( 2017.06.21 )
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人事評価制度がマトモに機能していないなど、マネジメントに問題がある会社に生息しがちな「吸血社員」。ヤル気のある社員からエネルギーを奪うくせ者だ
 驚くほど仕事ができないが
 おじさん社員のウケは上々


 Aさんは、都内の中小企業に勤めている。 中小企業といっても職員数は1000名弱の大所帯の企業である。 そのAさんからこんな話を聞いた。

 その企業は、半官半民の事業を請け負う会社で、基本は事務仕事が中心だ。 正社員は全体の半分以下で、残りは嘱託社員と外部からの派遣社員で構成されている。

 Aさんの部署には、2名の正社員と、Aさんを含む2名の嘱託、そして6名ほどの派遣社員で仕事を回している。 問題は、もう1人の嘱託、Bさんという女性社員だ。

 Aさんは主に経理系、Bさんは企画・総務系に分かれて仕事をしているが、このBさんは勤続15年におよぶベテランだ。 本来嘱託はそんなに長く働けないのだが、子会社などの所属を転々としつつ、長い間同じ会社にいる。

 最近わかったのだが、このBさん、驚くほど仕事ができない。 必要な企画書、出張書類1枚まともに書けない。

 もともと、Bさんの主な仕事は、社の主催するイベントの企画運営だ。 関係者と打ち合わせをしたり、イベント参加者を募るための広告を打つといった類の仕事がメインだった。 そのための打ち合せ( と称した飲み会 )や、正社員である上司との会合には決して欠席しない。 社交的で話し上手、上司のおじさんたちの受けは大変良い。

 社内各部署で開かれる飲み会にも、所属部署でなくても率先して参加する。 当然のことながら、お酒も強い。 宴席に遅れてきたBさんは、上司に 「Bさーん、座る席ないなら、僕の膝にくる?」 などと、セクハラど真ん中の冗談を言われても、 「わーい、特等席!」 といってちょこんと座るふりをして、場を盛り上げる。 すっかり、上司のマスコット的存在になっていた。

 その一方で、実務については派遣社員に任せきりで、自分は書類仕事を一切行わず、15年も過ごしてきていたのだ。


 まったく仕事をしないBさんに
 派遣社員たちが反乱を起こした


 昨年から、部署の派遣社員が入れ替わり、新しい人たちが書類仕事をするようになった。 経験のない彼らは、書類のフォーマットや細かい手続きについてBさんに尋ねるのだが、 「私は忙しいの。 あなたたちに説明している時間はないから」 の一辺倒で、全く埒が明かない。 仕方なく彼らは、正社員である若手の上司に尋ねるか、Aさんのところに聞きに来るのだ。

 Aさんは、次第に派遣社員からBさんへの不満を聞くようになった。 最近のBさんは、社外との交渉の仕事もほとんどしなくなっているというのだ。 どうやらBさんは、イベントに際して、かつては、さまざまな社外への交渉( 広告ポスターの発注、会場の確保、お弁当などの手配 )は、旧知の友や以前の会社の知り合いに頼んでいたらしい。

 ところが時間の経過とともに、それらの人々が退職、異動などでいなくなってしまうと、引き受け相手がいなくなってしまい、 「全く仕事がこなせない」 状況に陥っていたのだ。 新規に取引先を探すこともせず、それも含めて派遣社員に押し付けていたのだという。

 そのくせ、 「あなたたちのせいで、イベントに全然人が来ないじゃない! 恥をかくのは私なんだから、しっかりやってよ」 と文句を言う。 そこで、頭に来た派遣社員らが集団で若手上司に現状を訴え、彼女にも事務仕事を手伝わせるようにした。

 その上司に言われて、Bさんはしぶしぶ事務仕事をするようになったが、Bさんの作成した書類を見てみんなビックリ。 15年も勤務しているのに、出張書類、出入金書類を含め、全く書類を作成できないのだ。 書式もフォーマットも、記入情報も何もかもがアウト。 派遣社員たちは頭を抱えてしまった。

 彼女のダメ書類を直す手間を考えたら、自分たちでやってしまった方が早い。 しかしそうすると、彼女は全く仕事をしない。 そのくせ、派遣である自分たちより、はるかに高い給料をもらっているのだ。

 派遣社員らは、再び上司に訴えたという。 「彼女にも仕事を覚えさせてください」 と。

 だが帰ってきた答えは 「あの人、もうずっとこの調子でさ。 言っても聞かないからね。 教えても無駄な人に時間と労力を割くのはもったいないよ」 だった。

 どんなに訴えても、結局Bさんはラクをし、そのしわ寄せで自分たちに仕事が回ってくるだけだと知った派遣社員たちは、当然不満の塊となる。 残業時間は50時間以上の派遣社員。 一方、Bさんはその間、社内の飲み会を巡り、自分のさらなるポジション確保に余念がない。


 上司の覚えがめでたい原因は
 不正経理にあった!


