「男は永遠の少年なんだよ」。 まだ20代の頃、当時の先輩男性社員たちがよく言っていたものだった。 彼らは 「いつまでも少年の心を持ち続ける純粋さ」 という意味で、この言葉を使っていたのだろう。 確かに 「永遠の少年」 は今も会社にたくさんいる。 決して良い意味ではなく。
![]() 突然の怒鳴り声に、周辺は凍りついた。 声の主は小学生や中学生ではない。 立派な社会人かつ40代後半のベテラン、Aさんだ。 同じ部署ではなかったのだが 「この人、大丈夫か?」 と本気で心配になるほど、彼は驚くほど感情を出す人だ。 少しでも自分の思いどおりにいかないと、怒鳴り声をあげる。 たとえ相手が上司でもクライアントであっても同じだ。 上司はともかく、クライアントに対しては 「えっ? その威圧的な言い方、大丈夫?」 とこちらがヒヤヒヤするほどだった。 |
怖いのはこういう人がひとりいると、まわりに伝染することだ。 Bさんは40代前半。 Aさんのように、クライアントに対してはめちゃくちゃなことはしないが、特定の上司に対する態度がひどい。 ある日、上司が彼のデスクへやって来て、業務の指示を受けた彼は、いきなりぶちギレ 「そんなのできるわけないでしょう!!」 とフロア中聞こえる声で上司を罵倒した。 まさに罵倒という言葉がぴったりのキレぶり。 そんなに無茶苦茶なことを言われていたのかと思いきや、近くにいた女子社員に聞くと 「たいしたことじゃなくてもすぐにキレるんですよ。 Aさんの真似をしているんですかね」 と冷たく言い放っていた。 すぐキレる人にはなるべく近寄りたくはないのだが、増殖を止めるには、どこかで誰かがしっかり注意をするのが必須。 そうでなければ最悪の職場環境になってしまう。 |
思ったことをすぐに口に出してしまう人と仕事をしたことがあるだろうか? 何度か経験があり、かなり疲弊した覚えがある。 例えば40代後半のCさん。 「え~、こいつマジか~」 「やべっ!失敗した」 といちいち口に出す。 最初はこちらに話しかけているのかと思い、反応していたのがいけなかった。 どんどんエスカレートして、ひとつ行動を起こすごとに、なにかしらつぶやく。 またこういう人は、えてして耳をダンボにしている人が多く、他人の会話をしっかり聞いている。 それに対して 「バカじゃねえの。 ○○に決まってるじゃん」 「なんで俺に聞かないの? 感じ悪っ!」 など、いちいち反応して悪口を繰り返す。 |
同期のI子は、ちょっと違うタイプの 「かまって男子」 に食いつかれたと嘆いていた。 仕事はテキパキこなし、分からないことは丁寧に教えてくれる人だが、なにせプライベートの無駄話が多い。 その内容というのが自身の浮気話。 「私もさ、浮気なんて!って、いちいち目くじらは立てないけど、いくら他で話せない内容とはいえ、どうかと思うわよ」 とI子。 「『俺ってモテるんだぜ』 という武勇伝を自慢したいんだろうけど、どう考えても仕事中に話す内容じゃないよね。 私も最初に聞いてあげたのがマズかったと反省してるけどね」 とI子はため息交じりに話していた。 「かまって男子」は、最初が肝心。適当に無視をしなければ、仕事に支障が出るし、何より疲れてしまう。 ある程度のコミュニケーションは必要だと豪語する人ほど、やりすぎる傾向がある。 基本、仕事というのは無駄話をしないでこなすものなのだ。 |
