( 2017.06.10 )

  




 心身にダメージを受けて休職する部下が続出。 それも、会社が投入したエース級のできる社員が次々つぶされていく ……。 あなたの会社に、そんな部署はないだろうか? それは、 「クラッシャー上司」 のせいかもしれない。

  エリートで仕事はでき、業績をきっちりあげるが、心身共につぶれた部下のことを思いやることはない。 それどころか 「もうちょっとできるやつだと思っていたが」 と吐き捨てるほどだ。
「特に長い歴史を持つ上場企業などに多く見られます。 あなたのしていることはパワハラですよ、と指摘しても、 『そんなことを言われるのは心外だ。 あいつはこのくらいのことをしないと伸びない』 と判で押したように否定します。 共感力がないのが共通項なので、相手の心中を想像できないのです」
 そう話すのは、 『クラッシャー上司』 の著者で、医学博士で産業精神医学・宇宙航空精神医学の専門家でもある松崎一葉氏。 15年ほど前、産業精神医学の専門家としてある職場のメンタルヘルスケアをしていたところ、優秀な社員のように見えて実はメンタル不全を起こしているケースが散見された。 その原因を探る中で共通項として浮かび上がったのがクラッシャー上司の存在だったという。

 例えば、部下につきっきりで指導する、一見親切に思えるクラッシャー上司。 文字通り “つきっきり” で、朝から晩まで、さらには休日も部下と椅子を並べて指導する。 もともと仕事に熱中すると寸暇も惜しむタイプで、自分と同じペースを強要するため、トイレすら上司のタイミングに合わせるほかなかったという。 部下は結局メンタルをやられ、出社できなくなってしまった。

 次は部下に弁解を許さず攻め上げるクラッシャー上司。 揚げ足取りの名人だ。 部下は言葉のサンドバッグ状態でボロボロにされてしまう。 さらにクラッシャー行為は社内だけで終わらない。
「部下が服従すると機嫌が良くなって、仕事あとに部下を連れて自分の顔が利くちょっといい店に連れていき、グルメ漫画で得た程度の薄いうんちくと自慢話をえんえんと語ります。 これは彼らの自己承認欲求が強いせいで、それを満たすための行為です。 先日聞いた話では土日もクラッシャー上司の趣味の釣りにつきあわされることもあるそうです」
 モンスターはなぜ生まれるのか? 例えば松崎氏の著書に登場する、X氏というクラッシャー上司は、エリート中のエリートだが、部下が失敗でもしようものなら自室で2時間は説教、反論すれば論破しコテンパン。 そのくせ部下の手柄は自分のものにし、うつで休職すれば 「うつなんてないんだよ!」 と吐き捨てる気分屋。 最悪最強のクラッシャー上司だ。 松崎氏はこの上司の生い立ちをヒアリングしている。

 X氏は、幼少時から友人と遊ぶことなく勉強に励み、成績を上げたときでも父親から褒められたことは一度もなく、それどころか、厳しい言葉が返ってきたという。 これでは部下を褒めることはできない。

 そして、大学入試で本来の志望校に入れなかった挫折感を虚勢で補い、自分の中で下がってしまった自己評価をモンスター行為で補っていたのだ。 X氏は結局、途中で面談に応じることをやめてしまったという。

 モンスター上司のなかにはX氏のように未成熟な自己愛の持ち主も多いようだ。 生い立ちに同情する部分はあるが、攻撃される方はたまらない。

 では、どうすれば彼らの攻撃をかわせるのだろうか?
「中小企業なら、嫌ならばやめてしまうケースがいちばん多いですね。 ところが大企業だと “せっかく入社できたのだし” と頑張ってしまうので問題です」
 大企業にはバブル時期に膨大な利益を上げた実績があり、終身雇用も根強く残っている。 そこにクラッシャー上司が巣くう隙ができてしまうという。

 松崎氏は終身雇用型の日本の企業のあり方も問題だと指摘。 欧米のようなジョブ型社会構造になれば、職場を変えることでクラッシャー上司から逃れることも容易になると説いているが、それにはまだ時間がかかりそうだ。

 しかも、クラッシャー上司には成績を上げることに秀でている人が多い。 仮にクラッシャー上司を解雇すれば、一時的に企業の売り上げが下がることも考えられるという。
「ポイントになるのは、中長期的な視点で見た場合、優秀な部下をつぶされることによる損失と、その部下が健康で仕事をして生み出すであろう利益のどちらが上回っているかで判断すべきだということです。 クラッシャー上司は確実に若手のエース級人材をつぶしてしまうので、会社が存在を許さないようにするべきです」
 企業がその手段を取れず、不幸にしてクラッシャー上司の部下になってしまった場合は、相手が精神的に未成熟であると思いながら、会話の中でうまく受け流すしかない。 話を途中でそらすのも手だ。

 今、まさに追い詰められている人がいるなら、 すぐに休職や退職をしてまず目の前のクラッシャー上司から逃げることだ。 そして落ち着いてからしかるべき機関に相談すればよい。 まずは、心身の健康を取り戻すこと。 上司につぶされて自慢のネタにされるなぞ、 冗談では済まないのだ。