体調不良などの個人的な問題は、提出期限に遅れる理由として通常認められない。 まして最初から1年の猶予が定められた中で、さらなる期限延長の要請が受け入れられないからと言って不満を漏らすのは虫がよすぎるだろう。

 小保方氏の件を機に過去の不適切な博士論文のチェックも行われ、2006~14年9月までに博士号を授与された論文2789本すべてをチェックし、不備があった89本のうち48本についてはすでに訂正作業が行われている。 2014年10月6日に策定した 「学位論文の質向上のためのガイドライン」 に基づき、以後の学位授与の基準と手続きは厳格化されている。

 「今は優秀なポスドク( 博士研究員 )がたくさんいるから、あえて早稲田のポスドクを雇わなくてもいい」 とある生命科学系研究者はいう。 地に落ちた信頼をどのように回復していくのか。 学生にも大学にも長い試練の道が待っている。





( 2014.12.19 )
STAP?!
STAP



検証実験の責任者が放った悲鳴のような言葉



4月9日に小保方晴子氏自身が開いた会見では、論文の不正認定に抗議し、
「STAP細胞を200回はつくった」「STAP細胞はあります」としていたが……。
 「小保方さんの検証実験において、モニターを置いたり立会人を置いたりしたことは、科学のやり方ではなく、検証実験の責任者として責任を痛感しております。 このような犯罪人扱いをした検証行為は科学にはあってはならないことで、お詫びさせていただきます」

 会見を終えて、いったん出席者が退室したあと、検証実験の統括責任者である相澤慎一チームリーダーが放った言葉は、悲鳴のように聞こえた。 まっとうな研究者として長年生きてきた科学者にとって、想像を絶する事態だったことは想像に難くない。

 一方、会見中に配布された、渦中の人・小保方晴子氏の理化学研究所を退職するに当たってのコメントには、 「予想を遙かに超えた制約」 「魂の限界まで取組み」 「このような結果にとどまってしまったことに大変困惑しています」 と、相変わらず自らの大変さや苦痛を主張したもの。

 多くの研究者に無用な負担をかけ、気鋭の科学者の自殺という事態にまで発展したことについては 「未熟さゆえに多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感」 と述べるにとどまっている。 コメントの内容については一言一句変えないように、と理研側に要求したという。 どこまで自らの責任を感じているのか疑問も生じる。

 12月19日午前、理化学研究所の研究不正再発防止改革推進本部がSTAP現象の検証実験について、結果を報告する会見を開いた。

 STAP論文に関する不正発覚後の4月から検証実験チームによって1年をめどに行われていた検証実験と、9月~11月末までをめどに行われていたSTAP論文の筆頭著者であった小保方晴子氏本人による再現実験は終了。 その結果、いずれもSTAP現象を再現できなかった、と報告した。 いったんは申請した特許も、 「放棄を含めた方向で検討しており、他の研究者たちの理解を得るよう調整をしている」 ( 理研・坪井裕理事 )とした。


白紙となったはずの論文の検証に1500万円を費やした
 本来であれば、ネイチャー誌に掲載された論文2本を撤回した7月2日時点で、STAP現象は白紙となり、存在するかどうか分からないもの、になったはずだった。 だが、下村博文文部科学大臣の意向や、社会現象にまでなってしまったSTAPの存在を検証することが 「一般社会や国民の関心に応える道」 ( 理研・野依良治理事長 )との方針をうけて、行われた。

 かかった費用は所期の予算1300万円に小保方氏の監視付き実験室改装費用550万円を加え、実際にはおよそ1500万円となった。 だが、最終的には大方の予想通りの結果となった。 検証結果は、今後の研究に資するため、2015年3月までに論文にまとめて公表する予定という。

 会見で、検証実験責任者の相澤慎一チームリーダー、直接実験を行った丹羽仁史副チームリーダーともに、 「論文のプロトコルに沿って実験を行ったが、再現できなかった」 という言い方をした。 科学に疎い一般人には、何やら含みのある言い方のように聞こえるが、科学者が科学的に確信を持って言えるのはそこまでだということであり、 「実はSTAPはある」 といった含みはない。


簡単な方法であったはずのSTAP細胞が再現できず



「犯罪者扱い」を謝罪した相澤氏(中央)、「今後もこの研究を続けるつもりはない」と丹羽氏(右端)、
「(小保方氏を)どういう処分に相当するか決めるところまではやる」と坪井理事(左端)
 「あるかどうかはわからないが、今回の検証実験では再現できなかった」 というのがいちばん正確な表現だろう。 「ない」 ことを証明することは 『悪魔の証明』 と言われるように、ほとんど不可能に近い。 すべての可能性を網羅したうえで否定しなければならないからだ。 これに時間とコストをかけることは無駄な努力と言っていい。

 そもそもSTAPは、「オレンジジュース程度の薄い酸に浸すだけで多能性を獲得できる簡単な方法」 というのが当初の売りだったはず。 これほどの長期間取り組んで再現できないものであれば、もしあったとしても実用化するためにたいへんな苦労をしなければならないことは目に見えている。 それだけの時間と費用と人材を注ぎ込むべき研究なのか、という疑問も生じる。

 今回の実験はSTAP論文の検証実験であり、論文通りにやればSTAPができるかどうかを検証することが目的。 もう一歩踏み込んでSTAPが本当にあるかどうかを調べるまでの研究は行われていない。 直接実験を行った丹羽氏も、 「今後もこの研究を続けるつもりは現時点ではない」 とした。 STAP現象があるかないかの研究は、今後関心のある研究者が独自に取り組めばよい話で、理研としては科学的な必要性を踏み越えて行ったこの実験までで十分役割を果たしたと言える。


小保方氏の退職願を受理。 懲戒委員会は?


 STAPの存在は確認されなかった。 そのこと自体は予想された範囲であったが、それよりも重大な問題が会見の途中で、配布された資料に書かれていた。 小保方氏が15日に理研に退職願を出し、本日付けで受理されたというのだ。 再現実験は失敗したものの、現在外部メンバーによる調査委員会が調査を続行中であり、その結果次第で懲戒委員会が開かれることとなっている( 時期は未定 )。 理研の職員でなくなった研究者をどうやって懲戒に処するのか。

 理研の坪井理事は、 「どういう処分に相当するかを決めるところまではやる」 という。 今後の不正防止のためには必要な措置ともいえるが、 公費を使って不正を行った研究者になんのおとがめもなく幕引きを図るのは、 研究者だけでなく一般人にとっても納得のいかないことだろう。 正当な罰を受けることで、 新たな道も踏み出すことができるのではないか。 グレーゾーンを残したままのあいまいな結論は、 誰のためにもならない。


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