社会人経験が長くなると、若手の指導を任されることがあるだろう。 経験があるが、いまどきの男性社員にびっくりさせられることがあった。 ある日、直属の上司Dさんに 「ちょっと会議室へ来てくれる?」 と呼び出された。 なにごとかと思ったら、渋々Dさんが切り出す。 「いや、この間入ったEくんがさ、吉永さんの指導が厳しいって、俺に泣きついてきたんだよ」 はあ?? と思わず聞き返した。 確かにその日は、言われたとおり処理をしないEくんに対して、勝手な判断をしないよう少し厳しく注意をした。 しかし決して今話題のT代議士のような恫喝はしていないし、暴言も吐いていない。 「毎日Dさんも聞いていますよね? 私たちのやり取り。あれが厳しいんですか?」 「俺は全く普通だと思うけど 『ボク、あんなふうに厳しく言われるのは初めてです!』 なんて言うからさあ…」 と困り顔のDさん。 埒のあかないやり取りが続き、最終的にDさんが 「まあ、吉永さんのEくんを育てたい気持ちはわかるけど、適当にやってよ」 というところで決着した。 適当ってなんだよ… と思ったが、結局Eくんは、他のメンバーともうまくやっていけずに退職した。 |
また逆のこともあった。 有名大学を卒業して入社してきたFくんは、上司に呼び出されて注意を受けるたびにメールをしてきた。 「○○さんに、こんなことを言われました。 すごくムカつきます。 吉永さんも○○さん、嫌いですよね?」 などと、書いてくる。 またことの経緯を細かく書いてくるものだから、メールが長い。 「思いを書くことは、ストレス解消になる」 と何かで読んだことはあるが、送りつけられるこちらは、たまったものではない。 無視をするわけにもいかないので、とりあえず返信はするのだが、面倒なことこの上ない。 あとから別の女子社員に聞いたのだが、同様のメールをいろいろな女子社員に送っていたらしい。 女子社員限定のところが謎で気味が悪いし、何より仕事中に何をやっているのだとツッコミを入れたくなった。 あなたのまわりにも、これらの 「小学生男子」 たちは、いないだろうか。 何よりあなた自身は大丈夫だろうか? 「ストレスをためたくないから」 という理由で、感情のおもむくまま行動するのは、会社では絶対におすすめできない。 その行動が会社の雰囲気を一気に悪くするのは、間違いないからだ。 「小学生男子だって、こんなにひどくない!」 と現役の小学生から、クレームがきそうだが…。 |
モンスターペアレント( 以下モンペ )というと、学校を舞台にしたトンデモ話をイメージする人が少なくないだろう。 ところが、モンペは会社にもやってくるようになり、モンペに悩まされる上司たちも少なくない。 モンペからの執拗な攻撃で、うつやうつに近い状態になった上司がカウンセリング相談に来るのだ。 モンペの事例を取り上げながら、モンペの親を持つ部下とどう接すればいいのかについて考えてみよう。
部下の親がモンペかもしれない …… |
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ところが、モンペは会社にもやって来るようになった。 子どもの勤め先に乗り込んで来たり、電話を執拗にかけてきて 「あの会社は最悪」 「あの上司はパワハラしている」 などと上司に文句をつけ、あることないことを言いふらすケースが増えてきている。 部下の母親から執拗な攻撃を受け、うつやうつに近い状態となった上司たちが相談に来ることがある。 住宅販売会社に勤める係長の木下浩( 41歳 )さんもその1人だ。 木下係長の勤務先はA支店で、総務なども含め全12名いる。 このうち、係長がいる営業チームは木下さんと、部下の山田さんの2名体制。 山田さんは木下係長よりも10歳若く、3年前に他の住宅メーカーから転職してきた。 「仕事への熱意が薄く、面倒くさがりの面はあったが、問題児だとは思わなかった」 木下係長は彼の入社当時を振り返る。 ある日、山田さんが突然会社を休んだ。 その連絡をしてきたのが山田さんの母親で、これがモンスターママ( 以下、モンママ )との最初の接触だった。 電話の向こうでモンママが言う。 「うちの子の具合が悪いので休ませていただきます」 上司の木下係長は驚いた。 彼が実家暮らしをしていることは知っていたが、なぜ母親が電話してきたのだろうか ……。 「きっと本人が電話できない事情があるのだ。事故やケガで入院したのかもしれない。 あるいは電話口に出られないような大病なのかもしれない ……」 そんな心配が脳裏をよぎった。 ところが、母親は単に具合が悪いだけだと言う。 木下係長は釈然としなかったが、強い口調で話す母親に、それ以上のことは聞けなかった。 |
