English
英语
영어
( 2019.07.29 )
REIWA


 日本人のパスポートの氏名表記には、アメリカ人医師のヘップバーン博士が考案した 「ヘボン式」 ローマ字が使われる一方、学校では 「訓令式」 ローマ字が教えられている。 その違いについて考える前に、まず、日本人の間でよく見られる誤解を解いておきましょう。

 最初に考えて頂きたいのですが、 「英語のお名前をお持ちですか?」 と聞かれたら、どうお答えになりますか? 日本人なら 「持っていない」 と答える方が多いでしょう。 それは正解で、アメリカ人だったが日本に帰化した、イギリス人と国際結婚した、英語圏生まれの二重国籍で英語の名前も持っている、というようなケースを除いて、一般論として言えば、日本人は英語の名前というものを持っていません。

 日本のパスポートに記載されている氏名は、海外向けに、日本語がわからなくても読めるようにローマ字を使って名前を書いたものですから、 「ローマ字表記」 された名前です。 英語名ではなく、名前の英語表記でもありません。 ところが、この区別がつかず、混同されることがよくあります。 「パスポートに記載されているのは、自分の名前を英語で書いたもの」 だと思っている方は、結構いらっしゃるものです。

 英語もローマ字も同じものと思ってしまいがちですが、きちんと分けて考えれば簡単です。 日本語を英語にするというのは、日本語を英語に訳しているのであって、日本語を英語で書いているわけではありません。 例えば就職試験やクイズで 「この文章を英語にしてください」 という問題を出すなら、 「英語に訳してください」、 「英語ではなんと言うでしょう」 という意味にとらえることができるのでOKですが、 「この文章を英語で書いてください」 としてしまうと、その問題自体が間違っていることになります。 「英語ではどのように書くでしょうか」 という質問なら、英語として別の文章に書き直すということを示唆しているので、これも一応OKですが、それよりは 「英文にしてください」 とするほうが、問題の意図がはっきりします。

 一方、ローマ字は、 「語」 ではなく 「字」 ということからもわかるとおり、言語ではなく、文字のことです。 日本でのローマ字は、日本人の名前の漢字にひらがなやカタカナを使ってふりがなを振るのと同様に、海外の人でも読めるように、ふりがなの代わりのようなものとして使われています。 つまり日本で、ローマ字は、漢字、ひらがな、カタカナと合わせて、日本語を書くために使う文字の一つなのです。 過去に、漢字を廃止して国語としてローマ字を導入するというローマ字運動というものがあったように、日本語の文章をローマ字だけで書くことは可能です。 ですから、英語と違って、 「この文章をローマ字で書いてください」 という問題は、大人にとっては少し変に感じるかもしれませんが、学校のローマ字教育では 「あり」 なのです。

 「英語で書いた日本語」はない、でも 「ローマ字で書いた日本語」 はある。 こうして整理してみると、違いがわかりやすくなるでしょう。


 ローマ字と英語の混同があちこちで

 ところが、日本人の名前のローマ字表記を 「姓」 → 「名」 の順でという方針が発表された時、マスコミ報道の中にも 「英語の名前表記」 とし、ローマ字と英語が混同されているものを見かけました。 外務省ホームページ英語版の首相の氏名表記について書いた記事でしたが、日本人の名前に英語版はありませんから、ホームページが英語版でも日本人の名前までもが英語になることはないのですが …。

 もう一つ最近の例を挙げると、新元号の 「令和」 が発表された時にも、 「英語ではREIWA」 というようなものをネット上でちらほら見かけました。 しかし、日本独自文化の元号に英語名などはありません。 このREIWAについては、REIWAなのかLEIWAなのか、という点で注目されましたが、外務省が海外に向けて 「 『令和』 のローマ字表記は 『REIWA』 と通知した」 と伝えられているとおり、REIWAは英語でも英語名でもなく、 「令和」 をローマ字で書いたものです。 このローマ字表記が、公文書で用いられるとされる訓告式、海外向けに用いられることの多いヘボン式のどちらなのかについては発表がなく、うやむやにされた感がありますが、いずれの方式でも令和の 「れ」 はREと表記されるので、変わりはありません。

 そして、ご記憶されている方も多いと思いますが、発表の際に 「 『令和』 は英語ではbeautiful harmonyというような意味になる」 といった説明もありました。 これらの説明に沿えば、 「令和」 をローマ字で書くとREIWA、英語では、beautiful harmony。 そして、beautiful harmonyは英語名ではなく、令和の意味についての一つの英語訳、ということになります。 これもまた、整理して考えればわかることなのですが、アルファベットを使って書くと、日本語が突然、英語に変わるという魔法を信じている人が、日本ではどうも多いようです。

 ローマ字書きの日本語が英語にもなるという例外は、karaoke(カラオケ)、emoji(絵文字)など、日本語がそのまま英語の中で使われるようになっている場合です。 カラオケはアメリカ人の間でもとてもポピュラーな娯楽になっていますが、アメリカ人が発音すると、カラオケではなく、 「カラオキ」 に近くなり、イントネーションも違ってきます。 日本人の耳にはなまって聞こえるそのkaraokeという単語は、もはやローマ字書きの日本語ではなく、英語になっていると思っていいでしょう。 さらにkaraokeやemojiは、英語のみならず、世界の多くの国の言葉にそのまま取り入れられていて、世界共通ワードになっています。 日本発の発明品や日本文化が世界に広がることで起こる、日本語の多言語化現象です。

 また、ここ数年、外国人向けの表記については変化が起こっています。 最近の訪日外国人旅行客の増加にともなって、外国人にもわかりやすいように新しく地図記号が作られたことをご存知の方は多いと思いますが、それに加えて、富士山はFujisan からMount FujiあるいはMt. Fuji、隅田川はSumidagawaからSumida Riverなど、これまでローマ字で表示してきた地名を、ローマ字と英語を組みわせて表記して、英語風にすることも多くなっています。 これについては国交省の国土地理院が 「地名の英語表記のルール」 として発表していますので、より詳しくお知りになりたい方は、国土地理院のホームページをご覧になってみてください。 来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、これまでのローマ字だけの表記から、こうしたローマ字と英語を合わせたハイブリッド表記が増えていく模様です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~