( 2015.10.14 )


 一見、人当たりもいいはずが …。 裏で部下の手柄を横取りしたり、一部の部下には高圧的に仕事を押し付ける。 「フリーライダー( ただ乗り )管理職」 は決して珍しいケースではない。

 社長の信頼厚い管理職のはずが…
 徐々に見えてきた 「裏の顔」


 職場では、一見問題なさそうな人にみえても、実際に仕事をしてみるとトラブルの種になるというケースがよくある。 そういった問題は、外側からはなかなか観察できない。 そんなケースを紹介しよう。

 Aさんは、数ヵ月前に小さな出版社に非正規で入ってきた女性だ。 10年以上、大手企業の人事や総務で働いていたが、夫の転勤を機に退職した。 新しい土地では、子どもがまだ小さいため、フルタイムでは働けず、やむを得ずパートタイムの職をさがし、その出版社に採用されたのだった。

 小さな出版社で、主な業務はローカルニュースやタウン情報をなど、タブロイド紙を制作する仕事だ。 彼女の業務は、レストランやイベントなどを取材して載せるタウン面を埋めることだ。

 彼女の直属の上司のB氏は、それ以外の記事と実質的な紙面統括を担当し、その上には社長のC氏がいて、社長自ら記事を執筆している。 だが社長は家が離れたところにあり、会社にはめったに顔を出さないため、現場統括はB氏に任せている。

 Aさん、B氏、C社長の書いた記事をレイアウトするのが、Dさんという女性社員だ。 最終的に記事はすべてDさんのもとに集まってくる。 Dさんはその記事と、別部署の営業部がとってくる広告枠を合わせて最終レイアウトを作り、印刷所に送るのが仕事だ。

 Aさんは入社してしばらく、B氏に直接取材の仕方や文章のチェックなどをしてもらっていた。 朴訥な感じのB氏は、面倒見がよく、校正の指示も的確で、Aさんは、よい上司だ、という印象を持ったという。

 ところが、そのB氏について、他の社員からはあまり良い話を聞かない。 レイアウト担当のDさんは、B氏と口をきこうともしない。 また営業担当の人々は、時にB氏と大喧嘩することもあるという。 Aさんは不思議に思っていた。 なぜ、皆これほどB氏と揉めるのか、理解できなったからだ。

 とはいえ、B氏はその社において要の人物だ。 社長であるCさんとの直接連絡はほとんどB氏が行い、社長が行う記事の最終判断もB氏を通して伝えられる。 したがって、Aさんは基本的に最も密接にB氏と連絡を取りあうことになっていた。

 勤め始めて2ヵ月ほどたち、Aさんが一通りの仕事に慣れてきたころ、妙な点に気づいた。 社長のCさんから、Aさんに、タウン面だけでなく、別の紙面づくりも手伝ってほしいとの連絡がきたのだ。 本来そこはB氏の担当なのだが、B氏が忙しすぎて手が回らないからだという。 それならば理解できるのだが、C社長のAさん宛のメールには 「Aさんはまだ余裕があると思うのでお願いします」 と書いてあったのが気にかかった。

 2ヵ月仕事をしてきて、いまやAさんは社で最も精力的に取材に行き、記事もどんどん上げて、その機動力と生産性はB氏を上回っていたからだ。 B氏は外信記事の翻訳等がメインなのでデスクワークが中心だが、いつも記事はぎりぎりになってから届き、埋まらないこともあった。 そんなときはAさんが書き溜めていた記事で埋め合わせることもあった。

 そのB氏が、なぜぎりぎりになるまで記事を入稿できないのか、Aさんには理解できなかった。 独身で時間が自由になるB氏は、取材に追われているわけでもない。 家庭を持っているAさんやDさんのほうがずっと時間の効率化に腐心している。 早い話が、サボっているようにしか見えないのだ。


 社長から届いた心外なメールで
 判明した管理職のずるさ


 そして、ある日、社長のCさんからのメールにはこう書いてあった。 「B氏は、Aさんがあまり取材に行かないので代わりに取材したり、Aさんの記事の校正に非常に時間がかかるため、時間がとられるといっていました。その分Aさんには、もう少し働いてもらいたいと思っています」