エスカレートするモンママの攻撃に 上司の体調は次第に悪化する |
翌日、山田さんは出社した。 「大丈夫か?」 と聞いても 「大丈夫です」 としか答えず、彼はその日定時で帰った。 その後、彼は体調不良で休むことが増えていった。 少なくとも週に1日は休むようになり、多い時は週に3日休んだこともあった。 彼が休めば、係長が2人分の仕事を1人でやらなければならない。 取引先を回り、会社に戻って資料をまとめる。 会議に出て、また取引先のところへ出かける。 終電まで働く日が増え、疲労が蓄積していった。 一方、山田さんの母親からの電話が頻繁にかかってくるようになり、 「息子の残業が多い」 「体調が悪いのに働かせすぎではないか」 といった抗議の内容が多く、母親の口調はだんだんきつくなっていた。 「最初は何が起きているのかわからなかった」 と、木下係長は言う。 母親の抗議に対して、木下係長は私に部下の勤務状況を打ち明けた。 「山田さんの母親は残業が多いと言いますが、実際には1時間くらい残業する日がたまにある程度で、定時で帰ることの方が多い。 本人の体調不良も考慮し、極力早く帰そうとしていたくらいです」 ところが母親の電話攻撃は止まらない。 彼に仕事を任せると 「押し付けている」 と言われる。 大変だと思って手伝おうとすると 「息子をバカにしている」 「能力を見る目がない」 と言われるのだった。 何とか部下との距離を縮めようと、木下係長は彼を飲みに誘ったこともあった。 しかし、体調が良くないと断られた上、翌日に母親から案の定電話があり 「パワハラだ」 と言われたという。 どう対処したらいいのかわからなくなり、この頃から木下さんは体調を崩すようになっていった。 終電まで働く日が増えていたこともあって、体力的にも精神的にも限界だったのだろう。 友人の紹介でカウンセラーのことを知り、相談に来たのである。 その後も木下係長は出社し続けているものの、モンママの電話攻撃もさらにエスカレートした。 「昨日、取引先との打ち合わせを終え、スマホを見たら母親から十数件の不在着信がありました。 会社に連絡すると、隣の課の後輩が 『折り返しの連絡がない。 どうなっているんだって怒鳴られました。 何かあったんですか?』 と心配してくれたんです」 木下係長はモンママの電話攻撃の始終をこう報告してくれたのである。 モンペからの攻撃で、木下係長のケースのように、うつやうつに近い状態になったケースは決して他人事で済まされる話ではない。 いつか自分の身にも振りかかる恐れがあるからである このケースのように行き過ぎた行為に対しては、会話を録音しておき、証拠を残す方法を考えたほうがいいだろう。 ただし録音内容を第三者に聞かせたり、ネットなどで公開したりといった行為をすれば、プライバシー侵害、名誉毀損等で違法となる可能性もあるので留意してほしい。 会社としては第三者の機関( 会社の顧問弁護士等 )に相談し、録音等を含めた対策を早急に講じてほしいと思う。 |
モンペの子を見抜く10の特徴とは …… |