 派遣社員の中には、気が利き、仕事もでき、正社員として採用したいほどの実力の人もいるのだが、そういう人ほど、Bさんの搾取対象になってしまう。 彼らのモチベーションはダダ下がりで、契約更新する気のある人など誰もいないという。

 Aさんも勤続10年を越えたベテランなので、Bさんのことはいろいろと聞いてはいた。 だが、なぜBさんがあれほどまでに上司受けがいいのか理解できていなかった。 ところがある日、Bさんに関する不穏な噂をAさんは聞いた。 Bさんが勤務を開始した当初、 「Bさんは、いつも迅速にお金のやりとりを解決してくれる。 他の誰もできないことをやってくれる」、それが、彼女がかつて得た賛辞だったそうだ。

 実は、Bさんは正式に経理を介さないルートで現金を出し入れしていたのだという。 一般的に、公の仕事を請け負う際には、証憑整備を完璧にしなければならないのに加えて、支出可否の確認にも時間がかかる。 さらに面倒な書類手続きを踏まえて処理が行われるため、振り込み等には下手をすると数ヵ月という時間がかかる。

 しかし、上司は時として、取引先との関係から、至急の現金準備や振り込みを職員に要望することがある。 正式には、一時的にそのお金は上司が立て替えて、正規手続きを経てお金が振り込まれるのだが、その手続きの一部でも不備があると、支払いが遅れるばかりではなく、不認可の末、回収不可能となるケースが発生する。 上司としてはぜひそれは避けたい。

 Bさんは( そもそも社の経理処理手続きが煩雑ゆえに苦手だったことも手伝い )、個人的に別口座を作り、うまくやり繰りして出した余剰金をプールしておき、状況に応じて、そこから上記のような経費を捻出していたのだ。 そして驚くべきことに、上司たちはそのカラクリをわかっていなかったのだ。

 上司たちは、自分たちの立て替えたお金をもらうのに、面倒な手続きが必要であることすら知らなかった。 Bさんが、いつも 「はいどうぞ」 とお金の工面をしてくれたからだ。

 今では会計処理が厳しくチェックされることとなり、かつてBさんが行った手段は一切厳禁。 しかし、かつて彼女が得た 「優秀な職員」 という 「名声」 は今も轟き、噂が独り歩きしていたのに過ぎなかった。 ニセの名声に胡坐をかいたBさんは、こうして社内の経理ルールや手続きなどを一切学ばないまま、現在に至るのである。


 無能な人事権を持つ上司が
 吸血社員をのさばらせる


 割を食うのは、真面目にやっている他の社員だ。 Aさんも上司に 「なんでそんなに振り込みに時間かかるの? サボってるんじゃないの? Bさんはもっと仕事早いよ」 と言われたことがあり、その時はなぜなのかわからなかったが、その噂を耳にしてから合点がいったという。

 Aさんは上司に、Bさんのかつてのカラクリを含め、彼女の現在の酷い仕事ぶりを訴えようとしたが、友人に止められた。 「上司だって不正経理に加担していた責任を取らされるようなことは避けたいだろう。 なんだかんだイチャモンをつけられ、あなたがクビになるだけだよ」 と友人は言った。

 結局、Bさんの地位は今日も安泰。 派遣社員は毎年入れ替わるという事態が続いている。 ひどい話だ。

 「働き方改革とか言うけどね。 Bさんみたいなのをのさばらせている時点で、皆働く気なくするよ」

 Aさんはこう語っていた。 当然だ。

 Bさんのような社員は、自分より下の派遣社員や他の社員を養分にしている寄生社員であり、彼らの労働力を吸い取る吸血社員だ。

 そしてこのような事態を招いた一番の責任は、人事権を持つ上司にあることは間違いない。 人事評価制度はあるが、それが機能してこなかったため、 「公正なアセスメント」 の重要さもノウハウも知らない。 このような事態は、最初から360度評価を行えば、すぐに見つけられるし対処もできたはずだ。

 グダグダしている間に、上司たちは彼女の不正経理の片棒をも担いでしまったのだとしたら、残念ながら、社長レベルか、社外から大ナタを振るう以外、もう打つ手はないだろう。 だが、それは当然ながら痛みを伴う改革となる。

 このように管理職や経営陣が、きちんとした人事マインドと戦略を持っていないと、組織は長い間に腐敗する。 業務がうまくいっていても、その背後に上記のような、寄生社員とそのしわ寄せを食う真面目な社員がいては、働き方の改善などできるわけがない。

 働き方改革が叫ばれる今、経営者や管理職は社員や部下が本当にどんな働き方をしているのかを自分が理解しているか、自問する必要があるだろう。