「今日は頭が痛いと思ったら、やっぱり低気圧が近づいているみたい」 など、体調不良で天気をピタリと当ててしまう人は、皆さんの周辺にもいませんか? このような天気によって引き起こされる体調不良は 「気象病」 と呼ばれ、決して 「気のせい」 ではありません。 なぜ、天気が体調にも影響するのでしょうか。 「雨の日は頭が痛くなる」 「台風が近づくとぜんそくの発作が出る」 「梅雨時に古傷がしくしく痛む」 ――。 天気が原因で起きる体調不良は、医療現場では昔から 「気象病」 と呼ばれていました。 長年気象病について研究を行い、日本で初めて 「天気痛外来」 を開設した、愛知医科大学の佐藤純教授は、こうした症状を 「天気痛」 と呼びます。 気象病として最も多くの人が挙げる症状が頭痛。 ほかにも、首の痛み、めまい、耳鳴り、気管支ぜんそく、関節痛、神経痛、古傷の痛み、鬱や不安症なども気象病の症状のひとつです。 佐藤先生によると現在、気象病で悩む人は日本で約1000万人にも上る推定されています。 |
昔から、天気と体調には深い関係があることはわかっていました。 ただ、現代の生活習慣によって気象病になりやすい体質になったり、局地的大雨( 俗にいうゲリラ豪雨 )などの極端な気象現象が目立つようになってきたりすることで、年々気象病の患者数は増加傾向にあると思われます。 また、気象病についての研究が進んだのは最近のことなので、近年気象病が一般に認知されるにつれて、 「今までなんとなく感じていたあの不調は、天気によるものだったのか!」 と自分の気象病に気づくことも、患者数が増えている原因のひとつといえます。 気象病の主な原因は、気圧の変化。変化は急なほど症状が強くなります。 主に不調を訴えるのは気圧が低下するときですが、なかには気圧が上昇するときに不調を訴える人もいます。 気圧が変化すると、人間の体はストレスを感じるため、それに抵抗しようとして自律神経が活性化されます。 自律神経系には、交感神経と副交感神経があり、交感神経は血管を収縮させ、心拍数を上げて体を興奮させる働きがあります。 一方、副交感神経は血管を広げて体をリラックスさせる働きがあります。 この交感神経と副交感神経の調整がうまくいかないと、さまざまな体調不良の原因となってしまうのです。 気圧の変化に温度や湿度の変化も加わると、気象病の症状が出やすいといわれています。 実際に、1日の間に10度以上温度が変化したり、気圧が前の日と比べて10ヘクトパスカル以上変化したりすると、症状が出るという論文もあります。 特に症状が出やすい季節は、低気圧が定期的に通過する春や秋、梅雨時、そして台風が日本付近に接近する晩夏から秋にかけて。 冬に低気圧が日本の南岸を通過すると、太平洋側に雪が降ることがありますが、このときに症状を訴える人もいます。 これは上空にある寒気の存在もかかわっているようです。 |
「台風は、気圧の変化が急激なうえ、移動のスピードが速いので、いちばん痛みがつらいという患者さんが多い。 一方、梅雨は期間が長いので、体調不良を訴える人がじわじわと増える傾向にあります」 ( 佐藤先生 ) 夏場によく発生する局地的大雨も、気象病を招きます。 このような局地的大雨は、積乱雲によってもたらされます。 ひとつの積乱雲の大きさは十数キロメートル程度なので、日本全体が表示される天気図には 「低気圧」 とは表示されません。 しかし、積乱雲のあるところには激しい上昇気流が起こっています。 上昇気流が起こっているということは気圧が低いということです。 積乱雲ができれば急激に気圧が下がるので、気象病が起こるというわけです。 佐藤先生の元を訪れる人の中には、 「もうすぐ豪雨が降るよ」 と当ててしまう方もいるそうです。 また、必ずしも低気圧が来なくても気象病の症状が出ることもあります。 たとえば、 「高層ビルの展望台に行ったら関節痛が出てきた」 「飛行機に乗ったら耳鳴りがする」 というケースです。 高層ビルの展望台も飛行機の中も、地表よりは気圧が低いですし、エレベーターに乗っているときや離着陸時には気圧が急激に変化するので、うなずける話です。 では、気象病はなぜ起こってしまうのでしょうか。 佐藤先生は、気象病は 「耳が敏感な人がなりやすいのではないか」 と考えています。 この 「耳」 とは 「内耳」 で、鼓膜の奥にある、かたつむりのような形をした器官を指します。 佐藤先生は、これまで行ってきた実験から、内耳には気圧の変化を感じるセンサーがあるのではないかという仮説を立てました。 内耳で気圧の変化を感じると、センサーでキャッチした気圧変化の情報が脳へと入り、自律神経系を活性化させます。 ここで、内耳が気圧の変化に敏感だと、少し気圧が変化しただけでも、過剰に脳に情報が伝わり、交感神経か副交感神経が過剰に活性化されてしまいます。 |
交感神経が活発になれば痛みを感じますし、副交感神経が活発になればだるくなったり眠くなったりするのです。 気象病で神経痛や関節痛が起こるのは交感神経が活発になりすぎて痛みの神経を直接刺激したり、血管が過剰に収縮したりしてけいれんし、血管の周囲の神経を興奮させるから。 そして、古傷が痛むのは、脳が過去の痛みの記憶を呼び起こすからだと考えられています。 気象病に悩んでいる人は、乗り物酔いにも悩んでいることが多いです。 乗り物酔いをしやすい人は、内耳が揺れに敏感です。 一方、気象病は内耳が気圧の変化という 「揺れ」 に敏感だと起こるので、乗り物に酔いやすい人と気象病になりやすい人はある程度重なるのではないかと佐藤先生は考えています。 では、気象病はどのようにして予防すればよいでしょうか? まずは、自律神経系のバランスを整える生活を送ることを心掛がけることが大切です。 適度に体を動かし、起床時刻はなるべく毎日同じ時刻にして、朝食はしっかり食べましょう。 最近ではエアコンで夏は涼しく、冬でも温かく過ごすことができます。 こういう体にとってやさしい環境は、自律神経系の働きを弱めることにつながり、気圧の変化などで自律神経のバランスが崩れやすくなって、気象病に悩む人が増えている原因のひとつです。 たまには意識して汗をかくほうがよいでしょう。 また、気象病の人は耳の血流が悪い傾向があると言われています。 ですから、耳の血流をよくすれば、気象病の予防にも役立ちます。 |