「自分のチーム( 部署 )の中にも、モンペの親を持つ部下や後輩がいるかもしれない …」 上司にとってそういう不安は尽きないだろう。 では、どうすればモンペの子を見抜けるのだろうか。 モンペの子には、モンペに似た行動をするという特徴がある。 なぜなら、モンペの子は親の影響を強く受けているため、親の価値観や考え方、行動についても、親が正しいと思うことを判断基準としているからだ。 性格面では、モンペは 「自分が一番であり、中心であり、特別扱いされるべき」 という利己的な考え方をする。 自分の子どもに対しても 「私が育てた子どもなのだから、子どもも特別扱いされるべき」 と考える。 一方、モンペの子もその点が似ていて、自分がぞんざいに扱われた、あるいは自分の価値を傷つけられたと感じれば怒りを感じる。 プライドが高く、自分は素晴らしく特別な存在だと思い込もうとする傾向も強い。 部下や後輩にそのような行動が垣間見えたら、その後ろにモンペが控えている可能性が高いということだ。 その他の特徴としては、以下のようなものが挙げられるだろう。 これらは誰もが少なからず持っている素質だが、どれか1つが極端に突出していたり、複数の特徴が当てはまる部下には注意してほしい。 |
自己肯定感を高めるには取り組む姿勢を褒めるのがカギ |
「彼( 彼女 )の親はモンペかもしれない」 そう感じたら、接し方に注意しよう。 ポイントは安易に否定せず、プライドを傷つけないように配慮することだ。 モンペの子は、多くのモンペがそうであるようにプライドが高い。 そのため、ちょっと指摘しただけでも、必要以上に傷ついて落ち込んだり、怒ったりする。 その話を家に持ち帰って親に話したらどうなるか。 モンペが逆上して 「パワハラだ」 と攻撃してくるのはいうまでもない。 そういう状態から抜け出してもらうためには、安易な否定を避けるとともに、仕事などに取り組むプロセスを褒めるのがいいだろう。 例えば、部下が難しい仕事に取り組んでいる時、結果はとりあえず気にせず、仕事のプロセスに重点を置き、親身になって支援することだ。 これはアドラー心理学で重視される勇気づけのプロセスに基づいている。 上司が取り組みを褒めてくれると実感できれば、成果が出なかったとしても、取り組んだこと、頑張ったことに自信が持てるようになる。 本人が失敗した時も素直に認めるようになり、そんな上司に対して親近感を持つようになるだろう。 そうすれば信頼関係も生まれやすくなる。 これもモンペの子との接し方で重要なポイントと言える。 なぜなら、モンペの子は極度に親に依存しているケースが多いため、親以外に信頼できる人を見つけることが重要であるからだ。 |
親にコントロールされる状況が長期化すればモンペの子は自信が持てなくなる |
モンペの子は、親によってあらゆる言動をコントロールされる。 その子がやりたいことがあっても親から 「ダメ!」 と否定され、好奇心や挑戦意欲が封じ込められる。 わかりやすく言えば、洗脳である。 子ども本人は自覚していないかもしれないが、新興宗教にハマった人の心理状態のようなもので、子どもにとってはモンペの親が教祖なのだ。 その状態が長期化すれば、あらゆる判断を親に依存するようになる。 そのため自分の行動を考えたり、自分が信じた通りにやってみたりする自信が持てなくなる。 そこで先ほど述べたように、上司が仕事に取り組む姿勢などを評価すれば、自分は自分のままでいいと実感しやすくなる。 自分の価値や考えを素直に信じられるようにもなる。 この感情を心理学で自己肯定感という。 自己肯定感が高い子ほど親への依存度が低くなり、社会人としての自立心も伸びやすくなる。 上司は部下の短所や欠点ばかりに目が行きがちだが、長所や才能に注目し、部下の良いところを引き出す努力が必要だろう。 上司が個性を認めれば、部下の自己肯定感が高まり、他人と比べることをやめて、失敗を恐れずに自分に与えられた課題に取り組むようになるからだ。 モンペの子は元々親の言うことをよく聞く素直さがあり、根が真面目な人も多い。 手間と時間がかかる作業であるが、彼らに組織の重要な戦力になってもらうには、上司がどう接していくかが問われていると思う。 |