 Aさんはびっくりした。 取材に割いている時間は、B氏より自分の方が圧倒的に多いし、記事のストックも十分だ。 自分の記事の校正はB氏にお願いするが、そんなに時間はかかっていない。 むしろこちらはB氏の記事の校正を引き受けているくらいだ。

 どうも、B氏はC社長に 「非正規で入ったAさんは、あまり仕事になれてないので、自分がフォローしなくてはならないが、それでずいぶん時間がとられる」 といった内容をメールで伝えているらしい。 事実無根だ。

 そのうち、B氏はAさんに別の仕事を頼むようになってきた。 「記事が埋まらないので、○面の記事を僕の代わりにお願いします」 といった感じだ。 Aさんの入社時の契約は、タウン面のみだったのが、いつのまにか他の仕事まで回されるようになった。

 Aさんは不満に思いながらも、印刷所への納入が間に合わなければ大変なことになるのもわかっていたため、引き受けられるものは引き受けた。 しかしあまりに理不尽なものや、自分には書けない記事もあった。 B氏が直接取材に行ったり資料を集めていた内容なのに、土壇場になってAさんに書いてくれと頼むような場合には、Aさんは理路整然と受けられない理由を伝えて断った。

 B氏は、Aさんの反論には一切文句をいわず、 「わかりました。 では僕が何とかします」 と返し、物分かりは良かったという。 なので、ちょっと理不尽な感じはしたものの、AさんはB氏と喧嘩するまでにはなっていなかった。

 一方、レイアウト担当のDさんは、B氏をとことん無視していた。 仕事上必要なやりとりはするが、それ以外は一切関わろうとしなかった。 先に書いたように、最終的なレイアウト作業はDさんが行う。 記事の内容と分量は1週間前から決められて、それに沿ってみな作業を行う。 Dさんも、どこにどの分量の記事と広告が入るかを、あらかじめ予測してレイアウトを行っている。

 Aさんは、そんなDさんの業務内容を知っていたため、できるだけ早く記事を上げ、記事が不足しているときは、多めに出稿して埋められるように配慮していた。 しかし、B氏は、締切当日になって、突然記事の差し替えや、大幅なレイアウト変更を指示してくる。 それもしょっちゅうだ。

 DさんもAさん同様に小さい子どもを抱えているので、時間の自由が利かない。 突然の変更で残業が必要になっても、そのためのアレンジに相当労力を要する。 独身男性のB氏にはそのことがわかっていない。

 ある日、またもや記事内容とレイアウトの変更をB氏が指示してきた。 しかもその記事をAさんに書けという。 Aさんはその記事を書けるだけの、知識と取材量があったので、頑張れば何とかなるが、一緒に載せる写真に適切なサイズものがなかった。 B氏に相談すると、 「わかりました。 記事は、すみません、Aさんお願いします。 写真については、なんとかレイアウターのDさんに頑張ってもらってねじ込みましょう」 と 「非常に紳士的」 に話した。

 だが、その後Dさんの机には、B氏からのメモ書きが置いてあり、 「レイアウト変更になりました。 Aさんから原稿をもらって○○時まで。 写真はもっと慎重に選ぶように」 と書いてあるだけだった。

 そもそも、そのレイアウト変更は、記事を入れるはずのB氏の部分が埋まらず、苦し紛れにAさんの記事を入れることになったものだ。

 つまりB氏は自分の怠慢の尻拭いを、AさんとDさんにさせているのだ。

 そして、あとあとDさんから聞いてわかったのだが、Aさんが精力的に取材にいって記事をとってくるのを、 「自分が全部指導している」 と営業やC社長に話しているという。 ( 「成果泥棒型・アレオレ詐欺」 タイプ )


 フリーライダー管理職を
 のさばらせる社長の怠慢


 B氏は実際に会って話をすると、やわらかい物腰で朴訥な話し方をするため、とても姑息なことをするようには思えない。 さらにAさんが、理詰めで話をすると、理解して納得してくれる。 でもDさんには、メモ書きのようにいつも高圧的なのだそうだ。 一方ではC社長には、自分が一番仕事しているように報告している。

 結局Aさんが勤めて3ヵ月してわかったことは、記事の 「飛ばし」 が一番多いのはB氏で、周りに迷惑を一番かけているのもB氏だということだった。

 B氏のような社員は、どこにでもいるだろう。 仕事が全くできないわけではない。 一見それなりに理解力も分別もある。 だが、肝心なところで自己保身のために、責任やしわ寄せを他の社員に押し付けるのだ。

 B氏は、社長はじめ、Dさん以外の社員には、できるだけ 「よい顔」 をしようとする。 物分かりのよいところを見せ、指導力のあるふりをして見せ、部下の面倒をみている上司を演じて見せる、 「八方美人タイプ」 だ。 だが、実力が伴わないので、しょっちゅう仕事に支障をきたす。 それを、Dさんに高圧的に押し付けて、なんとかしのいでいるのだ。 したがって、彼は 「七方美人」 にならざるを得ないのだ。

 ビジネスをやっている以上、部下や取引先に意図せずして無理をお願いする事態は出てくる。 だが、そのときに乗り切れるかどうかは、普段から責任をもって仕事をしているかどうかにかかっている。 彼はそれをせずに、上司である権限を振りかざしているだけだ。

 そういう行動を、助長しているのがC社長だ。 普段会社に来ないこともあり、社内を把握できていない。 とりわけ、情報ソースをB氏だけにしているので、B氏の話を鵜呑みにしてしまっている。 経営者として失格である。

 B氏のような行動パターンの背後にあるのは、心理学的にいえば、自信のなさと過剰な承認欲求だ。 「自分は仕事ができる」 と思いこみたい、承認欲求の強い人は、本来ならば仕事を一生懸命がんばって成果を出すことで、その欲求を満たそうとする。 それが健全な方法である。 しかし、承認欲求は強いが自分に自信のない人は、 「失敗したらどうしよう」 という考えが先に浮かぶ。 そうすると、無意識のうちに今すべき仕事をしなくなる。 そして別の方法で承認欲求を満たそうとする。

 B氏の場合は、自分で期日通りに記事を上げる代わりに、Aさんに指示を出し、Dさんに高圧的に命令し、C社長には 「自分が仕切っているからうまくいっている」 とアピールすることで、周囲のみならず、自分で自分を 「有能だ」 と騙しているのだ。

 事実、B氏は締め切りの迫った記事には手をつけないで、まだ時間に余裕のある別の記事の推敲を念入りにしていたりする。 仕事をしているふりをしているのだが、本人にその意識はない。 無意識のうちに、自分の無能さが暴露されるかもしれない仕事を避けて、自分の得意な仕事をして 「有能になった気」 になっているのである。


 部下の時代は問題なかったのに…
 管理職になった瞬間に豹変する理由


 こういった人は、実は思いのほか職場に多い。 人間的に明らかに問題があるわけでもなく、頭も悪くなく、ある面においては平均以上の仕事もできる場合が多い。 そしてこういう人は部下のときは、あまり問題を起こさない。 上司によい顔をするために、上司から言われた仕事は頑張るからだ。

 しかし、こういう人がその後昇進して、管理職になると、部下は大いに迷惑を受ける。 そして厄介なのは、本人に迷惑をかけている自覚がないということだ。 本来ならば、上司がその人の欠点を指摘するべきなのだが、それができない環境だと、上に述べた例のようになってしまう。

 Aさんは、人事出身だったため、就職後ほどなくしてB氏のそういった問題に気づいた。 いまでは、Aさんはメールのやり取り等はかならず社長に報告し、B氏の行動を 「透明化」 「見える化」 するようにしているという。 誰にでもいい顔をして取り繕うことができないように、少しずつ退路を断っているのだ。

 だが、Dさんはもう不満がたまって辞める寸前だ。 彼女に辞められたら、その途端に発行ストップだ。 Aさんは、Dさんの不満を受け止めつつ、B氏の行動を矯正するように四苦八苦しているという。

 ある程度の規模の会社ならば、人事がきっちりとそういう人物のあぶり出しをしなくてはならない。 そのあぶり出しは簡単ではないが、こういう人物は、組織にとっても本人自身にとってもよくないことをしている。 まずその自覚を持たせることから始めることが重要だろう。